「とりあえずビール」ってなんで「とりあえず」って言うの #もやもや解決ゼミ

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コンパや飲み会で、オーダーを取りに来た店員さんに「とりあえずビール」と言うことはありませんか? では「とりあえず」という言葉は、どんな心理から使われているのでしょうか?

立教大学 現代心理学部映像身体学科の香山リカ教授に伺いました。香山先生は、精神科医としての活動も行っていらっしゃいます。

「じゃ、とりあえず生ビールでいいかな」

宴会でちょっと上の世代が幹事のときに、ときどき聞く言葉ではないでしょうか。もちろん未成年の学生がいるときでも、「とりあえずみんなビールと……ハタチになってない人はウーロン茶」と勝手に決められることがあります。

この「とりあえず」って何、とよく学生に聞かれます。大学の教員である私も学生との懇親会でこれをやったところ、参加者から「先生、どうして『とりあえず』なんですか? 最初から好きなものをそれぞれ頼めばいいじゃないですか」と言われて、返す言葉もなかったことがありました。

「とりあえずなんて必要ない」というのは、まさに正論です。でもここには、ちょっとした心理学的な理由があるのです。そのときの自分自身の気持ちも思い出しながら解説してみましょう。

宴会始めの「とりあえず」には、まず「とにかく早く喉を潤したいから」

そしてもう一つ、まずはみんな一緒の飲み物で乾杯することで、宴会が始まるときの一体感を味わいたい、という気持ちが込められているのです。

今はコロナで大人数が集まっての宴会はほとんど開けませんが、そのせいもあり、職場や学校のゼミでなかなか連帯感が生まれにくい、という話をよく聞きます。

逆に考えれば、宴会にはおいしいものを食べたり飲んだりという以上に、「この空間にいる私たち、同じ〇〇の仲間なんだよね」と確認し合いたいという目的があるわけです。

そのためにも、宴会のスタートの雰囲気は大切です。「はい、みんなとりあえず生ビールでいいかな? じゃ数を数えるから、ハタチ以上の人は手を挙げて」などと言って、みんなの注目が幹事に集まる。そこで出席者は、ちょっと大げさに言えば「ああ、ここで手を挙げてる人たち、これが自分のチームなんだ」と確認する。仲間意識はいきなり絶好調ですね。

しかし、そのあたりの心理は、なかなか若い世代には理解できないようです。

もちろん仲間意識が大切とは分かっているけれど、それをなぜ「とりあえず」なんていう言葉で確認しなければならないのか。もっと別の要素、例えば軽い自己紹介や隣同士の会話を通して、お互いを知ったり理解し合ったりすればいいじゃないか。そう思っているのです。

この合理的な考えは素晴らしいと思います。心理学的にも「とりあえず」での一体感より、対話を通して理解し合うことのほうが真の関係性の強化には、ずっと有益といえます。

しかし、コミュニケーション力に今ひとつ自信のない「上の世代」の人たちは、そこに自信が持てない。それよりも「とりあえず」で気持ちを一つにまとめ、「カンパーイ!」と同じ飲み物で宴会をスタートさせて手っ取り早く仲間意識を作ってしまって安心したい、と思うわけですね。

私もかなり上の世代の教員の一人としては、「その大人たちの自信のなさと焦りの気持ち、ちょっと分かってあげてほしいな」とも思います。

とはいえ、「とりあえず全員ビール」などとひとまとめにされ、好みでもない飲み物を飲む必要もありません。

「私、生搾りグレープフルーツサワー季節限定黒タピオカ入りでお願いします」と好きなものを注文してよいのです。でも、そう言われると上の世代は、「な、仲間意識が、一体感が……」とさらに不安を感じる。

だから宴会が始まったら、ちょっとだけ上の世代とも会話して、「今日の会、楽しいですね!」なんて言いながら、盛り上がるのもいいかもしれないですね。

香山先生によれば、「とりあえずビール」の「とりあえず」には、みんなで一緒の飲み物を頼み、早く一体感を味わいたいという心理が込められているとのこと。

確かに、飲み物のオーダーがばらばらだと、テーブルになかなか来ない、飲み物が全員分そろわないということが起こりがち。乾杯までスムーズにいきません。そのような宴会の進行にまで配慮した言葉といえるのでしょう。

もし、皆さんより年上の人が「とりあえずビール」と始めたら、今回の香山先生の解説を思い出して、「今日の会、楽しいですね!」と言ってみるのもいいかもしれないですね。

イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp

教えてくれた先生

香山リカ Profile

精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。
豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。

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