やりたくないことも、やる。監督・山崎貴の映画づくり

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本日7月26日公開の映画『アルキメデスの大戦』。第二次世界大戦中、戦艦大和の建造をめぐって行われる“机上の大戦”を描いた本作を手がけたのが、山崎貴監督です。

「苦手なことの中にこそチャンスがある」と語る監督ですが、実はご自身もやりたくないと思っていた「昭和」をテーマにした映画を作り、大成功を収めた経験があります。嫌なことや苦手なことをどう乗り越えて、ここまで監督を続けてこられたのか伺ってみました。本作の主人公の天才数学者・櫂直(かいただし)を演じた菅田将暉さんとの撮影エピソードにも注目です。

文:落合由希
写真:佐藤友昭
編集:学生の窓口編集部

「オタク」をそばに。あらゆることにはおもしろさがある

ーー本作の主人公・櫂は軍人が嫌いでありながら、結果的に「少佐」という位を受け入れることになります。監督自身は「本当はやりたくなかったけど、取り組まなければならなかったこと」はありますか?

1作目と2作目で作った作品は、わりと自分の趣味に合ったものだったんですが、3作目はプロデューサーから「昭和の話やれ」と言われて。昭和なんて全然趣味じゃないし、やりたくなくてすごく嫌だったんです。でもプロデューサーはすごくやりたがっていて、1作目・2作目を好き放題やらせてもらったので、3作目はお礼奉公しなくちゃいけないかな、と思ってやることにしました。

ーーそれが、映画『ALWAYS 三丁目の夕日』ですよね。

そうなんです。映画って、意外と興味がないことをやったときのほうが、結果が出ることがあるんですよね。自分ではつまんないと思ってるから、おもしろくするために必死になっていろいろ努力するんですよ。

好きなものだと何やっても自分の中では「好き!」ってなっちゃうから、一般のお客さんには伝わらない可能性があるんです。そんなに好きじゃないものだと、一生懸命頑張ってなんとかおもしろくしなきゃヤバい!って思うんですよね。そのときの努力は、映画にいい影響を与えるんじゃないかと思っています。

黒澤明監督も「夏の映画を夏に撮ってもダメなんだ」っておっしゃっていて、実際『野良犬』という映画は、夏の映画ですけど冬に撮られているんです。冬に夏の暑さを表現するためにみんな努力するから、それがお客さんに伝わるんですよね。

なので、最近はあまり興味がなくても、一生懸命勉強しておもしろさを見つけたり、おもしろくするための方法をいろいろ考えるようにしてますし、苦手の中にこそチャンスがあるかもしれないと思っています。

――やりたくないことに取り組まなければならないときは、どのように対処するといいと思いますか?

「昭和の作品を作れ」と言われたときは、自分の中でモチベーションが上がらない状態で作るのは、映画に対して失礼だなと思ったので、どうやったらモチベーションが上がるかなって考えました。そのときに使ったひとつの手が「オタクを近くにおくこと」。友達にたまたまいた「昭和オタク」をスタッフに引き入れて、「なぜ昭和に惹かれるのか」ということを、とにかく話してもらったんです。するとだんだん自分も昭和オタクになっていって。

やりたくないことも、自分がオタク化していくと急におもしろくなってくるというか。やりたくないことをやらなきゃいけなくなったら、「あらゆるものにおもしろさがある」ということを信じて、自分がそれをおもしろがる方法を見つけることがいちばんいいんじゃないかなと思います。

脚本否定≠人格否定。就活もオーディションも同じ

ーー監督にとって、今のお仕事は「やりたいこと」だと思うのですが、その中でもつらくてやりたくないと感じる作業はありますか?

脚本がうまくいかないときはけっこうつらいですね。脚本って、わりと自分の人格を賭けて書いていくんです。長い時間向き合ってるので、脚本を自分そのものみたいに思っちゃうというか。だから、脚本を拒否されると自分の人格が否定されたような気になるんですよ。

脚本の問題点やおもしろくない部分を、ちゃんと指摘してくれてる人の言葉が、「おまえがバカだからこんなにつまんないこと書いてるんだろう」って聞こえちゃうんです。そうすると、自分が書いちゃいけないんじゃないかと思って、心をえぐられる気分になります。客観視して、「その脚本は自分自身ではない」と思えるようになるまでは訓練が必要でしたね。

ーー就活でお祈りされたとき、「人格否定された」と思う感覚に似てるかもしれないですね。

たしかに! オーディションも似てると思います。オーディションって何十人見ても1人しか選べないわけですよ。落とされた人たちは自分が否定されたような気がしてると思うんだけど、その人を否定してるわけじゃなくて。

「自分は芝居が下手だから落とされてるんじゃないか」と感じる人も多いと思うんだけど、映画のキャスティングって上手い下手だけじゃない。むしろそれは2番目の条件で、いちばん大事なのはその作品が求めている雰囲気やキャラクターに合っているかどうかだと、僕は思っています。お芝居がうまくてキャラクターに合っていない人と、お芝居の実力はそこそこでキャラクターに合ってる人だったら、後者を選びますね。

ーー人格否定された気持ちになったとき、回復するための自分なりの方法はありますか?

