「コーヒーおひとつでよろしかったでしょうか」
飲食店でこう聞かれた時、違和感を覚える人は多いかもしれません。たった今行った注文の確認としては、ふさわしくないからです。バイト敬語、マニュアル敬語と呼ばれることもありますね。
しかし、「よろしかったでしょうか」という表現がいつも間違いかというと、そうではありません。正しく使われているケースもあるのです。
では、どんな使い方なら正しく、どんな使い方ならダメなのでしょうか。例文も交えて、正誤の違いを明らかにしていきましょう。言い換え表現についても解説します。
▼目次
1.「よろしかったでしょうか」とは?
2.「よろしかったでしょうか」を使う際の注意点
3.「よろしかったでしょうか」の間違った使い方・例文
4.「よろしかったでしょうか」の正しい使い方・例文
5.「よろしかったでしょうか」の言い換え表現
6.まとめ
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「よろしかったでしょうか」は、主に書き言葉よりも話し言葉でよく使われます。相手に対して、共有している過去の物事や記憶が「良かったかどうか」と確認するための表現です。
「よろしかったでしょうか」は「良かったかどうか」を改まった言い方にした言葉です。
(*6つ目までの意味は省略)
「よろしかったでしょうか」は「よろしい」を過去形にして、さらに疑問形にした言葉です。過去の物事について「良かったかどうか。良い状態であったか」と確認する際の改まった丁寧な表現です。
つまり、「(あなたの意見や判断は過去に聞いたはずですが)私の認識はこれで良いでしょうか」という意味で、正しい言い回しです。
さて、「よろしかったでしょうか」という言葉だけを取り上げると間違いではありませんが、「誤用だ」「ダメな表現だ」という意見がよく聞かれるのはなぜでしょうか?
その理由は、「よろしかったでしょうか」が使われる場面やタイミングにあります。過去の物事について確認する時に「よろしかったでしょうか」を使うのは適切ですが、そうではない場面やタイミングでむやみに使うと、聞き手(読み手)に違和感を与えてしまうのです。
バイト敬語のようなマニュアル化した言葉は、慣れてしまうと安心して、ふさわしくない場面であっても過剰に使ってしまうのでしょう。確かに、過去形にすることで話し手と聞き手の間に距離が生じ、謙虚さを醸し出すことはできます。ただし、過去のことではないのに「よろしかったでしょうか」と尋ねるのは不適切です。
例えば、お店の接客で過去に受けた注文の内容を改めて確認する時に使うのは間違いとは言えません。
しかし、たった今聞いた注文や、今起きていること、これから起きる未来のことについて「よろしかったでしょうか」と使うのはふさわしくありません。正しい場合とダメな場合があるので、もし使うのであれば、場面ごとに見極めてからにしましょう。
過去の確認ではない場面で「よろしかったでしょうか」を使うのは誤用です。例えば、次のような場面です。
以上のような場面では使わないよう注意が必要です。次の段では間違った使い方とダメな理由、例文を紹介します。
「よろしかったでしょうか」を間違えて使っている例文を紹介します。以下のような使い方は、誤用です。正しい表現を○で示して併記しています。
過去のことではなく、確実に現在のことについて確かめる時。例えば、入店したばかりのお客様から「空いていますか」と尋ねられて答える場合に使うのは誤用です。
注文を復唱する場合にも、「よろしかったでしょうか」がよく使われます。その場ですぐ確認する時は、過去の事柄とは言えないため誤用です。「よろしいでしょうか」の方が良いでしょう。
未確定な状態について確認する場面。例えば、入店してまだ言葉を発していないお客様は、お店を利用すると確定したわけではありません。それなのに過去形で尋ねると、確定したかのように感じさせ、押しつけがましくなってしまいます。
「よろしいでしょうか?」ならダメではありませんが、「で」が続くので次のように言い換えると良いでしょう。より具体的な言葉を使うことがポイントです。
「よろしかったでしょうか」を万能の敬語だと勘違いして、過剰に使っているNG例です。駐車場の何を確認したいのか、具体的な言葉を使って尋ねましょう。
同じく「よろしかったでしょうか」をむやみに使っている誤用例です。電話をかけた相手本人ではなく、妻が対応した場合の確認です。以下のように過去形で言われても、相手は「今現在も妻ですけど」と言いたくなるでしょう。
「よろしかったでしょうか」という言葉のみでは、間違いだと断じることはできません。むしろ、改まった言い方でもあるため、 適切な場面やタイミング、正しい文脈で使いさえすれば問題のない表現です。
例えば、ビジネスシーンでは、過去に取り交わした契約や会議での決定事項、スケジュールを確認する時などに使えます。会話だけでなく、電話やメールでも使うことができます。
「よろしかった(“良かった”の丁寧な言い方)」は過去のことについて現在から見て評価しています。「過去の注文はこれで良かった」と振り返っているわけです。つまり、相手が行った過去の注文と見なせる状態であれば、接客の場面で「よろしかったでしょうか」を使っても必ずしも間違いではありません。
過去に注文を受けて用意した商品について、発送前に提供の仕方や仕様などを確認したい時、次のように使えます。
宿泊予約を受けていたホテル側がフロントで当日お客様に確認したい時、次のように使えます。宿泊はこれからのことですが、過去に受けていた予約を確認するために使うのは、正しい敬語です。
会社の上司から頼まれて事前に行った作業について、部下から改めて確認したい時、次のように使えます。
過去に調整した日程を改めて確認したい時に次のように使えます。
取引先に対して送った書類の確認を行う時、次のように使えます。
以上のように「よろしかったでしょうか」は、場面やタイミングによって正しい用法もあれば誤用もあります。しかし、気になるのは、バイト敬語やマニュアル敬語といった表現でひとくくりにされて、用法に関係なく間違いだと感じる人も非常に多いことです。
特にビジネスの場面では、誤用かどうか以前に、誤解されかねない言葉自体を避けたい状況もあるでしょう。そこで、「よろしかったでしょうか」を言い換えたい場合の言い回しを次に紹介します。
「間違いがないかどうか」という意味です。「間違いございませんでしょうか」という言い方でもOKです。
認識や注文が合っているかどうかという意味です。日程の確認などでも使えます。
確認という言葉を直接使った分かりやすい表現です。「これで正しいかどうか、ご確認いただけますか」などと使えます。
問題がないかどうか、という確認です。例えば、書類の確認や、セキュリティ上の質問などで使えるでしょう。
「よろしかったでしょうか」のように、バイト敬語とひとくくりにされながらも、場面によって間違いとは言い切れない表現はいくらでもあります。自分が聞き手(読み手)である場合でも、その正誤を判断することなく、頭ごなしにダメな表現だと決めつけることは避けたいですね。
一方で、自分が話し手(書き手)である場合には、しっかり理解してから自信を持って言葉を使いたいものです。時には、言い換え表現も活用し、スムーズなコミュニケーションを工夫しましょう。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
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