宇宙エレベーターは夢物語じゃない。日本大学理工学部・青木教授が失敗を恐れない理由

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「宇宙までエレベーターで行ける!」と聞いても、そんなことはできないと思うかもしれません。しかし、これは今では実現可能なアイデアと考えられているのです。

現在「宇宙エレベーター」の建設に向けて、日本でも基礎研究が進められています。今回は、そのトップランナー、日本大学理工学部の青木義男教授の研究についてご紹介します。

宇宙エレベーターは夢物語じゃない。日本大学理工学部・青木教授が失敗を恐れない理由

「宇宙エレベーター」ってどんなもの?

宇宙エレベーターとは、赤道付近の上空3万6,000km、静止衛星軌道上にまで物資を運搬可能なエレベーターです。

なぜ赤道付近かというと、静止軌道が赤道上にしかないこと、またケーブル長を最短にすることができるためで、この軌道上に構築された巨大宇宙ステーションがエレベーターのターミナルになるのです。

現在ロケットを使って衛星軌道上まで物資を運搬していますが、これをエレベーターで運べるようになると利便性が向上し、コストも下がると期待されています。

また宇宙開発のためのインフラとしても、使い勝手のよいものになると考えられています。

「カーボンナノチューブ」のケーブルが完成!

宇宙エレベーターは「軌道エレベーター」とも呼ばれ、そのアイデア自体は昔からあるものです。1960年、ロシアのユーリ・アルツターノフという技術者が『プラウダ』日曜版で発表した論考が最初だといわれています。

その後、SF作家アーサー・C・クラークが、小説『楽園の泉』で宇宙エレベーター建造の物語を描き、SFファンの間では広く知られるものとなりました。ただし、それはあくまでもフィクションの話。現実には実現不可能だと思われていました。

しかし近年になって「実際に造れるのではないか?」と言われるようになったのです。

それは「カーボンナノチュ-ブ」のケーブルが造れるようになったからです。カーボンナノチューブのケーブルは、鋼鉄製のケーブルの約5分の1の軽さで強度は約100倍。宇宙エレベーターに使用しても切れないと計算されています。アーサー・C・クラークの『楽園の泉』では「超繊維でできたケーブル」という架空のものだったのですが、ついに「実際の使用に耐える可能性のあるケーブル」が現実のものとなったのです。

宇宙エレベーターを造る方法は?

現在、一般的に知られる「宇宙エレベーター」を造る方法とは以下のようなものです。

1.赤道付近の静止軌道上に、宇宙ステーション(静止軌道ステーション)を建造し、宇宙エレベーター建設用の場所を確保する

2.静止軌道ステーションから、エレベーターのケーブルを地上へ下ろしていく

3.赤道付近の公海上に建造したアースポートにケーブルが着いたらそれを固定する

4.ケーブルをつかんで上っていく「クライマー(物資を載せる昇降機)」を製作

5.クライマーをケーブルに取り付けて出来上がり

ただし、地表に向けてケーブルを下ろすと、その重みで(なにせ3万6,000km分なので)静止軌道ステーションが引力に引かれて地上に落下する恐れがあります。そこで、重量の釣り合いを取るために、地表とは反対方向にもケーブルを伸ばします。

しかし、それほどの高度になると重力も弱くなっているので、反対方向に伸ばすケーブルは10万kmもの長さになる可能性があり、これは現実的ではありません。

そこで地表の反対方向に伸ばすケーブルの先にはカウンターウエート(釣り合い用の重り)を付けることになる、と考えられています。

世界規模の「クライマー(昇降機)」の競技会が開かれている!