脚本の場合は、しばらく放っておきます。違う仕事をして、熟成するのを待って、あとで敵の気持ちになって脚本を見てみる。離れている時間があると見えてくるものがあるんです。「たしかになぁ。悔しいけど指摘されたことは当たってんなぁ」と思って、そこを直す。言われた直後は感情的になって「そっちがバカじゃないの!?」と思っちゃって、素直に直せないんですよ(笑)。

死ぬ間際に「この仕事向いてなかった」と思いたくない

ーー仕事の中で「やりたくないこと」があったら、どう受け入れたら続けられると思いますか?

(仕事は)やめてもいいと思いますけどね(笑)。だって、そんなに我慢しなくてもいい時代なわけじゃないですか。「つらくても、ずっといることで何か見つかる」というのが、今までの日本の価値観だったと思うんだけど、もうそういう時代じゃないとしたら、移り変わっていきながら「これはやりたい」と思うものを見つければいい。

やっぱりやりたい仕事に就いたほうが絶対幸せじゃないですか。人生のかなりの部分をお仕事に費やすわけで、ずっと「なんだかなぁ」と思って過ごすよりは……。もちろんポンポン変えちゃダメですけど、違っていたら転職しても許される時代になってきてるんじゃないかなと思うんですよね。

ーー以前に比べれば、転職する人も増えてきていますしね。

それを悪だと捉えないほうがいい気がする。だって、死ぬ間際に「やっぱこの仕事向いてなかったわ」って思うの、本当に嫌じゃないですか(笑)。違う会社に行ったときに、初めて「どれだけつらかったのか」ってこともわかるし、もし「どこへ行っても、あれぐらいのつらさはついて回るんだな」って思ったら、その場に留まるっていう考えになるかもしれない。特に売り手市場なんて、今しかないんだから(笑)。

菅田将暉は櫂と同じく、変人かもしれない

ーー監督としては、菅田さんには天才数学者・櫂をどのように演じてほしいと伝えていましたか?

「(櫂は)オタクだよね」ということは最初のころに言ってました。変人で、数学のことがものすごい好きで、物があれば測りたいだろうと。最初は数学の力でバシッと決めることを目的としてたんだけど、だんだん「日本を救う」とか、数学が持ってる力のすごさに気づいて、より数学が好きになっていく……みたいな人。最初から立派な人にするより、等身大の思いからだんだん大きな話になっていったほうがいいということは話しました。

ーーそれを伝えたときの菅田さんは?

変人を演じるということをおもしろがっていました。彼自身もともと数学がすごく好きで、役者になってなかったら数学の先生になりたかったらしいんですよ。今回のオファーも即答で受けてくれたんですけど、自分も数学が好きだからというのもあったみたいで。

櫂について「オタクだし、自分の考えたことで何かが証明されることに対してすごく燃えるタイプだ」って話したら「すげぇわかる」って言ってましたね。……だから、菅田くんは変人かもしれないです(笑)。

彼は追い込むと燃えるというのが、わりと早いうちにわかりました。だから「追い込もう♪」って(笑)。「数式は全部覚えてね」とか「図面もちゃんと描けるようにしてね」とか、ムチャなことを相当お願いしました。

ーー櫂の出演シーンで、監督がいちばん印象に残っているのは?

やっぱり、黒板に一気に数式を書いて、そのままセリフも言い出す大会議のシーンですね。あそこは僕だけじゃなくて、他の俳優陣も絶賛していました。現場の空気がすごかったんですよ。数式を書き終わって、セリフを言って、カット! ってなった瞬間、拍手が起こりました。「すごいね、彼は」って、みんな口々に言ってましたから。

ーーオープニングのVFXの戦艦大和のシーンも圧巻でしたが、いちばんこだわったところはどこですか?

大和が沈没する映画は過去にもいっぱいあるんです。僕らはデジタルが好き放題使える時代なので、今までの大和の映画では見たことのないものを絶対作ろうと思って、すごくこだわりました。初めて見る画と、「本当の大和はこうだったんじゃないか」という画をきちんと見せたいな、って。

ーー撮影が行われたのは夏だったそうですが、撮影前に「この暑い夏に撮ることに意味がある」とおっしゃっていたそうですね。

やっぱり夏って戦争が身近になるので、戦争映画を撮るんだったら、この時期にやるべきなんじゃないかという思いでした。でも、途中で完全に間違いだったなと思って……(笑)。去年の夏はかなり暑かったですし、出演者の軍服は冬服なので、異常に暑いんですよ。僕らスタッフはTシャツ1枚でやれるけど、キャストの方たちには本当に申し訳なかったです。

ーー監督が撮影現場で心がけていることはありますか?

あまり萎縮するような現場にしたくないというのは思ってますね。特に新人の方がいるときに緊張感があふれすぎちゃうと萎縮しちゃうんじゃないかと思って、気楽な感じで撮りたいっていうのは意識してるかな。ただ、緩急も大事です。緊張感のあるシーンは本当に緊張感が漂うようにしなきゃいけないし、最終的に映画の中にその空気感が伝わればいいなと思っています。

文:落合由希
写真:佐藤友昭
編集:学生の窓口編集部

『アルキメデスの大戦』
7月26日(金)全国東宝系にてロードショー
(c)2019「アルキメデスの大戦」製作委員会
(c)三田紀房/講談社

編集部:すい

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お笑いとK-POP好き。名前の由来は「すいすい物事がうまくいくように」「水のようにチームになくてはならない存在になるように」から。
★ほっとけない学生芸人GP(@gm_hottokenaigp)運営も兼任中。

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