高校生にとってはじめの一歩はとても重要なもの。この連載企画では高校生の憧れの人がどんな一歩を踏み出したことで、今の場所にいるのか。その一歩が無ければ今の自分は“ここ”にはいないかもしれない。そんなはじめの一歩を、今回はTVアニメ『うちの弟どもがすみません』にて、長男・成田源役の声を務める増田俊樹さんにお聞きしました。
憧れの人の“はじめの一歩”を知ることで、今の自分にできる「はじめの一歩」を見つけてみませんか?
増田俊樹のはじめの一歩

本当の意味でのはじめの一歩は生まれた瞬間、という話になってきますが…。僕は高校2年生くらいに昼夜逆転といいますか、時間の使い方が一気に変わった時期がありまして、たまたま観た深夜帯のアニメに惹かれました。それまでは、『クレヨンしんちゃん』や『ドラえもん』、『名探偵コナン』など、いわゆるゴールデンタイムのザ・日本の家庭アニメしか観ていなくて、深夜アニメの存在すら知らなかったんです。初めて観たときに、それまで観ていた作品とは違う魅力を感じて、5、6話くらいからだったのですが、毎週追いかけるようになりました。それが、僕にとってのはじめの一歩だったなと思います。
改めて自分の人生について、“今1番興味があってやってみたいことはなんだろう”と考えたときに、元々テレビ業界への憧れはありましたが、顔を出して表に出る自信がなかったので、「声を届ける声優という形ならいいな」「アニメが好きだし、かっこいいから飛び込もう」と思うようになりました。そこから声優を目指す人たち向けの本を買って、専門学校という存在を知り、親に「行かせてくれないか」と言ったことが、大きな一歩だったのかなと思います。
増田さん
一歩を踏み出そうと思う勇気って意外と難しいことだと思いますが、恐怖心などはありましたか?
ななさん
みなさんは失うものがあるから怖いと感じるのかもしれませんが、当時の僕には失うものがないと感じていた時期もありまして。今自分がいるところ自体が怖かったといいますか、人生の中でどん底だと感じていた時期だったのですが、それがあったからこそ今の自分がいるという意味では、悪い時期ではなかったなと、今では肯定しています。“それしかない”という状況の中、僕はありがたいことに挑戦を拒む人が周りにいなくて。親も「無理だよ」「やめなさい」「他のことのほうがいいんじゃない」と否定することもなく、僕の選択をしっかりと尊重してくれました。あの場所に送り出してくれたということが、僕にとっては一番かけがえのないタイミングであり、チャンスだったのかなと今でも思っています。
増田さん
これからはじめの一歩を踏み出そうとしている読者にエールをお願いします。
まなさん
すべては何気ない一歩だと思うんです。その瞬間はものすごく大きな一歩に感じるかもしれないけど、僕たちは毎日何かの一歩をきっと踏み出していて。ただ、あとから“あのときこうしてよかった”と思えるのは、その先の自分が頑張り続けた結果でしかありません。僕自身、あのときに専門学校の載っている本を買ってよかったと思えるのは、今こうして声優になれて、ご飯を食べられるようになって、やっと言えることなので。踏み出す瞬間を考えるのではなく、“この一歩をどうにかしてやる”くらいの気持ちでいいと思います。この一歩を選択したことが正解だった、間違いではなかったと思えるように、これから1ヶ月でも、1年でも、10年でもいいので、当時の選択を自分で尊重できるような歩み方をしてほしいです。それこそが、僕が応援したい一歩の踏み出し方かなと思います。
増田さん
源との“小さな共通点”で親近感が湧きます。

本作への参加が決まった際の率直なお気持ちを教えてください。
ライターさん
率直な気持ちとして、出演が決まった瞬間は、“オーディション受かったんだ”というのが第一にありました。それくらい、自分では受かる自信がなかったんです。今回はきょうだい5人役が全員揃って、掛け合いをする形のオーディションだったので、他の4名と自分のやっていることややりたいことが、どこか遠い印象がありました。集められている人たちは、“こういう作品にしたい”という方向性がある程度固まっていると思っていて。僕が他の人と全然違う芝居ができるという意味ではなく、周りは僕ができないアニメーションらしい演技をされている方が多かった印象なので、そういった意味でも“今回は受からないだろう”という気持ちがありました。ただ、やることはやったという気持ちではいたので、合格のお知らせを受けたときは、“俺なんだ!”というのが率直な気持ちとしてありました。
