文部科学省及び独立行政法人日本学生支援機構が官民協働で取り組む留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN(以下「トビタテ」)」の海外留学支援制度『新・日本代表プログラム』で留学に行った沼田実久さんは、島根大学医学部で学ぶ大学生。2025年12月14日に行われた「留学体験発表会(東京会場)」では見事、優良賞を受賞されました。
今回は沼田さんに、留学のきっかけや留学中の様子、留学を考えている方へのアドバイスなどをマイナビティーンズ編集部がインタビューさせていただきました。
“行きたい”が“行かなきゃ”に変わった瞬間──演劇療法との出会い
Q.早速ですが、なぜ留学しようと思ったのですか?
高校の時から留学したいと思っていました。日本を飛び出したらどんなことがあるんだろう、と漠然と考えていて、目の前の受験や毎日のテストに追われていたので高校時代は実際に留学するまではいきませんでしたが、大学に入ったら周りに休学している人がいて、自分の中で休学も新たな選択肢になり、留学に行こうと思いました。ただ、なんで留学するんだろうと。留学する理由がピンと来ず、行きたい気持ちはあるけれど、ずっとあたためていました。
大学3年生くらいのときに、将来、島根で働くことを見据え、大学や病院以外の場も含めて島根県への理解を高めていきたいと考え、地域コミュニティを探しました。その中で演劇サークルに出会い、約一年半にわたり活動しました。活動を続ける中で親しくなった同世代のメンバーから、彼女が執筆した台本をもとに「一緒に自主公演をしないか」と声をかけてもらったのですが、これが大きな契機となりました。その内容が自分の想像していたものではなく、その子の生い立ちを劇として観てもらうものでした。幼少期に受けた虐待に関する内容で、とてもショックを受けましたが、それを演劇で表現するんだという出会いと、自分にも重なる部分もあって、内から湧き出るモチベーションが生まれました。
そこから、過去の体験を演劇で話すことが「プレイバックシアター」や「演劇療法」というものだということがわかり、本場は欧米諸国だと知りました。これは行くしかないと思って、“行きたい”と“行かなきゃ”という気持ちがコネクトして、留学することにしました。
デンマークで出会った「社会的処方」という新たな視点
Q.留学先はどうやって決めましたか?
まずはデンマークの演劇学校を探し、渡航しました。ただ現実は厳しく、大学でドラマセラピーを専攻している学生ならば「単位を取るための実習であれば受け入れても良い」と言われたましたが、私のような単位を目的としないインターン生はなかなか受け入れてもらえませんでした。また、第三者が入ってくるのは療法を受けている方にも良くない影響があるということで、実際の演劇療法を見ることはできませんでした。
それでも私には島根での演劇の原体験があって、演劇やアートを使ってどのように健康に結びつくかということが興味の核でしたので、他にも療法に触れる方法はないかと考えました。
そこで、アプローチは異なりますが、デンマークで「社会的処方」に取り組む団体と関わる機会を得ました。社会的処方とは、薬による治療だけでなく、人とのつながりや地域での活動を「処方」することで健康を支える考え方です。精神障がいを持つ人や、特に社会的に弱い立場にある人を対象としたコミュニティ活動が行われています。
社会的孤立の状態が続くと、寿命が短くなるとも言われており、将来医療者を目指す身として、このような社会的要因が健康に与える影響は非常に関心のあるトピックでした。団体の活動の一例として、地域の劇場と協力してワークショップを行い、ウクライナ難民の若者を受け入れている職業訓練校の若者たちが芸術に触れる場をつくっていました。
デンマーク滞在の2~3か月ごろからは、次の場所を探し始めました。インクルーシブ演劇(障がいの有無に関わらず誰もが参加できる演劇)の分野で世界をリードするイギリスでは、障がいを持っている子がアートとどのように関わっているかについて興味を持ち、トルコでは絵画や演劇、ダンスなどを幅広く、障がいの程度としては重い人たちに、一種の療法として使っていることもわかりました。

障がいは幼少期からキーワードとして持っていて、自分のことを振り返る上での言葉として残っています。自分も手のかかる子だったらしく、児童精神科では発達障害をもっている可能性があるといわれたそうです。何か悪いことをすると「障がいがあるから」と言われたこともあり、そこから障がいとか普通とか、普通ってなんだよとか、障がいをもっているから何もできないのかとか、そういう思いがあり、実際に関わってみたいなと思いました。
留学の全体としては、デンマークの演劇学校に6か月在籍した後にイギリスに1か月、トルコに1か月、そして最後の2か月をデンマークに戻って過ごし、トータルで10か月の留学となりました。

