大教室の講義、いつも同じ席に座りたくなるのってなんで? #もやもや解決ゼミ
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みなさんは、大学の講義に出席したとき、大きな教室でどこでも座っていい場合でもなんとなく「座る位置」が決まっていたりしませんか? 誰かがその席に先に座っていると、「そこに座りたかったのに」なんて思ってしまったり……。では、なぜ自由席にも関わらず「同じ席に座りたい」という気持ちになるのでしょうか?
今回は、精神科医としての活動も行っている立教大学 現代心理学部映像身体学科の香山リカ教授に、そのメカニズムを聞いてみました!
はるか昔、群れで生活していた頃の記憶が関係
たしかに、大学の授業は基本的に「自由席」のはずなのに、なんとなく位置が決まってしまうことが多いようですね。
私自身、教員として大教室で授業をしていても、何回かすると「あの辺に熱心にノートを取る男子グループが座っていて、あっちにはいつもスマホを見ている女子がいて……」とだいたい配置を覚えてしまうほどです。これには、心理学的にいくつか理由があると思います。
一つは、もともと群れで生きていたときの記憶が、私たちの脳や体に染み付いているということ。例えが適切かどうか分かりませんが、動物園で日本ザルがいるサル山に行くと、体の大きめのボスザルが山頂にデンと座っていて、その下に子ザルを抱えたメスや、小柄な若手らしきサルがエサを食べたりしています。
サルたちは遊びやケンカで移動することがあっても、気がつくとまた同じ場所に戻っている様子が見られます。つまり、群れにいるサルにとっては「私であること」「オレであること」というアイデンティティが、「どこを定位置としているか」とイコールなんです。
もちろん人間は定位置がアイデンティティであるわけではなく、「自分の名前はこれ、学部はここ、サークルはこれに入ってて、あと好きな食べものは◯◯料理」など、いろいろな言い方で自分を表現できます。
でも、脳のどこかには群れで生きていたはるか昔の記憶が残っているもの。大教室のような空間に入ると「場所を決めて落ち着きたい!」と自然に体が反応してしまうのでしょう。
「心の習慣をつける」ために、視覚・聴覚が大事!
そして、もう一つ。毎週、決まった曜日、決まった時間に、ある科目の授業を受けるというのは、「心の習慣」をつけるということです。
「心の習慣」を獲得するには、自分の時間割を見て、頭で「そうだ、木曜3限は政治学だ」などと理解することが大切なのですが、目や耳にも「あの風景、あの音の聞こえ方だったな」と頑張ってもらわなければなりません。そのためには、毎週だいたい同じ位置から同じ大きさで教員が見えたり、同じ方向から音が聞こえてきたりする必要があります。
「別に授業なんか習慣にならなくていいよ」という人は、そのときの気分で適当に座ればよいのですが、マジメで授業に対して前向きな人ほど、「しっかりこの授業を自分の『心の習慣』にしたい」と思って同じ座席を選びがちなのでしょう。
でも、今年の前期はオンライン授業のみになっている大学もあるので、「大教室のどこに座るか」と考えるようなことも少ないですね。私もまた教室で「お、あの熱心な学生が、またあの席に座ってるな」と確認しながら、早く対面で授業をしたいと感じています。
教室で同じ席に座りたくなる理由は、「はるか昔の行動様式の記憶が残っているため」「『心の習慣』をつけるため」と考えられるようです。たしかに、自分が興味のある講義ほど「席が決まっている」と思いませんか? あなたの「きちんと聞きたい」という気持ちから、心の習慣として身についているのかもしれませんね。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
香山リカ Profile
精神科医・立教大学現代心理学部映像身体学科教授。
1960年北海道生まれ。東京医科大卒。
豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。
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