増田さん
演じられた成田源は、無愛想で冷たく見えながらも家族思いというキャラクターでしたが、増田さんが演じられていて感じた魅力など教えてください。
ななさん
僕の視点からは、源が“冷たく”は見えたことがなくて。だから、演じていて感じた魅力というのは、実はそんなにないんです。脚本ができあがる前、オーディションに臨む段階で原作を読ませていただいていて、そのときから成田源という人間の魅力は僕の中ではっきりしていました。実際の収録段階では、スタッフさんから「少女漫画原作だから、もう少しライトでポップな源のような表現がほしい」という方向性の舵取りをいただくこともありました。ただ、源の良さはそこだけではなくて、声優である僕らが言うのはおかしな話かもしれませんが、“音声表現だけで源の良さがすべて伝わらなくてもいいかな”という気持ちもあって。彼の一番の魅力は、言葉で描かれていない部分で、何を思い、どう行動をしたかというところにあると感じています。言葉にすることが大切ではなくて、彼は自分がやりたいこと、やるべきだと思ったこと、その口にした言葉と行動のすべてに一貫性があるというところが僕の思う源の魅力です。
増田さん
原作を読まれたときの感想を教えてください。
ライターさん
少女漫画をたくさん読んできたわけではないので、具体的に言うのは難しいですが、自分が読んできた数少ない作品と比べても、少しだけ毛色が違うなと感じていました。少女漫画や少年漫画の恋愛ものだと、ヒロインやヒーローが学校内で一目置かれていたり、どちらかがチャレンジャーだったりという設定が多い印象があります。でも本作は、学生ではありますが、描かれているのはほとんどが家庭内のシーンです。2人とももちろん魅力的な人間ですが、どこかにいそうな普遍的な2人が、僕たちも普段から大切にしたほうがいいかもしれない“人間の温かい部分”に惹かれ合っていく。恋人同士以上の本当の家族の空気感があるんです。今のところ最新話まで全巻読んでいても、印象は変わらず、ほのぼのと温かい空気を感じさせてくれる作品です。おじさんになった今だからこそ、こういうかけがえのない人間性が描かれているなと感じますし、キャラクターそれぞれが持ち合わせているなと思いました。
増田さん
演じる中で難しかったところや苦戦したところ、逆に工夫したところあれば教えていただきたいです。
まなさん
先ほども話したように、第1話の段階でスタッフさんから「ポップさがほしい」と言われていて。具体的には「もっと声を大きめに、抑揚を強く」という、全体に対するオーダーがありました。でも、僕が思う源のイメージと、感情が分かりやすい抑揚やコミカルな喋り方というものが結びつかなくて。もちろん、アニメーションはアニメーションですし、原作を「お借りして作っている」という側面もあります。原作があって、制作サイドの方々が改めてどんなアニメーションにしたいかというものがあるので、必ずしもイコールでないといけないということはないのですが。ただ、僕自身漫画が大好きだからこそ、“原作者が喜んでくれるようなアニメ制作をするべき”と思っています。原作で感じた源のイメージと、現場の方々のアニメーションで表現していきたい源のイメージをそれぞれ自分の中でどう噛み砕くか、時間がかかった印象があります。後からスタッフさんたちのお話を聞くと、「増田くんは最後まで、デレるようなことはしなかったね」と言われて(笑)。自分なりには、1~2割増しでそのような表現をしていたつもりだったのですが(笑)
あと、漫画というのは、読者が独自の時間の使い方で読むことができますが、アニメーションは尺が決まっていて。自分たちが思うスピードではなく、決まった短い枠の中に、セリフを収めないといけないんです。源の喋り方はものすごく会話劇なので、たとえ無愛想であっても、一気にたくさん喋るシーンがあったりします。それが短い時間の中で使われていると、自分の読んでいた源のスピードや、間の取り方とは少し違ってきてしまうので、苦戦した記憶があります。僕の体感として、アニメの源の喋る間やスピードが早いなと感じていました。ハキハキ喋るタイプではないから、滑舌の問題や、流れてしまわないように気をつけるところが割と苦戦した役です。
増田さん
現場では、葛藤があったのだと思いましたが、ディスカッションを繰り返しながら作っていた形でしょうか?
