若き音楽家たちが繰り広げるドラマに感動! 大学生からのアートのはじめかた「東京文化会館」編

編集部:いとり

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写真:堀田力丸 提供:東京文化会館

みなさんはふだんクラシック音楽を聴くことはありますか? クラシック音楽と言うと、ちょっと敷居が高いと感じてしまう人もいるかもしれませんね。しかも、本格的なコンサートホールで聴くクラシックとなればなおさらでしょう。しかし、実はクラシック音楽はみなさんが考えているよりももっと身近で親しみやすいものなんです。今回は、「奇跡的」とも言われる音響を誇る東京文化会館で、若き音楽家の登竜門「東京音楽コンクール」を鑑賞してきました。

若き音楽家の登竜門、「東京音楽コンクール」とは?

東京音楽コンクールは、新人音楽家の発掘と育成・支援を目的として東京文化会館、読売新聞社、花王株式会社、東京都が毎年開催しています。昭和40(1965)年から実施してきた新進音楽家オーディションを再構築し、平成15(2003)年に新たに「東京音楽コンクール」をスタートさせました。第4回から本選がオーケストラ伴奏に、第5回からは一般の観客の投票で受賞者を決める「聴衆賞」も創設されました。このコンクールで優秀な成績を収めた参加者には、翌年の1月に行われる「東京音楽コンクール優勝者&最高位入賞者コンサート」や東京文化会館が主催する公演に出演できるなどさまざまな活躍の場が与えられます。若く、才能ある音楽家を多方面でサポートするコンクールなのです。

今年は、「声楽部門」「金管部門」「ピアノ部門」の3部門が実施されました。今回は、「ピアノ部門」の本選を大学生の渡邉薫子さん、池山由希子さんと一緒に鑑賞して来ました。

――お二人はふだんクラシック音楽を聴きに行くことはありますか?


昔ピアノを習っていたのでクラシック音楽はたまに聴くのですが、今回みたいな本格的なホールで聴くのは初めてなので楽しみです!

私もずっとピアノをやっていて、クラシック音楽もけっこう聴きに行きますね。ただ東京音楽コンクールの本選を見るのは初めてなので、どんな感じなのかワクワクします!

――それではさっそく東京音楽コンクール「ピアノ部門」の本選を聴きに行きましょう!

本選はプロさながらの熱演!

新人音楽家が応募できる「ピアノ部門」の今年の応募総数は133名。
第1次予選では、ベートーヴェンのピアノソナタとショパンのエチュードが課題曲として与えられ、11名が第2次予選に進出。そこで異なる時代の楽曲を30分に渡って演奏し、最終的に選ばれた4名が本選に登場します。
本選では、オーケストラと共演できる点や、24の協奏曲の中から、出場者がどの曲を選択するのかといった点も、コンクールを楽しむ醍醐味となってきます。


開原由紀乃さん 〈曲目〉 M.ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調 (写真:堀田力丸 提供:東京文化会館)

いよいよ始まった本選のトップバッターは、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程3年の開原由紀乃さん(1992年生まれ)。落ち着いた笑顔での登場に、コンクールとはいえ、すでにプロの風格を感じます。

開原さんが演奏するのは、バレエ音楽「ボレロ」で知られる、20世紀初頭に活躍したフランスの作曲家ラヴェルの「ピアノ協奏曲」。ラヴェルらしい繊細で美しいピアノの旋律に加え、故郷バスク地方の民謡やジャズの要素を取り入れた打楽器や管楽器との掛け合いが楽しめる楽曲で、華やかで変化に富んだメロディーが展開されます。

開原さんは、時に激しく、時に軽やかに、豊かな表現力でこの難曲を弾ききりました。


木本秀太さん 〈曲目〉S.ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30 (写真:堀田力丸 提供:東京文化会館)

つづいて2人目は、東京藝術大学音楽学部3年の木本秀太さん(1995年生まれ)です。
少し緊張気味に登場した木本さんは、天井を見上げて呼吸を整えた後、演奏をスタート。木本さんが挑戦する曲目は、ピアニストに高度な技術と表現力を要求し、「難曲中の難曲」としても知られる、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第3番」です。

ラフマニノフ独特の哀愁が漂うドラマチックな旋律に、次々に訪れる超絶技巧。木本さんは時々目を閉じながら、一筋縄ではいかない難曲を、一つ一つの音まで正確に、丁寧に演奏していきます。そして最後はオーケストラとぶつかりあうようなパワフルな演奏で発表を終えました。観客からは「ブラボー!」と歓声が響きます。

―ここで少しの休憩。ここまで聴いてみてどうですか?


ラフマニノフは「のだめカンタービレ」でとても好きになった作曲家なので、とても楽しみにしていました! 生で聴けて興奮しました!