計画変更の不安を支えてくれた“トビタテ”という存在
Q.トビタテ!留学JAPANの選考で一番大変だったことは何ですか?
すごい正直なところは、当初の計画が変わってしまい、遂行することが大変でした。トビタテの審査は募集要項が合って、頑張ってアピールすることはできましたが、実際に実行するのがとても大変でした。
思ったよりも予算がかかることや、やりたいことを実行するのは自分だけではできないし、色々な人の協力が必要です。トビタテで選ばれるためにアピールする力と、実際にそれを実行できる力は違う労力でした。
計画が結構変わったことを周りのトビタテ生からも聞いていましたし、それでも私たちに期待してくれているトビタテという存在がとても心強かったです。
そして、いざとなったらメールしまくる! 情熱、好奇心、独自性は、トビタテの選考だけでなく、海外に自分を売り込むときにも必要だと感じました。どれだけパッションがあって、他の人よりも認めてもらえることは何かをいつも考えていました。
一人で抱え込まない! たくさんの人に文章を読んでもらおう
Q.応募書類や面接で工夫したことはありますか?
すごく事務的になりますが、募集要項はすべて読んで、リーダーシップの経験などをすべて照らし合わせて、一つ一つ伝えることがすごく大事だと思います。自分はこういうことができます、経歴はこうですというより、どういう思いがあって申し込んだかが、相手に伝わるほうが大切だと思いました。
また、一本のメッセージ性を大事にしていました。そのためには演劇で留学していた人や福祉系の人、大学の先生や同世代など色々な人に応募動機の文章を読んでもらって、応募動機と留学の必要性が、どのような人にも分かりやすく伝わる書類になるよう、表現や構成のブラッシュアップを行っていました。たくさんの人に読んでもらった方が良いというアドバイスは、実は同じ大学のトビタテの先輩から頂いて、「これは10人以上に見てもらったほうが良い」と助言いただいたことで磨かれたと思います。
マイノリティとして海外で気づいた“自分の原体験の価値”
Q.留学中に一番印象に残った経験は何ですか?
デンマークの「社会的処方」から大きな刺激をもらいました。日本人の私がデンマークに行けばマイノリティだけど、日本にいればそうじゃない。自分がマイノリティになる経験や、自分が日本人だということを強烈に意識した経験は今までなかったので、人種の面で言うとマイノリティであることに悩んだことも多かったです。ただ、『その原体験は強みだよ』と団体の方に言ってもらえたことも印象的でした。

デンマーク発祥の活動に「ヒューマンライブラリ」というものがあって、社会的なマイノリティの人を“一つの本”として借りることができる仕組みがあります。その人と一対一で話せるので、私が選んだのは統合失調症を持っている人でした。医学部で学んでいることもあり、自分の中の知識とリンクもしていて、実際どんな人が来るのかなと会うまですごくドキドキしていました。でも会ってみると見た目は本当に普通で、統合失調症という言葉を自分の中だけで膨らませてしまっていたことに気付きました。
自分が医学部だからそういう視点で考えてしまったのかもしれませんが、その人を一人の人として見るということが、偏見の解消に繋がる。勝手に相手を決めつけてはいけないと強く感じました。
また、自分が何かサポートを申し出るときも、「Can I help you?」と言うよりも「Do you want some help?」の方が相手に選択してもらう余地が大きいというか、自分から何かしたいという押しつけのようなニュアンスも少ないと思うので、言葉選びもとても大切だと思いました。

“日本らしさ”が最高のコミュニケーションツールに!
Q.留学前にやっておいてよかった準備は何ですか?
持って行って良かったものは、日本を紹介するグッズです。海外の人は日本に興味があって、すごく質問してくれます。言葉だけより実際に物を見せたり、実演できるものがあると盛り上がります。実際に目の前でプレゼンしたのは書道セットで、みんなに漢字を書いてもらいました。また、茶道道具や浴衣を一着持って行ったことなどもコミュニケーションのきっかけになりました。言語力に自信のない人でも、日本を紹介するグッズはいいコミュニケーションツールになると思います。

また語学力に関して、留学に行く前は英検準1級程度の語学力でした。現地の方と話したり、交渉する経験もほとんどありませんでした。英語は渡航前に単語を覚えたり、オンライン英会話などでちょっとずつ英会話力を強化していました。
留学で「話してみる勇気」が育った。自分の居場所は自分でつくれる
Q.留学後、自分がどう変わったと思いますか?
自分が偏見をもっていたなと気付かされることが多く、人とは話してみないとわからないということです。性格の根っこは内気ですが、思い切って話してみることでハードルが下がりました。どこにいても自分で居場所を作っていく気概、今後も自分らしくやっていくきっかけになったかと思います。
Q.これから留学を目指す高校生に一言アドバイスをお願いします!
高校生の皆さんは、受験や部活など、目の前のことで本当に忙しい日々を過ごしていると思います。その中で「留学」は、どうしてもハードルが高く感じられるものかもしれません。それでも、留学そのものに限らず、少しでも興味を持ったことは、心の中に残し続けてほしいと思っています。そして、その先でチャンスが巡ってきたときには、ぜひ掴みにいってほしいです。「留学」という言葉にピンとこない人も、「やってみたい」「気になる」と思ったことがあれば、ぜひ積極的にチャレンジしてみてほしいです。
「将来何がやりたいの?」と周りから聞かれることも多いと思いますが、その答えが今すぐはっきりしていなくても、私は大丈夫だと思っています。実際に私自身も、大学生になって、トビタテの選考書類を作成する過程で、自分のバックグラウンドや、これから目指したい方向について深く考えるきっかけをもらいました。
自分が大切にしたいことや、「こういうことは許せない」と感じる価値観を、種のように自分の中に持ち続けておくことが、きっと将来の選択につながっていくと思います。応援しています!
取材を終えて
とても濃い留学体験を、その時々を思い返すように丁寧に話してくださった沼田さん。医療と演劇という、まだまだ日本では知られていない療法に関心を持ち、「将来は子供たちや、患者さんに寄り添える医師になりたい」と、留学体験発表会の場で、大勢の来場者の前で堂々と語っていらっしゃいました。優しい表情の中に強い意志を併せ持つ、素敵な沼田さんのご活躍をこれからも応援しています。
取材・執筆/マイナビティーンズ編集部