プロ・アマ芸人から学生芸人に伝えたい。「笑いで生きる」それぞれの選択

ラリー遠田
2019/07/31
将来を考える
あとで読む

モテる男性の条件として、多くの女性が共通して挙げるのが「頼りになる男」である。いつもどっしり構えていて、多少のことでは動じない男性は、男女問わず好感を持たれる存在だろう。

私が企画協力と決勝の審査を務めた「ほっとけない学生芸人GP」で、昨年優勝した学生芸人のヨシダin the sunも、間違いなく頼りになる男である。ただ、彼はそんじょそこらの男とはひと味違う。ヨシダくんは「頼りにならない」という一点において誰よりも頼りになる、存在そのものが矛盾を内包するような特別な人間なのである。

そんなヨシダくんがファシリテーターを務めた座談会が6月28日都内某所にて開かれた。お笑いを続けていく中での将来のキャリア選択に迷っている彼が、プロ芸人とアマチュア芸人(社会人として働きながらお笑いを続けている人)を招いて、「プロ芸人になる選択・ならない選択」というテーマで話を聞いてみることにしたのだという。

プロ芸人側からは、さすらいラビーの宇野さんと中田さん、ラパルフェの都留さんと尾身さん。アマチュア芸人側からはふねしぼりの遠藤さんと後藤さん、デッサンビームの黒川さんの計7名が参加した。

ヨシダくんは進行役としての責務を果たそうとしていたのだが、先輩芸人一人一人を尊敬する気持ちが強すぎたのか、しばしば空回りする事態に。その度に先輩方に容赦なくツッコまれながらも、必死で司会者の役目を果たそうと奮闘していた。

 大学お笑いで結果が出ないと、
 プロになれない?

最初のテーマは「なぜその道を選択をしたのか?」だった。プロ芸人のさすらいラビーの中田さんは単純に「お笑いをやりたいと思ったから」と答えた。働きながらお笑いをやるという選択肢はそもそも思い浮かばなかったようだ。

相方の宇野さんは、就活の時期にどんな仕事をしたいのか考えてみて、お笑い以外にやりたいと思う仕事が思い浮かばなかった、というのがプロになった理由だった。

宇野

いざプロになったらつらいときもあるし、就職した同級生と比べたらびっくりするぐらいお金もないですけど、この道に進んでなかったら自分がどういう生活をしているんだろうって考えたら、たぶん今はめちゃめちゃ楽しいんだろうなって思います。

働きながらやるっていう選択肢もなくはないかもしれないですけど、絶対売れたいっていうのがあったので。

ラパルフェの尾身さんは、テレビ局に入ってバラエティ番組の制作をやることと、芸人になることという2つの夢の間で揺れていた。

尾身

テレビ局に入っても、必ずしもバラエティ番組の制作ができるかどうかは分からないんですよね。報道になるかもしれないし。

でも、出る側だったら目指すものが明確にあると思って、制作側ではなく出る側を選びました。

ここまで真面目な進路選択の話が続いていたが、相方の都留さんは「芸人になって乃木坂46と結婚したかった」と不純な動機を告白。ただ、その後、「昔から優等生タイプだったのでマジメじゃないものへの憧れがあり、それが芸人になることにつながった」という"マジメ"な理由もしっかり語っていた。

一方、アマチュア芸人の遠藤さんは、家が裕福ではなかったため金銭的な安定がほしかったということと、学生時代にオーディションを何回受けても受からなかったことからプロをあきらめた。相方の後藤さんも「実力不足だった」と同じように答えた。そんな彼らに対して、プロの立場である中田さんからは「学生時代の勝ち負けなんてあまり意味はないから、そんなに気にしなくても良かったのではないか」という意見も飛び出した。

前半のライブ配信パートはこちらから視聴可能

 プロで売れた同期には、
 悔しさも喜びもある

次に、別の道での生き方について思うことを語るテーマとなり、プロ芸人とアマチュア芸人がお互いに聞いてみたいことを質問することになった。プロ芸人の宇野さんから「同級生でプロになった人を見て、悔しいと思う気持ちはないのか」という質問が出た。これに対してアマチュアの3人からそれぞれ違った答えが返ってきた。

遠藤

僕は、最初の1年は悔しい気持ちもありました。でも、1年過ぎたあたりから良くも悪くも麻痺してくるというか、社会に適応してきちゃうんですよね。土日にはライブに出てネタをやれるし。

同級生だったGパンパンダやフランスピアノがテレビに出ているのを見ても、100(%)頑張れって思います。メジャーで日本人選手が活躍しているみたいな感じです。

黒川

むしろ自分がプロになっていたとしたらと思うと、差を見せつけられるのが怖くて。自分がプロじゃないほうがまだ気は楽なのかなと思いますね。

後藤

僕は(同級生の活躍を)テレビで見ても全然笑えないですね。にゃんこスターのアンゴラ村長が同期なんですけど、『キングオブコント』でウケていたときは、ネタ中だったんですけど1回トイレ行きました(笑)。