すごい迫力! プロの演奏と全然変わらない感じがします。


ほんとに! 私たちとほとんど同年代なのにすごいなぁ。


西村翔太郎さん 〈曲目〉S.プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番 ハ長調 Op.26 (写真:堀田力丸 提供:東京文化会館)

休憩の後、3人目に登場したのは、東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程2年の西村翔太郎さん(1992年生まれ)。曲目は、プロコフィエフの「ピアノ協奏曲 第3番」です。まずはハンカチで手をふき、椅子の高さを調節した西村さん、落ち着いて演奏をスタートさせます。

プロコフィエフは、さきほどのラフマニノフと同時代に生きた、20世紀ロシアを代表する作曲家。ロシア革命の混乱を避け、ヨーロッパに滞在していた際に作曲されたこの曲は、都会的で洗練された要素と土俗的なたくましさを持ち、予想のつかないリズムや旋律が次々と展開する、20世紀最高のピアノ協奏曲とも言われる楽曲です。

西村さんは、オーケストラとの共演を楽しむように、緻密でありながらも力強いタッチで演奏していきます。そして終盤に向けてどんどん盛り上がりをみせる熱演を披露。終演後は、観客の歓声に満足げな表情で応えました。


チョン・キュビンさん 〈曲目〉L.v.ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」 (写真:堀田力丸 提供:東京文化会館)

そして最後は、韓国から参加したチョン・キュビンさん(1997年生まれ)。韓国藝術総合学校1年生で、まだ10代という若さですが、最終選考に残っているだけあってただものではない風格を漂わせています。演奏するのは、「皇帝」の愛称で知られるベートーヴェンの人気曲「ピアノ協奏曲第5番」です。

雰囲気がまるで韓流スターのようなチョンさん。手も大きく、ダイナミックな演奏が期待できそうです。最初に流れるような派手なピアノの旋律で始まり、一気に観客の心をつかむと、その後はまさに「皇帝」の名の通り、オーケストラと一体となって壮大な旋律を披露しました。チョンさんの演奏とパフォーマンスは、国際的な音楽コンクールの醍醐味である、日本人とは違った大胆さを感じさせます。そして最後は、高揚感あふれる華やかなフィナーレで演奏終了。大きな拍手が沸き起こります。

4人それぞれの素晴らしい演奏に、誰が優勝するのか全く予想できない展開に。
悩む間もなく、いよいよ観客が最も感動した人を決める「聴衆賞」の投票の時間です!

――お二人は誰に投票しましたか?



私は最後に演奏したチョンさんにしました。音に引き込まれるというか、魅せる力があるなと感じましたね。


私は2番目の木本さんです。もともとラフマニノフが好きと言うこともありますし、情熱的で力強い演奏がかっこよかったです!

本選はプロさながらの熱演!

――これですべての演奏が終わりましたが、実際にコンクールを見てみていかがでしたか?


今はCDとかYouTubeとかいろいろありますが、やっぱり本格的なコンサートホールで聴くと全然違うなって思いました。それに、同世代の人がこんなに活躍していると思うと感激しますね。

クラシック音楽を聴きに行くのはちょっとハードルが高いと思っていたのですが、チケット代も25歳以下は1,000円と意外に安くて驚きました。けっこうお気軽な価格でレベルが高い演奏が見られるんですね。


コンクールということで、普段の公演にはない緊張感があったのもよかったです!


審査の結果を待っている間、東京文化会館の広報担当である大林まりさんにお話を伺いました。

東京音楽コンクールは、今年で14回目を迎えますが、よりいっそうレベルの高いコンクールとするため、去年から国籍を問わず世界中の方が参加できるようになりました。本年度は応募者も増え、ピアノ、金管、声楽の3部門で436名の応募がありました。このコンクールは、現役演奏家を中心とした審査体制、入賞後の出演機会の提供やリサイタル支援など、手厚いサポートを用意している点で、他に類を見ない、日本を代表するコンクールです。


若い音楽家の登竜門的なコンクールなんですね。

そうですね。もちろん、そこからさらに研鑽を積む方が多いです。東京音楽コンクールでの受賞をきっかけに海外へ活躍の場を広げた方もたくさんいらっしゃいますよ。


クラシック音楽のコンサートはチケットが高くて大学生には敷居が高いのかなと思っていたのですが、東京文化会館の公演は意外にチケットが安いものも多いんですね。


主催事業の多くは25歳以下の場合、料金が安くなるので大学生のみなさんにぜひ来てほしいですね。クラシックコンサートのほかにも、12月には川端康成原作の現代オペラ「眠れる美女」など、オペラやクラシック音楽の初心者でもきっと楽しめる公演をたくさん開催していますよ。


「モーニングコンサート」は特に料金がお手ごろなので気軽に来られると思いました。文化会館は上野駅からすぐだからアクセスがいいのもうれしいですね。


ありがとうございます! 東京文化会館のコンサートホールは音響がすばらしく、「奇跡の音響」とも言われているんです。ぜひその点にも注目していただきたいですね。


今までは上野に来てもなかなか文化会館には入らなかったんですが、これからはもっと気軽に来たいです!

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