学問の面白さってなんですか? 「星」を好きな少年が天文学博士になるまでの過程を聞いてみた #学問の面白さ

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学問の面白さってなんですか? 「星」を好きな少年が天文学博士になるまでの過程を聞いてみた #学問の面白さ

"Education is a progressive discovery of our own ignorance."
– Will Durant
(勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。)
あまり勉強に熱が入らない大学生も多いのではないだろうか。もしそうなら、かなりもったいない。この連載では、勉強する意味を見出せていない諸君に向けて、文系・理系の様々な学問を探求する「知的好奇人」達からのメッセージをお届けする。ちょっとした好奇心が、諸君の人生をさらに豊かにしてくれることを祈って。

今回の"知的好奇人"は?

国立天文台 副台長の渡部潤一博士にお話を伺いました。渡部先生は、日本を代表する天文学者であり、「流星と彗星(すいせい)研究」の第一人者です。

国立天文台 副台長 渡部潤一博士

「ジャコビニ流星群」が……見られなかった!

――渡部先生が天文学の研究に進むきっかけは何でしたか?

子どもの頃は、星を見るか、虫を捕るか、ラジオを作って聞くか、まあそのようなものしかなかったのですが、わたし自身が理科少年だったので、大体一通りはやりましたね。ただ、アポロ11号の月面着陸や、火星大接近があったことも影響して、だんだんと天文に興味が傾いていきました。

決定的だったのは、小学6年生のときに「ジャコビニ流星群」を観測したことです。当時はすごい数の流星が見られると話題になっていました。なので理科少年を集めて、校庭で観測しようと担任の先生に相談したところ、「親が一緒ならいい」と許可が出ました。

ところがね、全然流星は現れなかったんですよ。
本当に1個も見られなかったので、がっかりしました(笑)。

ただ、がっかりしましたけどね、逆に私は面白いと思ったんですよ。偉い学者の先生方でも分からないことがあるということが分かりましたし、先生が「出る」と言っても、出ないことがあるんですよね(笑)。

「まだ分かっていないことがあるんだ」と身をもって知ることができたので、「自分でもフロンティアに立てるかもしれない」と思えたのです。それから、毎日のように流星を数えるようになりましたし、天文学をやろうと思ったのです。

最先端の天文学には大きな望遠鏡が必要である

渡部潤一博士

――大学で本格的に天文学研究の道へ入られたわけですが、当時の研究テーマはどのようなものでしたか?

私は理科少年だった時代から一貫して「流れ星と、その母親であるほうき星(彗星)」の研究をしてきました。ただ、大学院入試のときにそう言ったら「その研究テーマで教えられる人はいないからテーマを変えなさい」と言われたんですね。なので「テーマを変えるぐらいなら外国へ行きます」と言ってなんとか入れてもらいました(笑)。

ただ、大学院の指導は、確かにあまり役に立つものではなかったですね。当時における日本の天文学のレベルを反映していたのかなぁと思います。

――先生が大学生の時代には日本の天文学のレベルは低かったのですか?

今思うとやはり低かったといわざるを得ませんね。実際、国際学会などで外国へ行き、それを実感しました。

――具体的に日本はどのような点でレベルが低かったのでしょうか?

天文学は大きな望遠鏡がないと駄目なんですよ(笑)。世界数十位なんていうような、小さな望遠鏡しかない国では、天文学は発展しないのです。

天体望遠鏡がなくてもできる「天体力学」のような分野では日本も頑張っていましたけれども、国内には1.8メートルの望遠鏡しかなかったですし、やっぱり後進国だったのは否めないですね。

――現在では状況は異なっていますか?

日本は、野辺山の45メートル電波望遠鏡、ハワイのすばる望遠鏡、そして南米チリに巨大なアルマ望遠鏡を作ったことで、世界の最先端に躍り出ました。

今では欧米日と世界の三極の一つになっています。

ハワイのマウナケア山にあるすばる望遠鏡は、日本の技術の粋を集めて作られた本当に素晴らしい望遠鏡で、世界中の研究者が使いたいと思うものになっています。

「まだ分かってない」 くめども尽きせぬ面白さがある!

渡部潤一博士

――天文学の面白さはどんな点にあるのでしょうか?

他の学問にはない面白さとして、一般の人たちと現象を共有できるという点があげられると思います。明るいほうき星が空にあらわれたらみんなで見られますし、日食・月食もそうですよね。

もちろんプロとアマで使う道具は違いますが、同じ現象を見ることはできるのです。これは他の分野にはない特徴ですね。

――アマチュア天文観測家という方はたくさんいらっしゃいますね。

アマチュアが活躍できる分野については、「Xの学問」と「Yの学問」というのがありまして……

●Xの学問の例
Mathematics(マスマティックス):数学
Physics(フィジクス):物理学

●Yの学問の例
Biology(バイオロジー):生物学
Chemistry(ケミストリー):化学
Astronomy(アストロノミー):天文学

語尾が「エックス(X)」になる学問は、多様な現象の裏に隠れた唯一の法則を見いだそうとするものですから、アマチュアが活躍することは非常に難しいのです。

一方、語尾が「イー(Y)」になる学問は、多様さそのものに注目するものです。多様さは少数の研究者だけでは調査できないので、一般人でもすごい研究ができるわけです。植物学の牧野富太郎先生や、天文学も、そのような学問の一つですね。

――なるほど。先生ご自身の研究の面白い点はどんなことでしょうか?

