東日本大震災で甚大な被害を受けた福島県。津波に加え、原発事故による放射能汚染の問題が陰を落とし、漁業や農業、観光が受けた打撃は計り知れない。そこで、地域と産業を応援しようと、福島大学に在籍する学生が2012年の4月に立ち上げたのが「スタ☆ふくプロジェクト」だ。「リアルな福島に来て・感じて・考える」をテーマに、県外から希望者を募って実施するスタディーツアー企画。これまでに4回実施され、のべ102名が参加した。
「スタ☆ふく」の母体は、2011年秋に発足した学生団体・JASP(Japan All Students Project)。昨年は震災一周年に向け「日本一周たすきリレー」を企画。3月11日に開催した復興・鎮魂イベントでは、1万3000人もの観客を動員した。「スタ☆ふく」の発起人、福島大学3年の吉田哲朗さんも、このイベントに奔走した一人だったが「お祭りとしては成功。でも震災ボランティアで出会った被災者の心痛を思うと、リアリティーに欠ける気もしていました」。
そこで思いついたのが、福島の地域と県外の人々を結ぶスタディーツアーだ。「県外の人と話すと、無理もないですが震災後の福島について知識がなく、イメージだけが先行している印象でした。このままでは、福島は本当の一歩を踏み出せないと感じました」(吉田さん)。
ツアーの企画は法の壁があり、学生だけでは実現できない。そこで地元の福島交通観光にアイデアを持ち込んだところ、復興支援事業として賛同が得られ、晴れてコラボレーションが実現した。
福島県は大きく3つの地域に分かれ、それぞれが抱えている問題もさまざま。「スタ☆ふく」では、沿岸部のいわき市で「漁業」、山間地域の二本松市で「農業」、会津・喜多方市では「観光」と、地域の産業をテーマに設定。参加者が五感を使い、福島の現状を知ることができるプログラムを作っている。
たとえば8月の漁業ツアーは、いわきの地元漁師の協力による漁船乗船体験と、水産加工場見学が目玉。沖から津波の被害状況を見たり、水産に関わる人の生の声を聞いた。9月の観光ツアーでは、喜多方市の蔵を見学したり、グリーンツーリズムを通じて地元農家の人々と交流。9月と12月に催行された農業ツアーでは、「農業塾」を受講したり、農作物を収穫して実際に線量を測ったり。農家の人たちに教わりながら、しめ縄作りも体験した。
各ツアーの最後にはワークショップが開催され、参加者が意見を交換し、ともに考える。2泊3日と短くとも濃密な体験の中で、参加者同士が世代を超えた友情で結ばれることも少なくない。「さまざまな立場の人の生の声が聞けた」「福島の産業の対応を見て安心感が得られた」「放射線のネガティブな部分も隠すことなく伝えてくれて、学びが多かった」など、常に反響は大きいという。
「スタ☆ふく」のもう一つの目的は、地域へ寄り添いながら、参加者との交流を通じて「人が来てくれる喜び」「想いを発信する機会」を提供することだ。
「ツアーを受け入れてくれる農家や事業主の方々は、みんなとてもいい体験だったと喜んでくれます。普段は寡黙な漁師さんも、自分の船にお客を乗せたとたんに、饒舌になるんですよ」(吉田さん)
現在「スタ☆ふく」では、プログラム作成のためのリサーチや、地域の方々への謝礼などに充てる資金援助をしてくれる人を募集。出資者には写真入りの詳細なツアー実施報告書を送ってくれる。
「辛い状況の中でも一歩ずつ確実に前進している福島を、多くの人に感じて欲しい。まだ小さなムーブメントかもしれませんが、疑問を持ち、知りたい人と、発信したい人の仲介を、これからも続けて行きたいと思います」(吉田さん)
(写真キャプション)
事前調査でアスパラ農園を訪ねた時の一コマ。9月のツアーでは、ここでアスパラの収穫を体験した。
文●鈴木恵美子
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