中田

アンゴラ村長のときはこっちもトイレ行ったよ(笑)。

後藤

1年ぐらい前までは同じ大会とかで戦っていた人が、プロの世界で準優勝していて。

自分は何なんだろうと思って、いまだに(アンゴラ村長の)ツイッターはフォローしてないです。成功者の顔が見えちゃって悔しいですから。

中田

俺は後藤さんにフォローされてる。なめられたもんだな!(笑)

 プロ芸人からみる
 アマチュアお笑いの世界観

その後、アマチュア芸人の後藤さんからは「アマチュア芸人のライブでプロ芸人にMCをやってもらうことがあるけど、申し訳ない気持ちがある。プロ芸人の方はどう思っているのか?」という質問が出た。

中田

僕は全然気にしないけどな。お笑いを楽しめる空間ってめちゃめちゃいいよな、って思うし。売れようとしてるかどうかの違いだけだからね。

尾身

分かる。アマチュア芸人の人たちとの決定的な違いって、僕たちはネタをきっかけにテレビに出たり売れたいっていうのがあるっていうことなんですよ。その点、アマチュアの人たちは週末のライブを純粋にネタを出す場として楽しめているというのがある。

だから、プロのほうが真剣にやってるのに、みたいな考え方ではなくなってきました。

中田

そうなんだよね。アマチュアのライブは、学生お笑いの延長の感じがあって。別に知らない大人に認められる必要がないから、自分が信じているものをガンガン出せる

都留

僕はちょっと2人の意見には共感しづらいですね。社会人やりながらお笑いをやって、ちょっとウケ始めて「M-1」3回戦行きました、みたいな人に「プロでも通用してます感」を出されると、そんなことないよ、って言いたくなっちゃう。

中田

まあ、たまに講釈垂れる人がいるからね。プロはこうだから、みたいな。アマチュア芸人がやっていること自体は全く否定しないし、楽しむための手段としてすごくいいものだと思うけど、それぞれ苦労するポイントも違うんだから、分かったようには言わないでほしいよね。

質問をした後藤さんは「こういうことってなかなか聞けなかったんで、ちょっとすっきりしました」と納得した様子だった。ここで中田さんから「ヨシダくんが聞きたいことを教えてほしい」という提案があった。ここぞとばかりにヨシダくんは饒舌に語った。

ヨシダ

今お笑いとしてどうだ、っていう話を。ちょっとさっきも出ていたんですけど、お笑いじゃない方。社会人の方だったら社会の仕事についてのモチベーションにつながっていってるのかって部分と、バイトだったらバイトは即辞めたいって気持ちでやってるんですけど、その中で揺れるものがあるのか、っていう。おおかたの概念として。金銭的余裕っていうのがあるじゃないですか。ちょっと1個聞いたのが、下積みをしながら芸人を目指すっていう、バイトするっていうんだったら職業として1個下積みがあってから力をつけていくっていうのが適切なんじゃないかって話を聞いたんですけど。そのことについてどうですか?(※原文ママ)

中田

もう1回言ってもらってもいいですか?

中田さんの返答に、その場にいた参加者・スタッフ全員が心の中で深くうなずいた。緊張が極度に達したときのヨシダくんのトークは、般若心経より難解で誰にも読み解けなかった。

だが、心優しき遠藤さんが「お笑いをやることが仕事のモチベーションになっているかっていうことですよね?」と助け舟を出した。これを受けてアマチュア芸人たちは「お笑いをやることが楽しみになっているが、逆に言うとそれしか楽しくない時期もある」と複雑な思いを語っていた。

 プロ・アマが交わる
 笑いの世界を実現するには

最後に、プロ芸人とアマチュア芸人の世界は今後どうなっていくのか、お互いに交わり合うことはあるのか、というテーマについて語られた。

後藤

今はアマチュア芸人のライブとプロのライブとが、はっきり分かれているので、交わることができたらこっちとしてはすごくうれしいです。

そうやって盛り上がっていけば、社会人をやりながらお笑いをやろうって思う人がもっと増えてくるんじゃないのかな、って。

遠藤

ただ、アマチュアと一緒に出るのって、プロの人にとってメリットはあるのかな? と思っちゃうんですよね。

宇野

どうなんだろうな。それぞれがちゃんと実力をつけて世に認知されていけば、必然的に交わっていくこともあると思うんですよ。

尾身

アマチュア芸人のための大会みたいなのができちゃえば、それでいいのかもしれないですね。

草野球みたいな感じの「草お笑い」なんだとしたら、お客さんが身内だけなのは当たり前だし、何も知らない一般の人がそこに入っていくことはないですよね。だから、それを超えた大会みたいなのが1個あるだけでモチベーションが上がるんじゃないですかね。

