ステイ・ホーム生活で「曜日感覚」がなくなってくるのはなぜ? #もやもや解決ゼミ
日常に潜む「お悩み・ギモン」=「もやもや」を学術的に解決するもやもや解決ゼミ。
新型コロナウイルスの影響で、多くの人は家にこもった生活を余儀なくされています。いわゆる「ステイ・ホーム」な状態ですが、このような状況が続くとだんだんと「曜日感覚」が失われてきますね。
では、なぜこのような曜日感覚の喪失が起こるのでしょうか?
今回、そのメカニズムと曜日感覚を失わないための方法を、立教大学 現代心理学部映像身体学科の教授で、精神科医としても活動している香山リカ教授に聞いてみました!
曜日感覚に関係する「見当識」とは
まず、私たちの心が、普段どのようにして曜日を認知しているかということをご説明しましょう。「今日は何曜日か」など、自分の置かれている状況を正しく認識する能力を、心理学では「見当識」と呼びます。
これには、脳の中の「視床、前脳基底部、海馬」という、けっこう奥の方にある部分が関わっています。わかりやすくするため、ここではこの3つの部分を脳の中の「見当識チーム」と名付けることにしましょう。
テレビなどで「高次脳機能障害」という障害が取り上げられた番組を見たことはありませんか? これは、交通事故などに遭った人で、CTなどでは脳に大きなダメージがなさそうに見えるのに、人格が変わったり曜日や場所などを間違ったりという「見当識障害」が起きる、診断がとても難しい障害です。
よく調べると「見当識チーム」など脳の奥の部分に、微細な傷がついていることもありますが、ほとんど治療法がなく、本人も家族もつらい思いをします。
では、今「ステイ・ホーム」で家にいることが多くなって、「あれ? 今日は金曜だっけ? それとも水曜?」と曜日の感覚がなくなるのも、この高次脳機能障害により見当識障害と同じような症状が起きているのでしょうか。みなさんもお分かりの通り、それとはちょっと違いますよね!
曜日がわかるのは、「見当識チーム」と前頭葉のチームプレー!
先ほど挙げた「見当識チーム」は、あくまで記憶の貯蔵庫のような役割を果たすところです。それだけでは曜日や月日をすぐに当てることはできません。
そこで、思い出す「手掛かり」を与える必要があります。それは、前頭葉という脳で最も大切な場所が担っています。 前頭葉が「ほら、今日は何曜日? 昨日、大学でゼミがあったじゃない。サークルはなかったけど。ということは……」と思い出すヒントを投げかける。
すると「見当識チーム」が働いて、「ということは、木曜日!」と正解を出すのです。「今日は何曜日だよね」と瞬間的に理解できるのは、脳の中のさまざまな部位が高度なチームプレーを行った成果というわけです。
「ステイ・ホーム」では見当識の「手掛かり」が少なくなる
さて、「ステイ・ホーム」の生活はどうでしょう。記憶の貯蔵庫である見当識チームは故障しているわけではありません。
ただ、「ほらほら、今日は何曜日? 大学では語学の授業があって……」と前頭葉がヒントを次々出そうにも、その材料が少なくなっています。
「えーと、昨日も家にいて……オンライン授業でPCを見て……」と、毎日変わり映えがない生活なので、「もっとマシな手掛かりはないの!?」と見当識チームはもやもやしっぱなしです。そのため家にこもっていると曜日感覚もなくなってくるというわけです。
曜日感覚の喪失を防ぐためには、やはり自分なりに1週間のスケジュールを作って、普段よりもさらにメリハリのある生活を送るしかありません。
例えば、「月曜はオンラインヨガをして夕食はめん類。火曜は映画を1本見て感想をブログに上げ、夕食は魚を焼いて食べる」……という感じです。 そのように前頭葉にヒントになるネタを与えてあげれば、あとはまたいつものチームプレーで曜日もバッチリ思い出せるはず。ぜひ試してみてください。
曜日感覚がなくなってしまうのは、生活にメリハリがなくなり、脳の前頭葉から見当識チームに与えられるヒントが少なくなってしまうからなのですね! これを避けるためには、普段の生活よりもさらにメリハリをつけるといいそうです。みなさんも香山先生のアドバイスを取り入れてみてはいかがでしょうか。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
精神科医・立教大学 現代心理学部映像身体学科教授。
1960年北海道生まれ。東京医科大学卒。
豊富な臨床経験を生かして、現代人の心の問題を中心にさまざまなメディアで発言を続けている。専門は精神病理学。