夏は、特に冒険（たび）に出たくなる季節。でも、「何からはじめればいいのか分からない」という人は、まず映画で好奇心を刺激してみよう！ 映画の中でなら、胸躍るワイルドな冒険も、命を賭けたスリリングな旅も、ひと夏の特別な経験も、どんなことだって体感することができるはず。

観たら今すぐ冒険（たび）に出たくなる、そんなスペシャルな冒険映画を編集兼ライターの門間雄介さんに聞いてきました！

（1）『モーターサイクル・ダイアリーズ』（2004年）

監督：ウォルター・サレス
出演：ガエル・ガルシア・ベルナル

キューバの革命家、チェ・ゲバラ。まだ若き医大生だったエルネスト（ゲバラ）が友人とバイク1台にまたがり、南米大陸を縦断する旅へ出ます。マチャピチュ遺跡やアマゾン、アンデスの雪山といった南米らしい景色に感動しながら、先住民族やハンセン病患者などその地に暮らす人々の抱える問題に直面し、エルネストは自らの進むべき道を、旅を通して見つけていきます。

ガエル・ガルシア・ベルナルが若きゲバラを好演したこの映画が個人的にも大好きだと言う門間さん。若い人たちにとって共感できるポイントがたくさんあると教えてくれました。

「青春時代は、自分の将来はどうあるべきか、どこへ進めばいいのか迷う時期だと思います。そんな時に、この映画を観るととても勇気づけられると思う。冒険に一歩踏み出すと、究極の選択を迫られることがあります。その時、自分は何を選ぶのか。その選択を通して、己の生き方そのものが目の前に現れてくる。主人公の選択が、観る側にも大きな気づきを与えてくれるんです。また、本作は友情を描くロードムービーとしても素晴らしい。映画を観終わったあと、彼らを真似て、この時にしかできない友達との濃密な経験ができる旅へと出かけたくなるはずです」

（2）『イントゥ・ザ・ワイルド』（2007年）

監督：ショーン・ペン
出演：エミール・ハーシュ

原作は、ベストセラーとなったジョン・クラカワーのノンフィクション作品「荒野へ」。実力派俳優として知られ、映画監督でもあるショーン・ペンはこの原作に感銘を受け、映画化権を獲得し、実写化しました。

主人公は、裕福な家庭に育ち、優秀な成績で大学を卒業したばかりの青年・クリストファー。彼が周囲に何も告げぬまま、目指したのはなんと極寒のアラスカの地でした。

「将来を属望された若者が、ひとりヒッチハイクで放浪の旅に出ます。しかし、最後には飲まず食わずで、アラスカの荒野で餓死をしてしまう。とても悲劇的な結末なのですが、彼が恵まれた環境にいながら、どうしてそんな行動をしなくてはいけなかったのか。ぜひ、その動機について考えながら観てほしい。物が溢れた消費社会や情報過多の現代に身を置いていると、真面目に生きている人ほど、息がつまる時があるのではないかと思います。そんな閉塞感や圧迫感に行き詰まった時こそ、自分の感情や衝動に素直に従ったクリストファーの冒険が心に響くはず。大自然に身を委ねる意味、現代人の生き方のひとつのバイブルになってくれるはずです」

（3）『オデッセイ』（2015年）

監督：リドリー・スコット
出演：マッド・デイモン

あるアクシンデントが起き、火星にひとりきりで取り残されることになった宇宙飛行士のサバイバル劇を描いた話題作です。地球との交信手段はなく、水も酸素も食料も絶対的に足りない……絶体絶命の状況でありながら、生き抜くことを決して諦めなかった主人公のタフなキャラクターに注目して観て、と門間さん。

「マット・デイモンが演じる、主人公のマーク・ワトニーがとにかく魅力的です。生きること自体が難しいかなりの危機的状況。でも、それに絶望せずに、食料を作るとか、水を作るとか、目の前のミッションをひとつひとつクリアしていく。その姿勢に大きなメッセージがあると思います。また、このマークのキャラがすごくいい。けっこう、ずっとダジャレを言ってたりとか、音楽を流してダンスしたり、いい意味でずっとふざけてるんです。どんな苦難があっても、ユーモアを忘れずに生きることの大切さも教えてくれる。マット・デイモンは、言わずもがな世界的な名優のひとり。この映画での演技も素晴らしいですが、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』など、若者の苦悩を体現する名手でもあります。もし、本作で彼のことが気になったら過去の作品がたくさんあるので、出演作を追って観てみるのもいいと思いますよ」

