研究者になりたい! コネなしお金なし……は茨の道? #大学1年生の転び方

トミヤマユキコ

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研究者になりたい! コネなしお金なし……は茨の道? #大学1年生の転び方

大学って、一体なんのために入るんでしょう? 

もともとは「義務教育だけじゃ足りない!   もっともっと勉強させてくれ!」という人たちが目指す場所だったはずなんですけど、いまや「何かとつぶしがきくから」みたいな理由で大学を目指す人も少なくないですよね。「勉強がしたい」というより「とにかく単位を稼いで学士の位をゲットしたい! そして就活を有利に進めたい!」みたいな。 

もちろん、稼いで食っていかなければ死んでしまいますから、経済的安定のために進学するのは「生きる智慧」として圧倒的に正しいですし、責めることなんか誰にもできません……でも、「もっと勉強させてくれ!」という人が少数派なのだとすれば、大学の存在意義として本末転倒というか、なかなかシビアな世の中になってきてるな〜という気はします。

今回ご紹介するのは、高等研究機関で働きたい方のお便りです。まさに少数派の声ですね。大学教員をやっている身としては、応援したいですし、何かお役に立てることがあればいいのですが……というわけで、ひとまず以下を読んでみてください。

学者・研究者・大学の先生になりたいという夢があっても、金銭面の関係からなかなか夢を叶えられるタイミングを掴めません。学者になれるかは結局「コネ」によって左右されてしまう部分が大きいです。学者を目指すにも、大学院に行くための学費や研究費を考えると予算は数百万円になります。アルバイトのみの収入では赤字になってしまうのが目に見えています。(そのため、現在は新卒として会社に入社することにしました。)また、大学の先生を目指そうと考えても、「少子化が進んでいることから、大学が生き残れるかどうかも危うい状況にある。そのため、大学の先生の募集枠はかなり狭い」と、大学の職員が仰っておりました。


この学問の世界の残酷さをどうにかできないかと考え続けています。学者になりたくてもなれず、人生をくすぶっている人たちが世の中に沢山いるでしょう。発想の転換として、この「人生をくすぶっている人たち」を救うビジネスを始めたらいいのではないかと考えています。しかし、この問題を解決させるのはあまりに難しすぎるので頭を抱えています。
(女性/大学4年生)

 

経済的に苦しければ兼業研究者を目指すのもアリ!


自分自身のことを振り返ると、やっぱりお金の問題は大きかったですね。というか、いまだに大きいです。毎月けっこうな額の奨学金を返済しているので。

わたしの大学院生活は、奨学金に仕送りと原稿料を足すことでギリギリ成立していました。これが優秀な院生だと、返済不要の奨学金や研究費をもらえたりもするんですが、なにしろ劣等生だったもので、なにをやるにも自腹だったんですよ。もうね、借金まみれは不可避でしたね。

しかもやっているのは女子マンガの研究……そんな研究者を雇う大学があるとはとても思えなかったのですが、それでも大学に居続けたのは、単にわたしが楽観的だったからです(笑)。奨学金が底をついたら大学院を辞めて、ライター仕事を頑張ればいっか〜! くらいにしか思ってなかったんです。

つまり、どういうことかというと、長い研究人生の中で、研究の比重が大きいときと、仕事の比重が大きいときがあって当然と思っていたんですね。エリートじゃないので、ずっと研究だけやれると思っていなかったというか。お金と時間に余裕があるときは研究して、そうじゃないときは仕事で稼いで、細く長く研究と関わっていければいいや、と。

これは野良犬研究者の考え方なので(笑)、馴染まない方もいそうですが、わたし個人は、このやり方で大学の先生になれてしまったので、結果オーライです(ホント、楽観的すぎますけど)。