ライターさん
その場でディスカッションが起こる現場ではなかったので、僕も「ノー」と突き放していたわけではなくて、僕なりに(演技を)返して、OKテイクが出れば受け入れていました。僕は源の声の担当として選んでいただいた側なので、「こうしたいからこうさせてほしい」のような自己主張は一切していません。“こういう作品にしたい”という人がいるのなら、可能な限りそれを実現させたいと思っていました。
増田さん

成田源と増田さん自身が似ているなと思う点があれば教えてください。
ななさん
無愛想なところじゃないですかね。あと、エビが好きなところ。そういう小さな共通点で親近感が湧きます。
増田さん
逆に異なる点というか、違うなと思うところはありますか?
ななさん
山ほどあると思います。違うところを探し出すとキリがないなと…。自分で思うほど自分をわかっていないですし、無愛想というのも人から言われて、“無愛想なんだな”と思うくらいで。エビは自分で分かっていますけど(笑)、年齢も違いますし、成り立ちも家族構成も違うので、ほとんど違います。
増田さん
自分と違う役を演じるにあたって、難しいなと感じる部分などはありますか?
ななさん
自分と同じ部分をたくさん持っている役にも難しさはありますし、逆に違う部分しかない役でもまた違った難しさがあるなと思います。僕が一つ信じているのは、そのキャラクターでも“同じ人間だ”ということ。嫌なものを見たときは嫌悪感を抱きますし、好きなものを見たときはポジティブな感情が湧き上がってくる。もちろんその逆で、嫌なもの見たときに興奮する役もありますが…。そのキャラクターのロジックさえ理解していれば、入口とゴールが違うだけで、自分たちの感情の動きと実は大きな差はないのではないか、と思っています。例えば、喜びのシーンで、「おいしいものを食べたときに喜んだ」という表現をするときに、“自分の人生の中で、何を食べてこんな風に喜んだかな”、彼にとってのおいしいものは僕にとっての“これ”と置き換えていく演技法があって。僕はそれを多用する側の人間なので、役と違えば違っただけの面白さがありますし、同じであれば同じだけの面白さがあると感じています。
増田さん
今回の「うちの弟どもがすみません」に関わらず、全部の作品に対して、自分なりの噛み砕き方をしているんですね。
ななさん
アニメーションのキャラクターたちは美しく描かれすぎているから、似ている部分がたくさんあるというと、まるで自分を肯定したかのように捉えてしまう。逆にキャラクターのネガティブな部分が似ているところとしてたくさんあると愛着も湧きますし、肯定もできる気がします。無愛想というところが似ていると嬉しいです。
増田さん
本作は、特に糸ちゃんとの距離感や掛け合いが大切な作品かなと思うのですが、アフレコのときに意識されたことなどはありますか?
ライターさん
僕自身はそこまで意識していなかったです。この現場に限らず、普段からできる限り自然にできるよう考えているので、“この現場だから特別なことをしよう”などは考えていなくて。ただ、この作品は大空直美さん演じる糸が軸にあります。大空さんご自身も現場でのお芝居を、しっかりとやるべきことを十二分に発揮されていたので、僕はそこにしがみつくような思いといいますか。ぶれないヒーロー役としての魅力がどこからか湧き出してくれたらいいなと、願いながら演じていました。
増田さん
成田家4兄弟の、洛役・八代拓さん、柊役・小野賢章さん、類役・寺澤百花さんとの掛け合いで、印象的なことや意識されたことはありましたか?