（4） 『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』（2017年）

監督：ジェイク・カスダン
出演：ドウェイン・ジョンソン

ロビン・ウィリアムズ主演で1995年に映画化されたオリジナルは当時、大ヒットを記録。本作は、その20年後を描きます。ゲームと現実が交錯するワイルドなアドベンチャーという設定はそのままに、時代に合わせボードゲームからTVゲームソフトにアップデート。居残りを命じられた４人の高校生が地下室で偶然みつけた古いTVゲームのスイッチを入れると、危険なゲームの世界へと吸い込まれてしまいます。彼らはそれぞれ、自分たちが選んだゲームの中の登場人物に肉体ごと入れ替わり、ゲームクリアを目指しジャグルをさまようことになります。

「男女４人の高校生たちが、それぞれ自分と真反対のキャラクターになるところがこの映画の肝。オタク気質の弱気な男の子が、『ワイルド・スピード』シリーズのドウェイン・ジョンソン演じる筋肉隆々のタフな冒険家になっていたりとか。キャラクターの姿を借り、ゲームをクリアしていくことで主人公たちは自分自身のコンプレックスや欠点と向き合い、克服していく。その姿がすごくいいんです。何も考えずに笑える娯楽作でありながら、ちゃんと根っこの部分では、高校生たちひとりひとりの成長をきちんと描いている。そこに感動があるし、一歩踏み出す勇気を与えてもらえると思いますね」

（5） 『17歳の肖像』（2010年）

監督：ロネ・シェルフィグ
出演：キャリー・マリガン

イギリスで著名な辛口ジャーナリスト、リン・バーバーの自叙伝を、これまた人気作家であるニック・ホーンビィが脚本を手がけた話題作。ニック・ホーンビィは、本作で米アカデミー賞の脚色賞にノミネートされました。主人公は、ロンドン郊外に暮らす16歳の普通の女の子、ジェニー。ある日、ジェニーは倍以上年の離れた男性デイヴィッドと出会います。教養があり、洗練された雰囲気のデイヴィッドはジェニーを大人のように扱ってくれます。ジェニーもすっかり彼に夢中になっていき……。

「女性が主人公になった冒険映画もセレクトしたくて本作を選びました。宇宙に行くわけでも、ジャングルに行くわけでもないですが、日常の延長上にある、知らない世界をのぞくことも大きな冒険なのではないかと思います。ジェニーは、年上の男性に導かれ、知らなかった大人の世界へと足を踏み入れます。どんなところにも自分を変える冒険はある。そのことを知って欲しいですね。また、冒険の物語は、辿り着いた先で得られるご褒美があるのが定石ですが、逆に、旅した結果、元いた自分の居場所の良さに気づくという結論もある。ジェニーが選んだのは、まさに後者。冒険の末、得た気づきが愛おしい。そこもじっくりかみしめて欲しいです」

まとめ

５作ともいずれも旅立つ魅力に満ちたラインナップ。あなたはどの冒険にもっとも惹かれましたか？ 

「どの映画を選ぶか、そのこと自体が自分を知る、理解するきっけかになると思う。映画は世界を知るきっかけです。自分が知りたい世界をのぞき、そこにある問題やメッセージを読み取ることで、現実の社会で直面しているような困難にも、一歩踏み出せる勇気が得られると思います。どんな冒険が自分に必要なのか、それを知るために一本選んでみるのも面白いかもしれません。自分自身を鼓舞し、前に進む人もいるでしょうし、人によっては、現実逃避の願望を叶えてくれるのが冒険映画かも。どんな楽しみ方も正解だと思います」

文・取材：梅原加奈
制作：Mo-Green
イラスト：福井海東
編集：マイナビ学生の窓口編集部