女性の雇用問題に数多く取り組む、社会保険労務士の佐佐木由美子先生が、必ず知っておきたい出産・育児に関する法律の話をやさしく解説。「出産にはいくらかかるの?」、「育休はどのくらい取れるの?」という、学生A子の素朴な疑問をスッキリ解決しちゃいます!
最初から無理だと決めつけてしまうのは、もったいないですよ。今は、働きながら育児をする人たちをサポートする制度がどんどん整ってきています。
よく産休と育休はひとくくりにされますが、実はまったく違うものなんです。大きな違いは、産休は"女性だけ"、育休は"男女ともに"取得することができるという点。
まず産休は、「産前産後休業」を略した言葉で、出産準備と産後の母体を保護するため労働基準法で定められています。具体的には、出産予定日の42日(双子以上の場合は98日)前から産前休業を請求でき、産後は原則として56日間休むことができます。一方、育休(=育児休業)は、育児をするための休暇で、こちらは育児介護休業法という法律で定められています。
だから、"育児をする人"であれば、男性でも女性でも取得できるんですね。ちなみに、育休はどのくらいの期間、取得できるんですか?
原則として子供が1歳になるまで、本人が希望するまでの期間、取得できます。さらに、最近では「パパ・ママ育休プラス制度」という制度ができて、両親ともに育休を取る場合は、1歳2カ月まで取得できるようになりました。また、保育所に入れないなど一定の理由がある場合は、最長で1歳6カ月まで延長が認められているんですよ。
へぇ。産休も育休もしっかり法律で決められているなら、安心して取得できますね。でも、産休や育休を取っている間は、取る前と同じように給与がもらえませんよね。そうなると、生活が大変になるんじゃ......。
実は、産休や育休中は、本人と会社が保険料を負担している社会保険(健康保険や雇用保険)から、給付金がもらえるんです。
えぇ! そうなんですか!? とはいえ、働いてるわけじゃないから、どうせ大した額ではないですよね?
い金程度だと思っていたら、大間違い。「思っていた以上に、もらえた」という声もよく聞きますよ。
具体的には、いくらくらいもらえるんですか?
まず、働いている・働いていないにかかわらず、被保険者またはその扶養家族であれば、必ず「出産育児一時金」(被扶養者の場合は「家族出産育児一時金」)として、子供1人につき原則42万円がもらえます。さらに、産休中の女性社員には、健康保険から「出産手当金」として、"標準報酬日額(*1)の3分の2相当額"が支給されます。
3分の2は大きいですね! 育休中もお金はもらえますか?
もちろん。雇用保険の被保険者であれば、「育児休業給付金」として"休業開始時賃金日額(*2)の50%相当額"がもらえます。実はこの「育児休業給付金」、本来は40%ですが、当面の間50%にアップされているんです。いつまでとは決まっていないんですが、しばらくはずっと現状のままだと思いますよ。
それは、非常におトクですね!
ただし、気をつけないといけないのは、育休の取得や、育児休業給付金の受給には、一定の要件をクリアしている必要があるので、法律で定められている内容はもちろん、会社の労使協定(*3)なども確認しておくといいでしょう。
なるほど。会社によってもルールが変わるんですね。気をつけます!
ほかにも、働くママに有利な制度って、ありますか?
あります。ひとつめは、「社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の免除措置」です。これは、育休を取っている期間であれば、最長子供が3歳になるまで保険料を免除してもらえる制度。しかも、ただ免除されるだけでなく、その期間は保険料を払ったものとして、将来の年金を計算してくれるという嬉しい特典付きなんです。
次に、育休後にぜひ申請したいのが、「厚生年金保険における養育期間の特例措置」です。これは、子供が3歳になるまでの間に標準報酬月額が下がった場合、下がる前の高い額で保険料を支払ったものとして年金額を計算してくれます。しかも、育児以外の理由......引っ越して通勤手当が下がった、不景気で残業代が少なくなったなどでも、男女ともに適用されるので、知っておいて損はありません!
ほかにも、育児休業から復帰した人にだけ認められる「育児休業終了時報酬月額変更届(*4)」など、育児をしながら働く人に心強い制度が充実しています。
払っていないのに、また、払う保険料が少ないのに、払ったものとして扱ってくれるなんて、ラッキー! だけど、私が働くママになるのはまだ先の話......。その頃も今と同じように手厚いサポートが受けられるのでしょうか?
むしろ、ますます手厚くなっていくはずですよ! これまでお話しした支援のほかにも、平成22年に行われた育児介護休業法の改正で、「短時間勤務制度(*5)」や「所定外労働の免除(*6)」など、育児をしながら働くママやパパがもっと働きやすくなりました。また、「社会保険料の免除措置」も、今は育休中だけですが、産休中も免除される予定ですので、むしろ、これから社会人になる人たちがママやパパになるころには、いっそう優しい社会になっているはずですよ。
聞けば、聞くほど、出産後も働くビジョンが見えてきました!
その意気です。こうしてさまざまな優遇が受けられるのは、あくまでも"会社が保険料を半分以上払っているから"ということを忘れずに。さらに、育児休業を取って、戻れる場があるというのは、新卒の学生でさえ就職が厳しい時代に、実にありがたいことだと思います。ですから、最初から「妊娠したら会社を辞める」ではなく、出産・育児をする人に与えられた権利をよく理解した上で、自分の働き方・生き方を選んでくださいね。
■佐佐木由美子先生プロフィール
社会保険労務士。グレース・パートナーズ社労士事務所、グレース・パーナーズ株式会社代表取締役。社会保険労務士としての活動に加え、育児休業手続キット「IKU cute」の開発や講演、執筆でも活躍。著書に『35歳までにはぜったい知っておきたい お金のきほん』(アスペクト)。
★ワードの補足説明★ *1 標準報酬日額 4月・5月・6月の3カ月間の給料の平均で決まる「標準報酬月額」を30日で割った金額のこと。標準報酬月額には、基本給以外に、残業代や通勤手当などの諸手当が含まれる。 *2 休業開始時賃金日額 育児休業を開始する前6カ月間にもらっていた給与(通勤手当など諸手当を含む。賞与は除く)総額を180で割った1日当たりの平均額 *3 労使協定 労働者の過半数で組織する労働組合があるときにはその労働組合、ないときは労働者の過半数を代表する者と、使用者との書面による協定をいう。例えば、育休の取得について、「入社1年未満の人は、対象者から除外する」などの規定を設けることができる *4 育児休業終了時報酬月額変更届 本来は、昇給や通勤手当の変更など固定的な給与が変更したとき、変更された月から3カ月間の平均給与がこれまでの標準報酬月額よりも2等級以上変動があった場合、年度の途中でも標準報酬額が変わる、つまり納める社会保険料が変わる。それが、育児休業後、3歳未満の子供を育てる社員が復帰した場合は、1等級でも差が生じれば、本人の申し出により標準報酬月額を変更できる。ただし、標準報酬月額が下がれば、出産手当金や傷病手当金などもらえる給付金も下がるため、どちらを取るかは本人の判断による *5 短時間勤務制度 3歳までの子供を養育する社員が希望すれば、1日の所定労働時間を原則として6時間とする制度 *6 所定外労働の免除 3歳までの子供を養育する社員が希望すれば、所定労働時間を超えて労働させない。つまり、残業や休日出勤などを免除する制度
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