ライターさん
八代さんも言っていたのですが、寺澤さんのお芝居を見て「まだこんな引き出しを持った子たちが生まれてくるんだな」と衝撃を受けました。表現の世界は、どうしても歴史が重なれば重なるほど、似ている人や同じような作品が生まれてしまうもので。数種類のプロットから構成されていると定義されていている中で、僕もまだ36年しか生きてきていませんが、未来は明るいなと思いました。“声優はまだすごい人がたくさん生まれてくるんだ”と。類が喋る瞬間に、毎週毎週、何をしてくれるのだろうとワクワクしていました。弟ですけど、マスコットキャラクターのようでもあり、決して類という軸をブレさせていないといいますか。ここまでやっても類は類なんだという説得力もあり、僕としてはこの出会いに衝撃を受けました。
増田さん
増田さんからというよりは、源から見た糸のキャラクター性、こういうところが人間として好きなんじゃないかなと思うところがあれば教えてください。
ライターさん
僕は原作を読んでいて、(糸に人間として惹かれる部分は)母性みたいな部分なのかなと思いました。超絶美化したら、うちの母親が糸っぽくて。慈愛といいますか、見返りを求めていないような部分があるんです。未だに僕自身も母親を頼りにして生きているところがたくさんありますし、僕が人生の中で感じてきたものこそが見返りを求めない愛だなと思いました。ストーリーを読んでいて、源に欠けているものは、早くに亡くしているお母さんの存在がひとつあるのかなと思っています。ハッキリとは描かれていませんが、僕の考察では、お父さんは子供たちを“大人”として扱わざるを得ない環境で、家族としての生活を送っていた気がします。「お父さんに全てを任せなさい」と奔走して、疲れ切って壊れてしまうような家庭ではなくて。「ごめん、お金は稼いでくるから、みんなできることはお願い」と相談できる環境で、「ありがとう」と感謝を伝え合える関係。だから源は幼少期から無意識に誰か甘えたり頼りきったりする部分が少し薄くなっていて、そこに自分を気にかけてくれる糸がすっぽりはまったのかなと。もし学校で糸と出会っていたとしても、こういった親しい関係にはなっていないはずです。ひとつ屋根の下で、どうしたって弟たちを気にかけてくれるし、頼りにもなる。そういう少しずつの距離感の変化が、欠けたピースを埋めてくれて、源がこれまで気づかなかった感情に向かって、今歩き続けているのかなと感じています。
増田さん
本作の注目ポイントやおすすめのシーンを教えてください。
まなさん
つい見落としがちな、人間が人間に求める愛情やその根源にあるようなものが、大人の説教のような形ではなく、“これがいいじゃん”と思える家族の形が、誇張されることもなく、幸せとして描かれています。これが正解というわけではないですが、僕のような30歳を過ぎた大人にとっては、“こういう人生を歩めていたら、また違ったのかな”と思うような、大切な家族の形を見せてくれて、気付かせてくれる作品です。1人で頑張っている人や、家庭を持ち始めた人、“どうやって家族を作っていったらいいのだろう”と悩んでいる人。僕は結婚したことがないので分からないですけど、その方々にとっても、自分たちの理想が一つ綺麗な形で見つかるような温かい作品だなと思っています。アニメーションを通してでも、原作を読んでいただいてでも、この作品を観て、温かい何かを感じていただけたら、僕としては嬉しいです。
増田さん

ますだとしき 増田俊樹
3月8日生まれ。広島県出身。
2010年より声優として活動を始め、2011年にはアニメ「遊☆戯☆王ZEXAL」で神代凌牙役を務める。主な出演作には、アニメ「ハイキュー!!」(縁下力役)、「僕のヒーローアカデミア」(切島鋭児郎役)、「あんさんぶるスターズ!」(朔間零役)、「忘却バッテリー」(清峰葉流火役)、「鎧真伝サムライトルーパー」(織田龍成役)などがある。
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取材/なな、まな(ガクラボメンバー)
編集/マイナビティーンズ編集部
撮影/三橋優美子
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まなさん