20歳、深夜2時、ハネケの『ファニーゲーム』。長久允の #わたしをつくった映画

編集部:いとり

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初めまして。『ウィーアーリトルゾンビーズ』という少年少女が冒険する映画を作りました、映画監督の長久允(ながひさまこと)と申します。

えっと、

体にとって、食事や睡眠をとるのにベストな時間帯があるように、
映画にもそういうものがあるのではないかと思います。
それは、目が冴えている深夜2時ごろ。よっこらせとDVDデッキを繋いで、ディスクをぶち込んで観る映画こそが、一番摂取効率がいいのではないか、と。それはもしかしたら映画館よりも効くときあります。ありますよね。
年齢も18〜22歳ごろ。って大学生ですね。そのころが一番吸収率高いですよね。いいなあ大学生。

ところで、本当は僕はミュージシャンになりたかった。

のです。僕は学生時代、ずっとサックスを吹いていて、10年くらいやったけど上手くならなかった。実力の天井が見えて辛かった。当時はギルエヴァンスというガリガリのおじさんがやっていたカオスなビッグバンドをやる部活にいて、なのだけど全然上手くならないんです、本当に僕だけが。

頭では完璧なバッチバチなソロが吹けるのに、ただただ「ぴーすかぱーすかぱーすか」鳴るだけ。サックスが自分の体と同化できない、コントロールできないことに悔しく思っていました。そうして「音楽で食っていく」という夢を諦めて「趣味で音楽やるくらいなら1ミリも吹かないほうがマシだ。」とのたまって酒飲んでクダを巻いていました。

つまり辞めた後は何もせずにぼんやりしていたわけです。「ああ何のために生きよう」なんてことを考えてるふりをしながら。

そこにきて、深夜2時が訪れるわけですね。

まだ高円寺(実家が高円寺なのです)にTSUTAYAがあった頃の話です。(今はヴィレヴァンになりました。)TSUTAYAでジャケ借りしたDVDを適当に観たのです。(やっぱりジャケ借りして巡り会うことこそが運命ですよね、人生において。ま、おいといて。)で、それがこれらです。

ミヒャエルハネケ『ファニーゲーム』、北野武『3-4x10月』、寺山修司『田園に死す』、川島雄三『しとやかな獣』、相米慎二『台風クラブ』、ガスヴァンサント『エレファント』、リチャードリンクレイター『ウェイキングライフ』、原一男『ゆきゆきて、神軍』、ルネラルーのいろいろ、シュヴァンクマイエルのいろいろ、ホドロフスキーのいろいろ。

見終わって、朝4時になるころには目が倍くらいに開いていました。開眼ってやつです。ベタなラインナップではあるんだけど、そこから「俺も映画を作りたい!」となり、深掘りが始まり、大学と同時に、せっせとキャバクラのボーイのバイトやティッシュ配りで稼いだお金で専門学校に入学するわけです。

だけど、映画を諦めました。

たくさん映像作ったんですけどね。「ぴあ」とか、何にも引っかからないわけです。悲しかったです。でも僕にとってはベストな映像表現していたつもりなんですけどね。で、二度目の夢を諦めての就職。
そこから10年ちょい、無表情で働きました。

でもやっぱり映画が作りたかった。

僕にとって就職してからの十何年間は冷凍庫で凍ってただけって感じでした。つまり、まだ20歳のままだった(いや30歳なんだけど)。で、そうして僕は映画をもう一度だけ撮ってみました。死ぬときに後悔しないように誰の目も気にせずに20歳の頃の自分に、嘘だけはつかないように心がけて。そのときの短編映画がサンダンス映画祭に引っかかり、なんとかいまに至っています。

だから20歳の頃に摂取した映画は、はまだ昨日食べたものって感じ。冷凍庫に入ってたから、まだ体に栄養が残ってる。
僕の映画も、20歳の誰かと深夜2時に運命的に巡り会ってもらえたらいいなと思う。ジャケ借りしてね。

長久允監督プロフィール
1984年生まれ東京都出身。2017年『そうして私たちはプールに金魚を、』がサンダンス国際映画祭で日本人初グランプリを受賞。

『ウィーアーリトルゾンビーズ 』


「そうして私たちはプールに金魚を、」が第33回サンダンス映画祭ショートフィルム部門でグランプリを受賞した長久允監督の長編デビュー作『WE ARE LITTLE ZOMBIES』。音楽を通して成長していく子どもたちの物語を、ギミック満載の映像表現や独特のセリフ回しで描く。第69回ベルリン国際映画祭ジェネレーション(14plus)部門でスペシャル・メンション賞(準グランプリ)、第35回サンダンス映画祭ワールドシネマ・ドラマティック・コンペティション部門で審査員特別賞オリジナリティ賞を受賞。
2020年2月5日にBlu-ray&DVD発売予定。

編集部:いとり

編集部:いとり

好きなものはチョコとビールと音楽と映画。ネトフリ廃人。ときどき絵を描きます。
Twitterで人の「いいね!」欄を見て時間をつぶすのが日課。

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