「研究」の醍醐味ってなんですか? 「お城」考古学研究の第一人者に話を聞いてみた #学問の面白さ

編集:ナベ子

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"Education is a progressive discovery of our own ignorance."
– Will Durant 
(勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。)
あまり勉強に熱が入らない大学生も多いのではないだろうか。もしそうなら、かなりもったいない。この連載では、勉強する意味を見出せていない諸君に向けて、文系・理系の様々な学問を探求する「知的好奇人」達からのメッセージをお届けする。ちょっとした好奇心が、諸君の人生をさらに豊かにしてくれることを祈って。

今回の"知的好奇人"は?

近年、日本のお城に興味を持つ人が増えています。「城ガール」といわれるお城に興味を持つ女性も増加中とのこと。お城は日本全国に多数ありますが、考古学的に中世・近世のお城が研究されるようになったのは近年になってからとみなさんはご存じでしょうか? 城郭考古学の第一人者として知られる奈良大学 文学部 文化財学科 千田嘉博教授にお話を伺いました。

30年前には中世・近世のお城の考古学的研究は一般的ではなかった

――千田先生が日本のお城を考古学的に研究しようと思われたきっかけは何でしたか?

中学1年生のとき名古屋に住んでいて、夏休みに友達と小豆島・淡路島に旅行しました。その旅行では姫路まで新幹線で移動したのですが、まだお城に興味がなかったので姫路城はノーマークでした。ところが駅から姫路城を遠望して、その美しさと強さに感動しました。その後、旅行で実際に訪ねたところより、行けなかった姫路城を調べ始めて、お城のとりこになりました。

――確かに、実際に姫路城を見ると圧倒されますね。

そうでしょう! 駅からわずかな時間、姫路城を見たのが契機になって、高校生の頃には学術論文を読むようになっていました。

――まさに好きこそものの上手なれ、ですね。大学でもお城の研究に進まれたのですか?

私が大学生のときには、日本の考古学というと縄文時代・弥生時代・古墳時代などの研究が主流で、中世や近世のお城を考古学から研究するというのは全く一般的ではありませんでした。「遺跡である城から歴史を考える研究」をしたいと思っても、中世・近世の城郭考古学ができそうな大学はなかったんですよ。

――えっ! そうなのですか?

はい。弥生時代の集落や古墳の発掘など、文字のない時代を調べるのが考古学というのが一般的な認識でした。ですからお城を発掘して研究したいと言っても全く相手にされません(笑)。やっと探して奈良大学の水野正好先生のところで学ぶことになりました。水野先生は中世や近世の考古学も研究しておられたまれな研究者でした。

――今ではずいぶんお城ファンを公言する人も増えていますよね。

それは本当にここ最近のお話です。漫画やゲームなどをきっかけに「お城が好き」という若い方が増えています。昔は「お城が好き」なんて言うとヘンな顔で見られたりしました。

――最近では「城ガール」と呼ばれる女性のお城ファンも増えていますね。

そうですね。うれしいことです。私が学生だった頃は、お城好きというと中・高年の男性ばかりでした(笑)。

お城を研究すると、その時代・その地域の社会の仕組みまで推測できる

――お城の研究でおもしろいことは何でしょうか?

お城を研究しているといろんなことが見えてくるのです。いわゆる戦国時代のお城をとってみても、当時は中央集権でなく究極の地方自治の時代でしたから、地域によってお城の姿が違っていました。

お城を築くためには膨大な人力、お金がかかるわけで、そのお城の規模を見れば財力や動員力が測れます。また造りを見ればどのような技術が使われているのかが分かります。中世のお城は石垣のないものも多いですが、石垣を造る技術がどこからどのように伝わったかを調べれば、技術の伝播のルートから当時の人や情報の往来について証明できます。

――なるほど。

みなさんはお城の建物には瓦が葺(ふ)かれているのが当たり前と思われるかもしれませんが、瓦葺きの建物が一般的になるのは江戸時代の初めで、瓦も石垣も元々は寺院が継承した技術でした。石垣は平安時代以降に山岳寺院を築くために取り入れられ、それが戦国時代になって武士の城に応用されたのです。

――知りませんでした。

お城というとその地域に偉い殿様がいて、その命令で造ったというイメージですが、それだけではできません。経費はもちろんですが、技術、家臣や領民との関係など、城は地域社会の総合力を反映したのです。

つまり社会のあり方や仕組みとセットになって、初めてお城はできたのです。だからこそ、お城は当時のその地域のシンボルになり得ました。別言すれば当時の政治や社会をお城から研究できるのです。

――これは確かにおもしろいですね!

学問は真理・真実を探究するもので、総合的な視点が必要

――文科省が「理系の学問を優遇する」といった姿勢を見せているため、ことさらに「理系・文系」という区分が強調されている昨今です。先生はこのような理系・文系という学問の区分についてどのようにお考えでしょうか?

