恐竜は実はもふもふだった?! ミステリー小説にも似た恐竜研究のロマン

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恐竜は実はもふもふだっ?!  ミステリー小説にも似た恐竜研究のロマン

恐竜はロマンをかき立てる存在です。恐竜についての研究者は世界中にいて、現在では次々と新しい事実が明らかになっています。今回は、筑波大学 田中康平博士の「恐竜の繁殖戦略」についての研究をご紹介します!

INDEX

恐竜研究は日進月歩! 新しい事実が次々とわかっている

恐竜というと、みなさんはどのような姿を思い浮かべるでしょうか? 例えば世界的に大ヒットした映画『ジュラシック・パーク』(1993年)では、ティラノサウルスは巨大なトカゲのような、まさに爬虫類の一種という姿で描かれていました。

本作は当時の最新の研究成果を取り入れ、十分なリサーチを基に作られたのですが、最近ではティラノサウルスをはじめ多くの恐竜に羽毛(およびそれに類するもの)があったことがわかっています。

(C)イラスト:服部雅人

つまり、多くの恐竜はもふもふだったわけです。

また、近年の定説によれば現在の鳥類は、恐竜の系統に属します。鳥が持っている羽、羽毛は、もともと鳥類以前の恐竜が獲得したものを、飛ぶために進化させたと考えられています。つまり、繁殖行動などのために持つようになった羽毛を流用、変化させて「飛ぶために使うようになった」のが「鳥」なのです。

恐竜は巨大な体でしたが、骨を調べてみるとできるだけ体重を軽くするために、空洞がたくさんあります。この構造は、空を飛ぶために体をできるだけ軽くしなければならなかった鳥類も引き継ぎました。

また、低酸素濃度の空気でも呼吸できるようにする「気嚢(きのう)」という器官を、恐竜が備えていたことがわかってきており、これも鳥類が引き継ぎ備えています。
骨の空洞は含気骨と呼ばれ、空気を蓄えることができます。この気嚢システムのおかげで渡り鳥は高い山脈を越え、1万メートルもの高空を飛ぶことができるのです。

恐竜は、当時の酸素濃度が低かった地球環境に適応するために気嚢を備えるようになったと考えられていますが、恐竜類の一派である鳥類もまた気嚢を活用して現在を生きているのです。

世界中で多くの研究者が恐竜に光を当て続けています。この先もこれまでの定説が覆されるような発見がどんどん出てくるでしょう。世代によって、恐竜と聞いて思い描く姿は全く違うものになるかもしれません。

考えてみてください。もしティラノサウルスがもふもふで、目がくりっと黒目がちで大きかったら……とてもかわいくなってしまいますね。

恐竜研究を始めたきっかけは「好きだったから」

「恐竜の繁殖行動」についての研究を進めている筑波大学 生命環境系 地球進化科学専攻 助教の田中康平博士にお話を伺いました。

田中先生は、北海道大学 総合博物館・小林快次教授、兵庫県立人と自然の博物館・久保田克博研究員などと共に、モンゴル・ゴビ砂漠で「アジア最大規模の獣脚類恐竜の集団営巣地」を発見されました。この発見は恐竜が群れで巣を守っていたということを示す証拠で、世界的にも大きな注目を集めました(詳細は以下URLを参照)。

⇒参照:『筑波大学』「恐竜は群れで巣を守っていた! ~モンゴル ゴビ砂漠でアジア最大規模の獣脚類恐竜の集団営巣跡を発見~」
http://www.tsukuba.ac.jp/atten...

――先生が恐竜の研究を始めようと思われたきっかけは何でしたか?

田中先生 一言でいえば「恐竜が好きだった」からです(笑)。また、北海道大学に進学したときに、小林快次先生※が大学に赴任してこられたことが大きな契機になりました。小林先生は、日本での恐竜専門の研究者の草分けという存在です。

――小林先生は、一般向けの書籍『恐竜まみれ:発掘現場は今日も命がけ』(新潮社、2019年)があるなどメディアでも有名な方ですね。小林先生が草分けというのは?