そんなわけで、相談者さんがとりあえず就職されたのはよかったと思います。社会人になって、学費をためてから研究の世界に戻って来てもいいと思いますし、実際そういう人はけっこういます。もっと言えば、働き続けながら在野の研究者として活動することもできなくはないんですよね。
在野研究ビギナーズ――勝手にはじめる研究生活』という本も最近出たくらいですし、個人ではまかなえないレベルのラボが必要なんだ、ということでなければ、在野研究という道もアリなんじゃないかと思います。 

大学教員は研究以外で忙しい


「いや、在野研究とかじゃなくて、ちゃんと大学に所属したいんだよ〜(泣)」という気持ちもよくわかるのですが、お便りにもあったように、未来の日本では少子化が加速しますので、よほどの有名大でない限り、教員も学生集めに駆り出されます
広報課がやってくれるわけじゃなくて、教員も知恵を絞って、学生集めをしないといけないのです。

少子化が解決される気配がない以上、これは避けられない運命です。すぐに進学せず、社会人になるのであれば、広報的なことを学べるところに行くといいかも知れませんね。あとは学生の就職支援もマストなので、就活関連のことを学べる業界もいいと思います。

悲しい話なんですが、大学にとって「使える」人材とは、いまや純粋な研究者ではないんですよ。研究以外もふつうに出来て当たり前! という空気を、わたし自身、ひしひしと感じています。

研究者はしつこくてナンボ


さて……そろそろわかってきたでしょうか。研究者になれない学生のくすぶりがある一方で、研究に集中できない大学教員のくすぶりもあるんですよね。それぞれの世界に、それぞれの苦境がある。まあ、それは大学に限ったことだけじゃないですね。この世のあらゆる場所で、今日も誰かがくすぶっています。 

相談者さんが大学の研究環境を本気でなんとかしたいと思うのであれば、この国のあり方を疑問視することからはじめないといけません。研究職を目指す学生への支援がこんなにも手薄なのはなぜなのか(そうじゃない国もいっぱいあるのに)。

生活苦で自殺する若手研究者まで出てきているのに、非常勤講師の給料が低いままなのはなぜなのか。そもそも、なんでこんなに少子化が進んでしまったのか……詳しく調べていくと、理不尽だなと思うことにいっぱいぶつかるはずです。

そうした理不尽には、かなり長い歴史があったりして、当たり前ですがすぐには解決しません……ですが、研究者って、すぐに解決できるような問題を扱う仕事じゃないじゃないですか? クソ面倒くさい課題に何十年も取り組めるメンタルがあってナンボじゃないですか? 

しつこさ上等! 研究者になりたいのであれば、個人としてがんばるだけじゃなく、超長期計画で業界それ自体を変えていくことも視野に入れておいたほうほうがいいです。ずいぶんスケールのでかい話ですが、ほんとにそうなので。くすぶっている人たちを救うビジネスもいいのですが、なぜくすぶってしまう人が後を絶たないのか、その原因というか社会構造を考えてみることも大事だと思います。


そして最後にひとつだけ。コネのみで大学の教員になれる人はほとんどいませんので安心してください。まあ、失礼ながら「お前コネだろ!?」みたいな人もたま〜にお見かけしますけど(笑)、本当にコネかなんてわからないですし、全員コネ採用するほど、大学の人事もバカじゃないです。まあ、かと言って、実力だけあればいいかというとそうじゃないのが難しいところなんですけど。めちゃくちゃ優秀でも「時の運」に見放される人もいますので……。

世間一般と同じく、研究の世界もまた理不尽でままならないものですが、ともに戦ってくれる仲間が増えたらうれしいし助かるので、近い将来研究の世界に戻って来ることを当座の目標にしていただければと思います。

このようなお便りを送って下さるくらい問題意識がある方こそ、研究の世界に必要な人材だと思うので!


文・トミヤマユキコ
ライター、大学教員。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、2019年春から東北芸術工科大学講師。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学では、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。
書籍:『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(清田隆之との共著)
Twitter : @tomicatomica


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ライター、大学教員。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、2019年春から東北芸術工科大学講師。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学では、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。

書籍:『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(清田隆之との共著)

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