「大好きな温泉を、このままなくしたくなかった」——そう語るのは、群馬県の温泉旅館で若女将を務めるN高等学校3年の桑子友菜さん。家族で続けてきた宿が一度休業するという大きな転機を乗り越え、再スタートを切った彼女の挑戦に迫ります。
休業した家業の温泉を守りたい一心で若女将に

私の実家は三代続く温泉旅館“湯端温泉”を家族で経営していました。一度温泉を休業したときに、このままやめてもいいんじゃないかという話もあったのですが、幼い頃から親しんでいる大好きな温泉を守りたいと思い、両親に私が若女将をやりたいと伝えました。
桑子さん
ご自身の熱い想いから若女将になられたんですね! ちなみに、なぜ旅館は一度休業することになったのでしょうか?
編集部
一番の理由は父の事業転換です。もともと父が中心となって温泉経営をしていましたが、別の事業が忙しくなって。温泉は安さを売りにしていましたが、それ以上に安い施設が周りにも増えてきたことで、将来的な不安から休業になりました。
桑子さん

三代目として旅館を支えてきたお父さんにとっても、休業は大きな決断ですよね。
編集部
最初は“そうなんだ”と受け止めましたが、時間が経つにつれてこのままでいいのかなと。高校でマーケティングやビジネスを学び始めたこともあり、自分でビジネスプランを考えたりしている姿を父も母も見てくれていて、“今の友菜ならできるかも”と言ってくれました。
桑子さん
ご両親はどんな存在ですか?
編集部
父には確定申告など経営面で支えてもらっていて、日頃の損益計算は母と一緒に取り組んでいます。母は“高校生だからこそ挑戦できる絶好のチャンスだよ。失敗してもいいからやってみなさい”と、いつも背中を押してくれます。
桑子さん
経営には、起業部で学んでいるP/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)の知識を活かして実践

N高等学校では起業部に所属しているそうですが、若女将業に役立つ部分はありますか?
編集部
P/L(損益計算書)やB/S(貸借対照表)等の経営の基礎となる知識は、高校の部活動で参加している起業部の活動をきっかけに自分自身で学びました。周りにもハンドメイドの作品を販売するビジネスを立ち上げている人がたくさんいて、中学時代はそういった先輩たちに憧れていました。起立性調節障害で中学時代は学校になかなか通えていなくて、みんな勉強しているのに私だけしていないことに悩んでいましたが、オープンキャンパスでロールモデルになる先輩にたくさん出会えたことで心が救われました。
桑子さん
日々、旅館を運営する中での苦労はありますか?
編集部
布団の上げ下げを自分でやるのですがなかなか重労働で、体力が追いつかないことに苦労しました。経営に関する議論も家族だからこその遠慮のない言い合いになることもありますが、その結果すごく良いものができるので、大変さもありますが充実しています。
桑子さん

和室と貸し切り温泉が好評で、小さなお子様のいる家族連れのファンも多い

湯端温泉の魅力はどんなところだと思いますか?
編集部
おすすめのポイントは和室と貸し切り温泉です。お客様は家族連れが多く、和室に布団を敷くので小さなお子様でも安心してお休みいただけます。お風呂も貸し切り温泉で、ベビーチェアやベビーソープも完備し、ご家族でゆっくり温泉を楽しんでいただけるようにしています。
桑子さん
学業と旅館経営の両立はとても忙しそうに思いますが、自分の時間はありますか?
編集部
友人と遊んだり、高校生活を楽しむ時間ももちろんあります!経営に関わっているから遊んじゃダメということではないと思ってます。また、私は何でもできると思われがちですが、実はすごく弱いですし、プレゼン大会の前などは不安で泣きながら練習しています。それでもさまざまな経験を積み重ねることで、完璧じゃなくていいと最近思えています。
桑子さん
最近はホテルのチェックインが機械化されたり、AIの導入で人が介在しないことも増えてきていますが、AI活用をどう思いますか?
編集部
AI活用や機械化も便利だとは思いますが、現場に立っているからわかる課題があるのも事実です。お客様の目を見て会話しているからこそ、このお客様は腰を痛めているから高めの椅子をご用意しようとか、会話から気付けることがたくさんあります。ビジネスでお金にフォーカスしていた時はすごくしんどかったのですが、利益のことだけでなく、現場に立ちたいとか、そういう考えがあるからこそ、想いがあるからこそこの仕事が大好きです。
桑子さん
同世代へのメッセージ

同世代の読者のみなさんへ、メッセージをお願いできますか。
編集部
私は中学生のとき、学校に通えない時期がありました。その経験があったからこそ、「置かれた場所でできることをやる」大切さを知ったと思います。一歩踏み出すのは怖いですが、意外と大人は優しくて、話すと助けてくれます。自分のためだけじゃなく、誰かのために動いたとき、人は変われるのかなと感じています。
桑子さん
高校での学びを旅館経営を通して実践に結びつけながら、現役高校生として遊びもしっかり楽しんで、充実した毎日を過ごしている桑子さん。AIの発展で日々変化する市場環境に対しても、自分の価値観で落ち着いて向き合っているところや、お客様とのコミュニケーションを大切にしている姿が印象的でした。一人の経営者として学業と両立しながら一生懸命に取り組んでいる様子は、社会人の立場からも学ぶことが多いと感じました。
【湯端温泉】のご紹介

牛伏山のふもと、自然流出の天然温泉「湯端の湯」は誰にも気兼ねなく楽しめる貸切風呂。食事はなく、そのぶん気軽に、そしてリーズナブルに宿泊できるのも魅力。朝食の時間にあわせて起きる必要もなく、自分のペースでゆったりと過ごせる。四季折々の緑に包まれ、木々の葉音と鳥の声に耳を澄ませば、日常が少しずつ遠のいていくのを感じるはず。木々に囲まれた、静かな客室。誰にも急かされず、自分の時間をゆっくり過ごせる。
住所:群馬県高崎市吉井町多比良3309-1
https://yubataonsen.my.canva.site/
取材・編集/マイナビティーンズ編集部
桑子さんは温泉旅館の若女将をされているそうですが、どのような経緯で若女将になることになったのでしょうか?
編集部