 「最初に嘘をつかない」
 それが今回のまとめ

座談会も終盤になったころ、ヨシダくんの今の希望する進路について聞くタイミングが訪れた。ヨシダくんは座談会の途中で「学生芸人としては6年目で、今は大学院の2年生である」と語っていた。だが、どうも様子がおかしい。

「就活はしているのか」と尋ねられると、「今はまだです」と声が小さくなった。中田さんから「隠さないで正確に教えてよ」と問われると、「正確に言うとガチガチに留年していて、いま3年生です」と白状した。

そもそもこの座談会は、将来のキャリア選択に悩むヨシダくんのために企画されたものである。そんな彼がいま何年生で、就職活動はどのくらい進んでいるのか、というのは重要な情報であるはずだ。だが、彼はそれをギリギリまで隠していた。留年を重ねていることに劣等感を感じていて、ずっと自分を責めていたのだという。

その後、先輩方に優しく励まされ、ヨシダくんは立ち直った。大事なことを記録しておく手元のメモには「最初に嘘をつかない」と書き記した。嘘をついて取り返しのつかないことになってしまった芸人が世間を騒がせているこのご時世に、1人の若者が大切なことを学んだ。

最後に、ヨシダくんが締めの感想を求められ、戸惑いながらも答えていた。

ヨシダ

僕はずっと『プロvs社会人』みたいな感じで、2つに分かれていると考えていたんです。でも今回どちらの意見も聞いてみて、「絶対どちらかに決めなきゃいけない運命の選択」って考えなくてもいいのかな、って思いました。

あまり重大に考えずにひとまず自分の思うままに進んでいきたいな、と。

このコメントを受けて都留さんからは「ここはちゃんと言えるんかい!」と優しいツッコミが入った。意外にもまともな締めの言葉に、会場からはパラパラと拍手が聞こえてきた。その音を聞いてヨシダくんもホッとした表情を浮かべていた。

決めるべきときには決められず、決めないほうがおいしいときには、なぜか決めてしまったりする。「ほっとけない学生芸人GPチャンピオン」とはまさに彼のためにあるような称号である、と改めて思った。

この座談会は、プロ芸人とアマチュア芸人が本音をぶつけ合い、活発に意見を交わす貴重な機会となった。ヨシダくんのように将来のキャリアに迷っている学生芸人や大学生のみなさんは、ぜひ参考にしてほしい。

文:ラリー遠田
写真:ブリッジ
編集:ほっとけない学生芸人GP運営

<プロフィール一覧>
★プロ芸人代表

さすらいラビー(宇野・中田)
太田プロダクション所属。主に漫才をメインに活動している。ともに大学時代はお笑いサークルに所属していた学生芸人だった。関東大学生漫才グランプリ優勝の経歴ももつ。ちなみにコンビの身長差は26cm。
twitter:@unomen(宇野)/@nkD99(中田)

ラパルフェ(都留・尾身)
ワタナベエンターテイメント所属。大学時代は、ともに早稲田大学お笑い工房LUDOに所属。都留さんは千葉大のお笑いサークルP-RITTSにも所属していたため、ヨシダin the sunとは直属の先輩後輩関係である。
twitter:@rlnzThra(都留)/@SatoshiOmi0710(尾身)

★アマチュア芸人代表

ふねしぼり(遠藤・後藤)
大学時代はそれぞれ別のお笑いサークルに所属していた。一般企業就職後もお笑いを続けていた遠藤さんは、相方がプロを目指すこととなりコンビを解散。それを機に、後藤さんと新たにコンビを組むことになる。現在は月に3~4回ほどライブ出演しながら、会社員としても働き続けている。
twitter:@novelman8(遠藤)/@omoshiroboy(後藤)

デッサンビーム(黒川)
高校時代からハイスクール漫才に出場するなど、お笑い活動をしていた。意外にも大学ではお笑いサークルには所属せず一人で活動を続ける。その後相方の有吉さんとともにデッサンビームを結成し、社会人リーグで現在も活動中。
twitter:@daimao_peter

★学生芸人代表

ヨシダin the sun
千葉大のお笑いサークルP-RITTSに所属。昨年、マイナビ学生の窓口主催の「ほっとけない学生芸人GP2018」にて優勝。将来は会社員として働きつつ、お笑いの活動も続けたいと今のところは思っている。
twitter:@Y_inthesun

ラリー遠田

作家、ライター、お笑い評論家。東京大学文学部卒業。テレビ番組出演やウェブ連載を担当するなど、お笑い関係でマルチに活動している。
公式HP:http://owa-writer.com/
Twitter:@owawriter

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