田中先生 私が大学生の時代には、純粋な意味で恐竜を専門に研究しているという大学の研究者は他にはいませんでした。

――えっ? そうなのですか。

田中先生 はい。それまでは、爬虫類化石の研究をしている人が恐竜も研究するとか、そういうケースが多くて、恐竜一本でという研究者は本当に小林先生が初めてという感じだったのです。
ですから大学2年生のときに小林先生が北海道大学に赴任してこられたのは、本当にラッキーなことでした。

――研究者にとって巡り合わせというのは大事なものなのですね。

田中先生 研究者なら誰でもそういう「つき」を経験したことがあると思います。私の場合、うまいことここまで来まして(笑)。恐竜の研究をしたいのであれば留学する、というのがそれまでの常道でしたので、私も大学院はカルガリー大学に行きました。
これも、小林先生に相談したら、カルガリー大学で恐竜の卵の研究をしているダーラ・ザレニツキー先生が大学院生を探しているという話があって……となって決まりました。

――本当についていらっしゃるのかもしれませんね。

※小林快次(こばやし よしつぐ)
北海道大学 総合博物館 教授。大阪大学 総合学術博物館 招聘教授。日本を代表する恐竜学者として知られています。

恐竜から鳥へ進化の道のり

――先生の研究について教えてください。

田中先生 私は「恐竜の繁殖行動」について研究しています。現在では、恐竜の一部が鳥に進化したことがわかっています。爬虫類と鳥類の中間にいるのが絶滅した恐竜になるわけです。爬虫類と鳥類では繁殖方法が異なっていますね。
私は「繁殖戦略」をキーワードに、恐竜の繁殖行動を調査し、繁殖戦略がどのように進化してきたのかを明らかにするのが目標です。

――大学生の頃から恐竜の繁殖方法について研究されていたのですか?

田中先生 大学4年生のときに恐竜の卵を調べ始めたのですが、どんどん面白くなって現在に至っています(笑)。

――恐竜の卵の化石はたくさん見つかっているのでしょうか?

田中先生 世界中で大量に見つかっています。調査が追いつかないほどです。

――知りませんでした。卵の化石からどんなことがわかるのでしょうか?

田中先生 繁殖に関する、いろいろなことがわかります。例えば、卵の表面を顕微鏡で調べてみると、恐竜の種類によって卵の殻に開いている穴(気孔)の大きさや数が異なっています。この穴は卵の中の胚が呼吸するためにあるのですが、あまりに穴の数が多いと卵の中の水分がどんどん蒸発して干からびてしまいます。

例えば、卵を抱いて温める(抱卵といいます)鳥では、巣の中で卵が乾燥しないよう、穴は小さく、数も少なくなっています。ですから、恐竜の場合でも殻の表面にある穴を調べることで、その恐竜がどのように卵を温めていたのかがわかるのです。

――なるほど。

田中先生 この研究は「卵殻の穴」という顕微鏡サイズの話でしたが、もっとシンプルな特徴、例えば卵の形状にも進化のヒミツが隠されています。例えば鳥に近い恐竜では、卵が細長くなります。これは、恐竜の骨盤が輪っかのような形をしていて、その中を通り抜ける卵は、卵の径が必然的に骨盤の太さに制限されるためです。

体のわりに大きな卵を産みたいのに、どうしても卵の幅は大きくできない。じゃあどうすればいいかと言うと、卵を前後に長くして、卵の大型化をはかるのです。卵が大きければ、それだけ大きなヒナが生まれますから、生存には有利になります。

――面白いですね! すると、卵の形状を見ると、それを産んだ恐竜の卵管の太さが推測でき、繁殖戦略が見えてくるわけですね

田中先生 また、巣の化石の堆積物を詳しく調べることで、巣材に何を使っていたのかといったことがわかります。現生動物でも、さまざまな方法で卵を温めます。地面に埋めて太陽光で温めたり、地熱を利用したり、植物が腐食する際に出る熱を利用したりですとか。巣材を調べるとその恐竜が取った温め方もわかってきます。

一つ一つはパズルのピースのようなものですが、それらをはめていくと恐竜の繁殖戦略の全体像が明らかになってくるわけです。

――モンゴルのゴビ砂漠で発見された集団営巣の跡ではどんなことがわかったのでしょうか?

