近年やたらと耳にする機会が多い「させていただく」という言葉。耳にするその全ての「させていただく」ではなくても、たまに「うざい」「落ち着かない」と感じることがありはしませんか?
言葉そのものは正しい敬語のはずなのに、その使い方によって与える印象が変わるのが、「させていただく」という言葉です。違和感を与えずに使いこなせるよう、「させていただく」の意味や使い方をマスターしましょう。
▼目次
1.「させていただく」とは?
2.「させていただく」を使う際の注意点
3.「させていただく」の間違った使い方・例文
4.「させていただく」の正しい使い方・例文
5.「させていただく」の言い換え表現
6.まとめ
「させていただく」とは、自分を低めて相手を高める謙譲語です。同時に、それを行うのに本来は相手の許可が要るような状況や、相手に配慮しながら自分の意向を伝える状況で使います。
「させていただく」とは、次のような意味です。
「させていただく」という言葉自体に間違いはなく、正しい敬語です。ただ、近年「させていただく」の誤用は増えています。いくら言葉自体が正しくても、その使い方が適切でなければ、違和感を与えてしまいますね。
前段で分かるように、「させていただく」は「させてもらう」を謙譲語にした語で、自分を低めて相手を高めるべき場面で使います。しかし、それだけなら「いたす(いたします)」でいいはずです。「させていただく」を使うのは、同時にその相手が許可や恩恵の与え手でもある場面で最大限の敬意を払うべき場合です。
違和感が生じる多くの場面は、相手の許可や相手への配慮が不要な場面で使われているからです。
例えば、上司からメールを送るように指示されて「メールを送信させていただきます」と答えるのは過剰です。許可ではなく、指示されて行ったことなので「メールを送信いたします」で良いのです。丁寧に答えようとして、つい使いすぎてしまうのでしょう。
しかし、行きすぎた敬語はかえって慇懃無礼な印象となり、違和感を与えてしまうのです。
「させていただく」を使う場合に、最も注意すべき点は、前段で述べたように「使いすぎない」ということです。その他にも、気をつけたいことがあります。
自分の都合で何かを行う場合にも「させていただきます」を使うことがあります。「実家に帰らせていただきます」がその例で、高い敬意は感じられません。
これと同様で、上司に対して「早退させていただきます」という表現も、尊大な印象を与えます。「早退させてください(お願い)」「早退させていただけますか(許可の依頼)」「早退したいのですがよろしいですか(許可)」などを使う方が良いでしょう。
「させていただく」を使えるのは、「お送りする」「おじゃまする」など「〜する型」(サ行変格活用)の動詞の場合です。
「読まさせていただきます」「伺わさせていただきます」と使われているのを見かけますが、「さ入れ言葉」であり、誤用です。「読ませていただきます」「伺わせていただきます」が正しい使い方です。
「させていただく」を間違えて使っている例文を紹介します。以下の場面で使うのは、誤用です。正しい表現を◯で示します。
職業を伝える場面。免許や資格の要る仕事であっても、許可の与え手以外に対してへりくだることはありません。
喜びや感動を伝える場面。誰の許可を必要ともせず、本人の自由な心の働きです。
退職願を出す時に直接の上司に使う「させていただきます」は正しいのですが、関係のない社外の人に対して使うのは誤用です。
仕事を休む許可を上司から得たい場合。「いただきます」で終わらず、ちゃんと疑問形にする方が良いでしょう。また、「さ入れ言葉」にも気をつけましょう。
学校や大学の入学・卒業について、学長以外の一般の人や社会に対して伝える場面。
ある作家の新刊を読んだことを、本人や担当者でもない、単に同じファンである人に話す場面。
自社が開発した商品を営業活動で紹介する場面。次のような表現は奇異な印象です。
以下は、「させていただく」を正しく使っている例です。例文1〜3は「させていただきます」を使った方が良い場合、例文4〜6は状況や相手との関係性によって使うと良い場合です。
相手の承諾を得て何かを行う時の表現です。訪問する時、書類を送る時、電話をかける時など、自分の行為が相手に影響を及ぼす場合です。
すぐに返事ができず、メールや電話を後でやり取りする場合に使います。許可とまではいかなくても、自分側の都合で相手に慮ってもらう時には敬意を高めた表現のほうが良いでしょう。
目上の人が集まる会などを途中で退席する場合、次のように使えます。
結婚式や式典などの出欠ハガキに書き込む場合、「ご欠席」を消して「出席(‘ご’を消す)」に「させていただきます」を加えます。「いたします」でもOKですが、招待自体を出席許可ととらえることもできるからです。
飲食店の張り紙などで見かける表現。「実際は許可など不要で勝手に休むわけなのに」と誤用だとする説もあるようですが、許容できないレベルではありません。顧客に対してあえて敬意を高めた表現として使うのはかまわないでしょう。もちろん「休業いたします」や必要事項の箇条書きのみでも問題はありません。
式典などで司会を務めたり、乾杯の音頭を取ったりする場合、本来は「司会進行役を務めます(担当いたします)」が適切です。ただし、来場客のほとんどが目上の人であるため「僭越ながら」と付け加えたり、「(役を)仰せつかりました」と言いたくなったりするケースでは「させていただく」を使っても良いでしょう。
「させていただく」は、場合により違和感を覚える人も多いため、スッキリした言い換え表現を以下に紹介します。
安否を尋ねられて答える場合「元気で暮らさせていただいております」という表現を聞くことがあります。高齢で健康不安がある人が「本当に幸せなことに恩恵を受けて元気です」というニュアンスで使う分には許容の範囲と言えなくもないでしょう。ただし、スマートに言い換えたい場合には「元気で暮らしております」でも十分です。
相手が急いでいると分かっているのに、電話やメールの返信が後になってしまう場合「させていただきます」を使うことも考えられます。しかし、それ以外の通常の連絡では、「お電話いたします」「メールをお送りいたしします」で十分なため、都度判断しましょう。
「お(ご)〜する(いたす)」を使うと、謙譲語を作ることができます。相手からの配慮で恩恵を受ける場合は、「お届けさせていただきます」「ご報告させていただきます」が適切ですが、それ以外では「お届けします(いたします)」「ご報告します(いたします)」のほうがスマートな場合も多いでしょう。
「させていただく」は、「させていただく症候群」と呼んでもよいほど、頻繁に使っている例を見かけます。しかし、最近では「させていただく」への違和感が叫ばれすぎて、許容できる範囲の用法までもが槍玉にあげられていることもあるようです。
今回、敬語の用法として明らかに間違っている表現は、×印で示しました。使っても良い場面や揺れのある状況では、判断基準を示しました。参考にしていただけるとうれしいです。
(前田めぐる)
※画像はイメージです
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