宇宙エレベーターの実現へ向けて、現在、ケーブルをつかんで上空へ上っていく「クライマー(昇降機)」の世界的な競技会が開催されるようになっています。日本大学理工学部 青木義男教授の研究室は、この競技会に参加し続けトップの成績を収めています。

クライマーと簡単にいっても、その製作はノウハウの塊です。垂直に上昇しなければならないクライマーは、自重の全てを自分で支え、なおかつ上れるだけの力を出さなければなりません。

これは物理的にも機械的にもかなりの難問です。初めて参加する研究チームの多くは、ケーブルをつかんでも滑って上昇できなかったり、上がっても途中で落ちてきたりするそうです。

ところが、2018年の『EuSPEC 2018』(欧州宇宙エレベーター競技会)のAdvancedクラス大会で、青木研究室で開発した最新型クライマーは、6.2kgの機体に9.2kgの重りを付けた上に、最高時速118kmで垂直上昇を行い、段違いの性能を見せつけました。

クライマー昇降実験の様子

2018年8月に行われた「福島ロボットテストフィールド」(福島県南相馬市)でのクライマー昇降実験の様子。この時の昇降実験を参考にしてクライマーはさらに改良され、ドイツ・ミュンヘンでの競技会で優勝を果たしました。

また青木研究室では、軌道上に投入された2機の超小型衛星の間に10mのテザー(ワイヤー)を展開。その間をクライマーに行き来させるという宇宙実験を行っています。

クライマー

超小型衛星間にテザーを展開してクライマーを行き来させるという実験が行われました。これはその実寸大のサンプル。

超小型衛星は、2018年9月23日に打ち上げられた「こうのとり7号機」によって国際宇宙ステーション(ISS)に届けられ、軌道投入はなんと手動で行われました。現在、2機の超小型衛星の分離までは成功しました。この宇宙実験が成功すれば、宇宙エレベーター研究に新たな一歩を刻むことになるのですが……。

いずれにせよ、宇宙エレベーター実現に向けての基礎研究は日本でも進行中なのです。

宇宙エレベーターの研究を始めたきっかけは?

『一般社団法人 宇宙エレベーター協会』のフェローでもある、日本大学理工学部 青木義男教授にお話を伺いました。青木先生は宇宙エレベーターの実現を目標に、その基礎となる研究を進めていらっしゃいます。

――先生はなぜ宇宙エレベ-ターの研究を行おうと思ったのですか?

私の専門は建築設備の中の昇降機なのですが、あるときネットで宇宙エレベーターというキーワードを見つけたんですね。それで調べてみると、宇宙へ行くエレベーターだという話しでした。

私はエレベーターの専門家として国土交通省の「昇降機等事故調査部会」に属して活動をしているのですが、普通のエレベーターでも度々事故が起こるのに、宇宙エレベーターなんかできるわけがないと思いました。

――なるほど。

そこで、宇宙エレベーターのトークショーがあるというので、冷やかしてやろうと思って参加してみたのですよ。

――どんなトークショーだったのですか?

2007年だったと思いますが、お台場の日本科学未来館で「宇宙エレベーターについての講演会」がありました。大野修一さん(現『宇宙エレベーター協会』会長)の講演だったのですが、これを聴きに行きましてね。

当初は「あくまでもSFの世界の話」という気持ちがありました。しかし壮大な規模ですし、チャレンジのしがいがある話なわけです。学生たちもこういう夢のある話には前向きになりますしね。「不可能かもしれないが、研究してみるのも面白い」という気持ちで始めたというのが率直なところです。

――そのころから大野会長とご縁があったわけですね。

当時はまだSF世界のものでしたから、大野さんも「なぜ大学の先生がこんなところに来るの」と思ったようですよ(笑)。

日本大学理工学部船橋キャンパス


青木先生の学部次長室は日本大学理工学部船橋キャンパスにあります。

何もかもイチから作るおもしろさと大変さ

――宇宙エレベーターの研究において、先生がおもしろいと思われるのはどのような点でしょうか?

それはやはり「世界で誰もやっていないことに挑戦している」という点でしょう。学生に「これを実現したら世界初だぜ」と言うと、彼らのモチベーションも上がりますしね。

最初は誰もが「宇宙エレベーター? そんなものできるんですか?」と懐疑的なんですが、実際にクライマーの動画などを見せると「本当にできるかも」という反応に変わります。そんなときは「してやったり」と思いますね(笑)。

――では研究でつらいのはどんな点でしょうか?

