劇団ひとりが語る「真のお笑い芸人」とは

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『ROOKIES』などで知られる、青春漫画の巨匠・森田まさのりの『べしゃり暮らし』がついに映像化! “お笑い”が題材の本作は、間宮祥太朗・渡辺大知演じる若き漫才コンビの成長を追いながら、笑えて泣ける青春群像劇となっています。

本作でドラマ演出を初めて担当するのが、劇団ひとりさん。高校生の頃から芸人を続けられてきた経験をもとに、芸人としての生き残り方、観客と芸人の関係性など、「真のお笑い芸人のあり方」についても語っていただきました。

文:落合由希
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部

学校でウケて、笑いの世界で「挫折」

ーー今作は高校生がお笑い芸人を目指す物語ですよね。ひとりさん自身も高校生の頃からお笑いの活動をされていたわけですが、ご自身の過去と登場人物が重なったりしましたか?

僕も、中学・高校と学校ではみんなから「おもしろい」と言われた人間ですけど、実際お笑いの世界に飛び込んでみると、そこには“学校いちばんのひょうきん者”が全国から集まってきてるわけで。

今作の主人公である上妻圭右も、学校の中ではおもしろいとされていたけど、お笑いの世界に入っていろいろ挫折していく。そういう意味で、圭右と重なって見えた部分はあるかもしれないですね。僕だけじゃなくおそらく大半の芸人が経験していることじゃないかなと思います。

ーー実は『マイナビ学生の窓口」では昨年から「ほっとけない学生芸人GP」という学生限定のお笑い大会を主催しています。大会の審査基準が「ほっとけないこと」なんですが、ひとりさんが今いちばん「ほっとけない芸人」って誰ですか?


ほっとけない学生芸人GP(参考資料)

“神宮寺しし丸”ですかね。僕がもう何年になるかわからないくらい、ずっとかわいがっている後輩なんですけど、こいつはほっとけないですね。彼もなんだかんだで20年近く芸人をやってると思うんですよ。でも、世間で彼を知っている人がどれくらいいるか……。

彼はどうしても仕事が増えないので、急に花言葉を勉強したり、かと思いきや経済の勉強を始めたり、プロレスのHPを作ったり……。「ネタやれよ!」って思うんですけど、とにかくなんでもいいから芸能界に引っかかればと思って、試行錯誤を繰り返しているんで、ほっとけないんですよね。

「真のお笑い芸人」には、おもしろさに気づかせる力がある。

ーー学生時代からお笑い活動をしている人が、お笑いの世界で売れるためにはどうしていけばいいと思いますか?

まずは「どのスタイルでいくか」を明確に決めたほうがいいですね。自分の力量を見定めた上で、負け組として売れるのか、勝ち組として売れるのかを決める。

「勝ち組」でいくと決めたなら、徹底的に正統派のネタをどんどん作っていくべきだし、そうじゃなくて脇道から入っていくって決めたなら、なにかひとつ、他の誰も太刀打ちできないすごく特殊な芸や知識を持って、脇目も振らずに進んでいくべきだと思います。

そういう特殊なことをやってると、どうしても「やっぱりもうちょっとまともなほうがいいのかな」と考えちゃって、結果やり通せずに中途半端になる芸人って結構多いんです。だから、自分の信じるものがあったらそれをやり通すべき。「テレビに出る」ことをひとつの目標とするなら、「これに関しては誰にも負けない」というものを1個持っておくと強いかもしれないですね。

ーーひとりさんは「自分がおもしろいと思うものを貫き通して、最終的にお笑いの世界で結果を出すこと」は難しいと思いますか?

