富永さん:これは「うまくやろう」と思う気持ちを捨てることじゃないでしょうか。
鹿毛さん:でもやっぱり怖いんだよ、失敗することが。だから開き直れない。
富永さん:面接でも恋愛でも友達関係でもそうですけど、「素の自分でやったほうがいい」ってことは多いんですよね。でもなかなかラーニングができない。大学生ぐらいだとさっきの恋愛とか友達関係とか全てのエレメントが中途半端なことがままあって、感覚的に理解することが難しいと思います。「自然な自分」を出すことの重要性を分かっているこの質問者はなかなかいいセンをいっているんじゃないでしょうか。
鹿毛さん:うん、そうだね。わかっているのは大きなことだよ。でも出せないんだよね。誰しもコンプレックスや弱いところがあって、そこは突かれたくないわけだよ。なら全部出さなくてもいいんだよ。出すべきところは出してもいいけど、出したくない部分は出さない。もしその部分について聞かれても、「そこは考えていませんでした」「それはわかりません」って素直に言えばいい。
ただ出さない領域が9割だったら駄目だけど、3割くらいだったらまだ相手も許せる。だから、自分の良い部分をどこまで相手に出せるか、そしてどこは出さないかをしっかりと決めること。でも取り繕うために「自分を作る」ことは駄目だよ。
富永さん:これは深い質問ですよね。この人には会って話をしてみたいですね。
鹿毛さん:うちの息子がまさにこんな感じ。質問者はまだ2年生だからもう少し時間はあるけど、就活が目の前の大学3年でもこういう子いっぱいいると思うよ。自分なりに考えているんだけど、考え方がまだ自分ごとじゃないというか、本気で頭を使って考えれてない。どうすればいいかな?
富永さん:例えばですけど、たくさんある電車の中吊り広告の中からどれか一つを選びます。そして選んだ中吊り広告について、なぜこんな広告の作りをしているのか、どういった意図で作られたかなどを、制作者に感情移入して考えなさい、と。「考えること」を自分に強制することで、もしかしたら興味を引き付けるもの見つけることができるかもしれないです。やっぱり自分で興味があることに真剣に向き合い、考えることができるならこうした質問はしないでしょうし、そうでない人は何でもいいからやってみて、幅を広げるべきですね。
鹿毛さん:とりえず試しにエントリーシートを書いてみるのはどうかな? 自分自身のことを書いているうちに、何か見えてくるかもしれないし。
富永さん:人を好きになるのも、会って話してどういう人か知ることで次第に好きになっていくことが多いと思います。鹿毛さんも言っていますけど、やっぱり就活でもいろんな人と会い、話をすることで興味を持ったり、好きになるんだと思います。
鹿毛さん:そうだ。そういうことだ。恋愛もいろんな人に会わないと、自分に合う最高のパートナーなんて見つけられないよ。さっき就活で何を始めればいいのかわからないという質問があったけど、それと同じでとにかくやってみること。会ってみる、話してみる、読んでみる、とにかく動きなさい!
悩める学生に対しての「愛のある説教」が数多く飛び出した鹿毛さんと富永さんの対談ですが、残念ながら最終回です。今回登場した「何をすればいいのかわからない」という質問は数多く寄せられていましたが、やはり「何でもいいから動くこと!」はとても大切ということです。同じように悩んでいる学生のみなさんは、わからないなりにまず1歩踏み出してみてはどうでしょうか? そこから進むべき道が見えてくるかもしれませんよ!
鹿毛康司(カゲ コウジ)
エステー株式会社 執行役 エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター。
福岡の田舎町で育ち2浪の末、奇跡的に早稲田大学商学部に合格。下手くそなアマチュアバンドをやりながら大学生活を過ごす。卒業後 なぜか大手の食品会社にはいり営業活動をするも非エリートとして扱われ、人生最大の決意でアメリカのMBAをとりにいく。最大の決意とは「ただひたすら勉学に励む」ということだった。42歳で転職し、何故か勝手にクリエイターになってエステーCMの父となる。震災後に日本を応援したと必要以上に感謝され2012年CMクリエイティブの最大の賞であるACC賞GOLDを受賞した。ミゲルありがとう。
富永朋信(トミナガ トモノブ)
ドミノ・ピザジャパン株式会社執行役員 チーフマーケティングオフィサー。
日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。ソラーレ以降はCMOとしてマーケティング部門を統括。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。西友では同社のイメージを一変させるキャンペーンを連発した。ブランドの構造はカテゴリによって違うことに気付き、全てのカテゴリのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませている。座右の銘はたくさんあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。
(中田ボンベ@dcp)