仕方がない点もありますが、権威のある学会では、いまだに宇宙エレベーターの研究というと「できもしないものをやっている」といった感じです。ロケットをやっている人などからすると、まだまだ宇宙エレベーターは荒唐無稽の域を出ていないのです。

――それはつらいですね。

そのような見方を覆すためには、実現可能性を証明して見返すしかありません。そこで足かけ3、4年をかけながら、静岡大学の先生方と一緒になって「上空400kmの軌道上に小さな衛星を投入して、10mのテザーを伸展させ、クライマーを行き来させる」というプロジェクトを進めました(前述)。

――現時点でミッションがコンプリートできていないのは残念ですね。再度挑戦するのですか?

はい。本年度から公式に大林組さんの協力を得て、再び宇宙での実験を行うプロジェクトがスタートしました。

――それは楽しみですね。実験の中で、大変なポイントはありますか?

実験できる環境が限られるという点ですね。例えば、今回のような衛星を造って……といった研究ですと、JAXAさんに「ミッションがうまくいきますよ」という実証データを提出して十分納得していただかないといけません。

打ち上げ時の振動、真空中での温度変化、宇宙の放射線に電子基板は耐えられるのかなど、実験して確認しなければなりません。幸いなことに、首都圏にはある程度の実験施設、工業試験場があって、お願いして使わせていただくことが可能です。

――やはり地道な努力と基礎固めが必要なのですね。

ただし、使えないこともあるのです。例えば、テザーを長く伸ばして行う実験には空気浮上装置が必要なのですが、あっても筑波市に5m規模のものがあるだけです。また、これも以前は使えたんですが、今は公開されていないので使えません。

仕方がないので、空気浮上装置を自作して、大林組さんのテストフロアという大きなスペースをお借りして、実験を行わせていただいています。楽しくもありますが、イチからやらなければならないというのはつらい点でもありますね(笑)。

将来の研究者へ。失敗を恐れないことが大事

――当サイトは、現役大学生から大学進学を目指す高校生までたくさんの方が読んでいます。中には研究者になりたいと思っている読者もいます。「研究者の道が気になっているけれど踏み出せない」という学生へのアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。

これは私の持論ですが、失敗を繰り返しても別にいいんじゃないかと思います。優等生はずいぶん増えたのですが、荒唐無稽なことでも一生懸命やる、そういう方面に対してやんちゃな子が少なくなったような気がします。

研究者というのは、失敗を何度も繰り返して答えを見つけようとする仕事です。失敗を恐れず、目的の成果を達成するまで諦めない粘り強さが必要ではないでしょうか。

――たしかに最近の学生のみなさんは過度に失敗を恐れるところがあるかもしれませんね。

また、これからは答えのない問題に対してどんどんトライしていく時代です。答えのわかっていることや重箱の隅をつつくようなことは恐らくおもしろくないでしょう。もし研究者になるのなら、海外の国際会議で発表を行ってインパクトを与えられるような研究を行っていただきたいですね。

恐れずにどんどん挑戦するのが学問の世界だし、むしろ「こんなこと言ったらばかにされるのではないか」ということを堂々とやる。そういうマインドが必要だと思っています。ある分野にものすごくのめり込むと最先端の研究につながるということが往々にしてありますし、研究者になりたいという人は、ぜひ目指していただきたいですね。

――ありがとうございました。

いまだ懐疑的な人も多いですが、現在、衛星軌道上にまで物資を運ぶエレベーターは、実現可能なアイデアとみられています。青木研究室はそんな懐疑派の意見を吹き飛ばすべく、着々と基礎研究を進めているのです。

やがて実際に宇宙エレベーターが建造され、世界的に利用される時代がやってくるかもしれません。その宇宙エレベーターには、きっと青木研究室の研究成果が活用されているでしょう。

(高橋モータース@dcp)

青木義男教授
日本大学理工学部 学部(船橋校舎)次長。教授。工学博士。

1985年、日本大学大学院生産工学研究科機械工学専攻博士課程修了。2005年、同大学理工学部教授。1998年から1年間、米国コロラド大学工学部航空宇宙工学科客員研究員を務める。現在、国土交通省昇降機事故調査部会委員、建築物事故災害対策部会委員、建築設備昇降機センター理事を兼務する。専門分野は安全設計工学、構造力学、複合材料力学。宇宙エレベーター協会フェローを務める。

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