お笑いの仕事を何年かすると、必ずみんなぶつかるんですよね。自分がおもしろいと思うことをやるべきか、お客さんがおもしろいと思うことをやるべきかって。すごく悩むんですけど、結論を言っちゃえば両方とらなきゃダメだし、両方とらないような芸人は売れないです。

お客さんがウケることだけを考えてやっていて、実際ライブレベルだとすごく人気のあるコンビもいっぱいいたんですけど、全員消えていきました。やっぱりお客さんに迎合するということは、「自分がない」ってことなんです。お客さんが笑うことだけを追求しちゃった結果、いっとき女子高生とかにチヤホヤされるけど何の特色もない……みたいな。

かといって「オレはこれがおもしろいんだ」という思いだけで突き進んでる人は、続けてる人も多いけど売れはしない。「テレビに出てお金を稼ぐ」ということを成功とするのであれば、やっぱり両方できなくちゃダメ。

自分が「おもしろい」と思うことをちゃんとお客さんに伝える技術が大事なんです。僕は、芸人が「おもしろい」と思ってることが、そもそも世間と合わないってことはほぼないと思っているんで。「おもしろいと思うことを、どうやってお客さんにおもしろいと気づかせるか」が芸人の力量だと思う。

それこそビートたけしさんがそうだと思うんです。たけしさんはそれまでみんなが気づいてないものを「これがおもしろいんだ」って提示して、笑い方を教えて、お客さんを育てたみたいなところがあると思うんですよね。(ダウンタウンの)松本さんもそうですけど、「これがおもしろいんだぞ」っていうことをお客さんに気づかせることができるのが、「真のお笑い芸人」だと思います。

俳優演じる「芸人」でも、リアリティは追求。

ーー今作の演出オファーがあったときはどう感じましたか?

昔から海外ドラマがすごく好きで、もう何十年と夜な夜な観てるんですよね。数えてないですけど1000話以上は。ドラマにどっぷりハマると、映画の尺じゃ物足りなくなってきちゃうんです。だから「ドラマ(の演出を)やってみたいなぁ」なんてずっと思っていて。

そんなとき、テレ朝の方から声をかけていただいたので、すごいタイミングで。でも、そもそも“劇団ひとりにドラマの演出をやらせる理由”って、あんまりないなぁって思ってたんです。それが、「実はお笑いの話なんです」って言われたので、僕がやることに意味がある話が来たなと思って、即答で「やらせてください」って言いました。

ーー映画監督は経験されていましたが、ドラマならではの難しさはありましたか?

初めてのドラマ演出なので、他のドラマはどうかわからないですけど、時間的・金銭的な制約も含めて、かなり臨機応変にやらなくちゃいけないことが多かったですね。

映画の場合は、クランクインする前にお芝居もそうだし、カット割りも、どういう小道具があるかも、衣装も含めて、全体像が細部まで見えた状態で撮影に入っていくんです。でも、今回のドラマは見えてないままやらなくちゃいけないことが多々あったので、映画とはかなり違った印象でした。

ーー役者さんたちが演じる漫才シーンはどう感じましたか?

今回いちばん苦労したところですね。説得力というか、「これじゃ客は笑わねぇだろ」っていうネタになっちゃうと視聴者も冷めるだろうし。ある程度の芸人としてのたたずまいとかがないとお客さんを説得できないと思ったので、そこはけっこう役者さんに頑張ってもらいました。みんな一生懸命考えて、汗水流してくれたので、漫才シーンはぜひ温かい目で見守ってほしいですね。

ーー漫才シーンのネタは、ひとりさんが現場で考えたりすることもあったんですか?

ネタは基本的に原作に書いてあるんですよね。でも、漫画だとどうしてもコマとコマの間の言葉が足りなかったり、あとは時代が合っていないものもありました。そこは芸人のヤマザキモータースさんと火災報知器の小林さんに作家として入ってもらって、ネタを補ったり変更したりしました。結局20本近く作りましたね。

ーーでは、その漫才の内容も見どころですね。

そうですね。いわゆるテレビドラマに出てくるステレオタイプな芸人、派手なジャケットに蝶ネクタイつけて「なんでやねん」って言ってるようなものではなく、もうちょっと地に足のついた、リアリティのあるものにはできたかなって思います。

文:落合由希
写真:島田香
編集:学生の窓口編集部

『べしゃり暮らし』(テレビ朝日系)
7月27日(土)スタート!
毎週土曜よる11時15分放送

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お笑いとK-POP好き。名前の由来は「すいすい物事がうまくいくように」「水のようにチームになくてはならない存在になるように」から。
★ほっとけない学生芸人GP(@gm_hottokenaigp)運営も兼任中。

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