流星にはお母さんとなる「彗星」があります。彗星は太陽に近付くと氷などが解けて尾を引くようになるので、彗星として観測できるわけです。

その彗星から砂粒なんかが出て、これが地球の大気圏に突入すると流星に見えるのですが、私の研究はこの流星と彗星の両方に注目していて、流星を調べることでお母さん(彗星)の様子も分かるのではないかと気付いたのです。これが面白い点です。

流星群

また、私たちは「ほうおう座流星群」の出現を予測することに成功しました。その母親は19世紀に観測されて以来行方不明になっていたブランペイン彗星なのですが、現在では氷が解けてなくなってしまい、小惑星になったと考えられています。そのため、約5年周期で巡ってきているはずなのに、以降は見つかっていなかったのです。

しかし、かつて彗星の頃に放出した砂粒が、地球に流星となって降ってくることに気が付いた
私たちが軌道計算を行って「ほうおう座流星群」の出現を予測して当てた、というわけです。

これは世界初のことでした。

――それは面白いですね! では、天文学の魅力とは何でしょうか?

それは「まだ予測がハズれることがある」という点です(笑)。端的なのは2013年のアイソン彗星です。自分自身の年齢のことを考えると「現役最後の明るい彗星の観測研究になるのかな?」と思っていたのですが、観測できずに消えてしまったんですよね※。

我々にはまだ分かっていないことが多いんだなぁと思いましたよ。もっともっと知らなくちゃいけないですね。

※アイソン彗星は太陽に接近した時に崩壊したと考えられています。

理系の学問、文系の学問の違いは?

――最近では文部科学省が学問をことさらに文系・理系に分けたがるなど、大学生でも学問を文系・理系で区別しがちです。先生は理系の学問、文系の学問の定義についてどのようにお考えでしょうか?

一般的には下記のように考えられていると思います。

・理系の学問は数式的な論理立てを必要とするもの

・文系の学問は人間社会に関わる人間のなせる業について研究し、数式・論理・正解のないようなものを追究する

ただ、謎解きをする面白さは両方とも同じではないでしょうか。

天文学は「天の文学」と読めるぐらいで、望遠鏡で星の光を集めて、その手紙を読み解いているようなものです。ですから、天文学でやっていることというのは、古文書を解読する先生と同じようなものです。

――「天の文学」は美しい言葉ですね。

天文学

本当にそうですよ。宇宙からは微かな光しかやって来ないですし、その点でも天文学は他の理系の学問とは違っています。実験ができませんので、我々は待つしかないのです(笑)。

だからどうしても忍耐強くなってしまう。

――先生は理系の学問の魅力はどんな点にあるとお考えでしょうか?

これは理系・文系という分け方によらないかもしれませんが、人類にはまだまだ分からないことがたくさんあるんですよ。知の地平線の先に、まだ見えてないものが本当にたくさんあるということが分かる……それが魅力ではないでしょうか。

例えば、天文学でいうと宇宙の95パーセントは分かっていない。これは「ダークエネルギー」とか「ダークマター」というのですが、正体が皆目分からない。物理学でいうと「大統一理論」はまだできていない。ミクロとマクロがつながっていないわけです。

文系でもそのようなことはあるのかもしれませんが、理系の学問では誰もが分かっていないことが明確に分かるときがくるんです。

ここが違っている点であり、魅力なのかもしれませんね。

自分の「知の地平線」を切り開く努力をしよう!

――「大学で学ぶこと」自体が、研究者にでもならない限り意味がないのではないか、といった意見も多いですが、大学生が大学で学ぶ意味とはどんなことだと先生はお考えでしょうか?

自分の知っていることの地平線を広げることに意味があると思います。18歳まで生きて、さまざまなことを知ってきたと思うのですが、世の中にはもっともっといろんなことがあるわけです。それをどのように知るのか、その術を得ることができるのが、大学で学ぶことのメリットだと思います。

分野は違っても、自分の「知の地平線」を切り開くために会得したノウハウは、社会に出てもきっと役立つはずです。研究者にならなくても、会社に勤務しても、やっぱりそのようなノウハウは大事ですし、無駄にはならない。知識だけではなく、知識の広げ方を身に付けるようにしていただきたいですね。

――ありがとうございました。

天文学の魅力

【編集後記】渡部先生の考える天文学の魅力は「まだ分からないことがある」でした。天文学にはくめども尽きせぬ面白さがあるのですね。

大学生の皆さんもぜひ「分からないことがたくさんあること」を知って、自分の「知の地平線」を切り開く努力をしてみてください。学問の面白さが身近に感じられるかもしれませんよ。

【渡部潤一 Profile】

福島県生まれ。大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 国立天文台 副台長(総務担当)。教授。総合研究大学院大学数物科学研究科天文科学専攻教授。博士(理学)。

1983年、東京大学理学部天文学科修了。1987年、東京大学東京天文台助手。1988年、東京大学にて学位取得(理学博士)、国立天文台・光学赤外線天文学研究系・助手。1992年、総合研究大学院大学・数物科学研究科助手併任。1994年、国立天文台広報普及室長を兼務(2003年まで)。1998年、国立天文台天文情報公開センター助教授。2005年、国立天文台天文情報センター広報室長。2006年、国立天文台天文情報センター長。2008年、同アーカイブ室長(兼務)。2010年、同 広報室長、同教授。2012年より現職。

『面白いほど宇宙がわかる15の言の葉』(小学館、2012年)、『天体写真でひもとく宇宙のふしぎ』(SBクリエイティブ、2009年)、『-新書で入門-新しい太陽系』(新潮社、2007年)など著書多数。

(高橋モータース@dcp)

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