田中先生 今回調査した巣化石たちは非常に保存状態がよくて、地層の様子から明らかに複数の親が同じ繁殖シーズンに産卵したものであることがわかっています。

親が集団で巣を守るというのは鳥類に見られる行動ですが、抱卵を行わない恐竜でも巣を守っていたと推測できます。15個の巣化石のうち、9個の巣で少なくとも1つの卵が孵化に成功した形跡が見つかりました。つまり、この集団営巣地の営巣成功率は9÷15で60%。この数字は、親が巣を守るワニ類や鳥類とほぼ同じなのです。

――先生の研究は社会にどのような影響を与えるでしょうか?

田中先生 恐竜研究の意義は、いろいろあると思うのですが、身近な例でいうと、「教科書に載せる内容を生み出す仕事」だと思っています。教科書って、子供たちが必ず読まなくてはいけない、避けては通れない本じゃないですか。
その内容を私たち研究者が作っているって考えたら、意義のある仕事だと思います。教科書に載るような大発見をしたいなと思います。

――確かにそうですね。

研究はまるでミステリー!

――先生の研究で面白い点とはどんなことでしょうか?

田中先生 「誰も知らないこと」を知ることができる、という点でしょう。恐竜研究は今急速に発展していて、本当に日進月歩でどんどん新しい発見がされています。私たち研究者でも付いていくのが大変なくらいです。

――そんなに進歩のスピードが速いのですか。

田中先生 世界中に多くの研究者がいて、しかも調査の技術もどんどん発達しています。負けないように頑張らないといけません。私の場合は新種の恐竜を見つけることも当然楽しいと思うのですが、未知の「恐竜の行動や生態」を解き明かすことのほうに興味があります。

行動は化石になりません。ですから、先ほどの卵の穴もそうですが、化石として残ったものから恐竜の行動について、論理的に筋道を立てて明らかにしていく。私はそれが好きですし、面白いと思っています。

――推理小説のようですね。

田中先生 そうですね、よくミステリーに例えられます。限られた証拠の中からいかに犯人を突き止めるかですから、たしかにミステリーに似ています。

――では逆に、研究でつらい点はありますか?

田中先生 つらい点は……そんなにない……かもしれません。まあ研究というのはうまくいかないことのほうが多いですよ。発掘しても何も出ないとか、論文で先を越されるとか、そういったことは多いですが、これはどんな研究でも同じでしょう。
自分が面白いと思うことをしていますので、つらいという点は特にないですね。

悩むよりも「楽しむこと」が大事

――研究者になりたいと思っている読者に向けて、アドバイスがありましたらぜひお願いいたします。

田中先生 「悩むよりも楽しむことが大事」ではないでしょうか。今やっていること、大学の講義でも何でも、とにかく興味を持って楽しむことですね。好きだなと思えば突き詰めればいいし、違うなと思えばやらなければいいし。

私の場合も楽しいからやっているわけで、興味を持ってやればその先は見えてきます。それはどの分野でも同じだと思います。何の分野でも深めていけば楽しいものです。

――ありがとうございました。


田中先生はご自身で「私がやっている恐竜の卵の研究は、恐竜研究の中では少し外れたところにあります。しかし、調べてみるとわからないことがたくさんあって、突き詰めていくと新しい発見があり、それがとても楽しい」とおっしゃっていました。

未知の領域に切り込む研究者は、極上のミステリーのような楽しさを味わうことができるのでしょう。田中先生の研究成果によって、未来の子供が読む理科の教科書は大きく書き換わるかもしれませんね。


田中康平 Profile
愛知県生まれ。筑波大学 生命環境系 地球進化科学専攻 助教。博士(Ph.D.)。
2008年、北海道大学 理学部 地球科学科卒業後、カルガリー大学へ留学。2017年、カルガリー大学 地球科学科修了、博士号取得。2017年、名古屋大学 博物館 日本学術振興会特別研究員SPDを経て現職。
2012年『University of Calgary Outstanding M.Sc. Academic Achievement Award』、2013年『Edwin H. and Margaret M. Colbert Student Poster Prize』、2016年『University of Calgary Outstanding Ph.D. Academic Achievement Award』を受賞。
監訳書に『恐竜の教科書 最新研究で読み解く進化の謎』(創元社、2019年、共同監訳)などがある。


(高橋モータース@dcp)

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好きなものはチョコとビールと音楽と映画。ネトフリ廃人。ときどき絵を描きます。
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