真理、真実を探求する学問に、理系とか文系とか区分して考えても、あまり意味はないのではないでしょうか。

――考古学は文系に区分される学問ですね。

一般的にはそうです。しかし考古学では理系の調査方法の導入が進んでいます。たとえば遺跡探査は大きく進展しています。これまで考古学は実際に地面を掘る「遺跡発掘」が研究の大前提でした。   

ところが、現在では地中に電磁波やレーダー波、あるいは振動波を発射してその反射を分析、地中の遺跡を的確に把握できるようになりました。堀の跡などは本当にきれいに見つかるんですよ。また航空レーザー測量で空中からお城を発見して分析することも一般的になっています。植物が生い茂っていても、地表に残るお城の痕跡を明瞭に把握できる技術です。

――それは便利ですね。

このような観測データを扱うにはやはり理系的なメソッドが必要ですし、これからますますその傾向は強くなるでしょう。考古学にも理系的な手法を使いこなすスキルが不可欠になっているのです。ですから「考古学は文系の学問」と単純に分けたのでは、現在の考古学を見誤ってしまいます。

真実にたどり着くためには、理系・文系と学問を分けるのではなく、総合的に考える視点が必要です。単純に分野を分けて別のものと考えるのは、社会にとっても学問にとっても良いことではないと思います。

「お城」を残すことは社会的に意味がある!

――千田先生の研究は社会にどのような影響を与えるとお考えでしょうか?

城郭考古学はお城から過去の歴史を考えているだけの「趣味的な学問」というイメージがあると思います。しかし城郭考古学は過去を明らかにするだけでなく、お城の真実をつかんで保存し、活用するまでが研究の範囲です。具体的にはお城を史跡整備することで、わが国の歴史と文化の豊かさを明らかにして、歴史を感じられる魅力的な社会を生み出していきます。

今、国際的にも「サムライ」「ニンジャ」などへの関心が高まっています。お城はそれらを束ねる役割を持ちます。しかしお城を保存し活用するためには、地域にお住まいの方に、いかにお城の歴史的価値に共感してもらえるかがポイントです。

地域に残るお城の価値を、研究者だけでなく市民と一緒に共有できれば、昨日までただのやぶや山に見えていたところが、世界に一つだけのオンリーワンの価値を持つお城の跡で、地域の歴史を物語るかけがえのない場所として認識できます。みんながそう思えばお城を保存して整備・復元した上で、町づくりに生かしていけます。

↑発掘作業中の千田先生。千田先生は全国を飛び回り、お城の調査を続けていらっしゃいます。

――これからの町づくりにお城も役立つのですね。

つまり城郭考古学は過去の社会を究明する歴史の学問であるとともに、お城の整備・復元を通じて、地域社会の未来をつくる学問でもあるのです。

それを実践するために、全国を飛び回ってお城の調査や復元を自治体と一緒に考えています。また可能な限り講演を承って、市民に直接お城の魅力を語り掛けています。北海道から沖縄までお城のない都道府県はありませんから!

――これまでに失われてしまった城跡というのはあるのですか?

たくさんあります。日本の高度成長期には開発があっても中世や近世の城跡は調査せずに壊してしまう、といったことが多くありました。お城にとっては不遇な時代でした。

――どのくらいのお城の遺構が失われたのでしょうか?

日本列島には3万カ所以上のお城があったと考えられます。ここ50年ほどの間に1,000カ所は一部が壊されたり、完全に失われたのではないでしょうか。幸い、現在ではお城も埋蔵文化財の一つに位置付けられて、開発の前には必ず発掘を行うことになっています。

大学生が大学で学ぶ意味とは?

――「大学で学ぶこと」自体が、研究者にでもならない限り意味がないではないか、といった意見も多いですが、大学生が大学で学ぶ意味とはどんなことだと先生はお考えでしょうか?

 一つのテーマを掘り下げ、証拠に基づいて多角的に考察して結論を導き出す大学の学びは、学問分野に限らず、社会人に広く求められる「問題を発見して解決する能力」に直結します。そして歴史や考古学を大学で学ぶことで、世界の動きをロングターム(長期間)で捉える視点を身に付ければ、現実社会をより深く理解できます。

――ありがとうございました。

【編集後記】千田先生は「お城が残る地域に住んでいる方々に共感していただけるような研究を行うこと」を心掛けていらっしゃるそうです。そのために全国のお城を飛び回り、調査を続けているとのこと。漫画やアニメの影響もあって、今や日本のお城は日本人のみならず世界中からも注目されています。できるだけ多くのお城がその地域に住む人々から愛されるようになるといいですね!

【千田嘉博先生プロフィール】

愛知県生まれ。城郭考古学者。奈良大学 文学部 文化財学科 教授。大阪大学博士(文学)。1986年、奈良大学 文学部 文化財学科卒。同年名古屋市見晴台考古資料館学芸員、1990年、国立歴史民俗博物館 考古研究部 助手。1995年、文部省在外研究員としてドイツ考古学研究所、イギリス・ヨーク大学に留学。2000年、「織豊系城郭」の形成の研究により博士(文学)。2001年、国立歴史民俗博物館 考古研究部 助教授。2005年、奈良大学 文学部 文化財学科 助教授。2009年、同教授。2012-2013年、ドイツ・テュービンゲン大学客員教授。2014年-2016年、奈良大学 学長。

『一生に一度は行きたい日本の名城100選』(TJMOOK、2018年)、『江戸始図でわかった「江戸城」の真実』(宝島社新書、2017年、森岡知範氏との共著)、『真田丸の謎 戦国時代を「城」で読み解く』(NHK出版新書、2015年)、『信長の城』(岩波新書、2013年)など著書多数。

(高橋モータース@dcp)

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編集:ナベ子

編集:ナベ子

生まれは北海道、学生時代は主に研究と剣道に捧げてました。最近は妖怪が好きです。
好奇心で人生をもっと豊かに!をテーマに日常/非日常のアレコレを題材にした記事をメインで担当してます。

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