謎現象「楽しい時は短くつらい時は長く感じる」を解明する認知神経科学にハマった理由

編集部:ゆう
2019/07/10
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謎現象「楽しい時は短くつらい時は長く感じる」を解明する認知神経科学にハマった理由

「心理学」と一口に言っても、その領域は多岐にわたります。

今回取り上げる東京大学 大学院 四本准教授の「認知神経科学」の研究は、心理学から神経科学の分野まで、多岐に渡ったもの。四本先生は、人間の知覚の仕組みを、脳の働きにまで踏み込んで明らかにしようとする気鋭の研究者です。特に近年は「時間の知覚」についての研究を進めていらっしゃいます。

今回は四本先生の研究についてご紹介します!

人間の知覚は脳のネットワークによって処理されている!

人間には、視覚、聴覚など外界の情報を受け取り、認知するための知覚が備わっています。

この知覚がどのように脳内で処理されているかについては、さまざまな研究が行われており、徐々に解明が進んでいます。これまでにわかってきたのは、脳のいろんな部位が連携し、ネットワークで知覚処理を行っているということです。

東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系の四本裕子准教授は、人間の知覚と脳のネットワークの関係についての専門家で、非常に興味深い研究を行っています。

ブランダイス大学大学院に在籍中には、ヒトの映像記憶がどのように不鮮明になっていくのかを「数理モデル」を作って明らかにしようとする研究を行いました。

また、神経科学的なアプローチを取り入れ、脳波測定、fMRIなど、実際に脳がどのように活動しているのかを計測し、知覚のメカニズムについて光を当てる研究も行っています。

さらに、「時間の知覚」についての研究でも注目されています。「見る」「聞く」などの知覚と違って、人間には時間を測るための器官はありません(見つかっていません)。しかし、人間は時間の経過や長さを感じることが可能です。これはなぜなのでしょうか?

例えば「楽しいことに熱中しているときは時間が短く感じ、つらい作業を行っているときは時間が長く感じる」という経験は、みなさんにもあるのではないでしょうか。これも時間の知覚についての不思議な現象です。

四本先生の研究は、この不思議な「人間の時間の知覚」についても及んでいるのです。

参照:四本先生の論文(英文)の一つ
「Optimal Multisensory Integration Leads to Optimal Time Estimation」
(最適な多感覚統合が最適な時間評価につながる)
https://www.nature.com/article...

「面白いほうへ」と踏み込んでいった結果……

今回は、東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系 四本裕子准教授にお話を伺いました。

――先生が研究を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

四本准教授 最初のキッカケは、大学の卒論制作が面白かったんですね。

――どんな研究だったのですか?

四本准教授 奥行き視覚についての研究で、視覚で捉えた物体が実際にはどのくらいの距離にあるのかを調べる行動実験でした。

――そのころから研究者になりたいと思っていらっしゃいましたか?

四本准教授 私は研究者になろうと明確に思ったことはなかったのですが、大学で心理学の講義を受けたら面白かったので心理学科に進み、それで卒論の研究を進めていたら、就職活動の時期が終わっていたので、そのまま大学院に行き、大学院に行ったら研究が面白かったので博士課程に行き……という感じで、流されるままといいますか(笑)。

――自分が面白いと思う方へ、思う方へと踏み込んでいったら……

四本准教授 いつの間にか研究者になっていた、というわけです。

四本研究室

↑四本准教授の「四本研究室」は東京大学駒場キャンパスにあります。

知覚のメカニズムを知りたい! 基礎研究は全ての土台である

――先生の研究は「認知神経科学」ということですが、研究の目的についてどのようにお考えでしょうか?

四本准教授 簡単にいうと「知覚の現象を、脳のネットワークの働きによって説明すること」です。視覚や聴覚、触覚などについて調べていますが、近年は「時間の知覚」についても研究しています。

――先生の研究は、一見多岐にわたっているように見えるのですが?

四本准教授 私は、自分を「一つのテーマについてずっと研究する」というタイプの研究者ではないと思っています。

最初は「人間の視覚が、脳内でどのように処理されているのか」について研究していたのですが、そのうちにどんどん技術が進歩していったんですね。

以前なら、脳の局所的な部分だけしか調べられなかったのが、脳の部分同士の連携を計測できるようになったり、10年前にはできなかったような測定や解析が可能になったのです。それで、私も研究テーマが広がりました。

他にも、人間には時間を計測するための特定の器官が見つかっていませんが、それでも時間についての知覚はできます。これはなぜなのか不思議ですね。わからないことについてはワクワクしますから、ここ7、8年は「時間の知覚」についての研究を行っています。

――研究に幅があるのは、何故でしょうか?

四本准教授 現代は、世界中で研究が行われていますから、科学的にいろいろなことを解明していく中で「わかること」と「わからないこと」が、わかっていくんですね。

そして、テクノロジーが進化していく過程で、その段階で面白いと思うことを、最新のシステムで検証する。そんな感じで広がっていくのだと思います。

ただ、根っこにある部分は変わっていなくて「自分の体験できる、人間の知覚のメカニズムを知りたい」ということですね。この点は昔から一貫しています。

――先生の研究が進展していくと、何か実生活に影響はあるでしょうか?

四本准教授 ないです(笑)。基礎研究ですので、実生活に影響することはありません。「誰の役にも立たない」というところに誇りを持っています。

直接的には何の役にも立たないのですが、大きな目で見ると基礎研究というのは全ての基礎で、土台の部分なのです。無理やりに「私の研究はこう役立ちます」と言えなくもないのでしょうが、あえてそんなウソをつかずに「土台をしっかりと固める研究を、一人の研究者として行っているんだ」ということを誇りに思っていたいですね。

――先生の研究の最終目標は何でしょうか?

四本准教授 そのような大それたものはないのですが、自分が面白いと思える研究を細々と続けられたら、と思います(笑)。

あと、将来の研究者を育てていきたいという気持ちが、最近は強くなってきましたね。本学には、本当に優秀な学生が集います。優秀な人たちなので、ちょっとしたアドバイスでどんどん、ニョキニョキと伸びていくんですよ。そのような姿を見ていると「将来の研究者のために頑張らないといけないな」と思います。

研究の「面白い点」と「つらい点」

――四本先生の研究の面白い点はどんなところでしょうか?

四本准教授 人間の感覚、知覚を相手にしていると、自分でもそれを体験できるわけです。例えば、点滅しているモニターを見ているときに、それがどのように見えて、自分の脳がどのように活動しているのかがわかる。つまり「内的な経験について研究できる点」、それが面白いところですね。

――では、研究のつらい点とは?

四本准教授 つらいところは……いっぱいありますが(笑)、やはり論文を出すのは大変ですよね。今も2、3本は書かないといけない論文がたまっています。

論文を書くことは研究者の常なのでつらいと言っても仕方がないことなのですが、国際競争の中で、常に論文を書き続けなければいけないですから、これはつらいことです。

――よくいわれる「publish or perish」(論文を書け、さもなくば滅びよ)ですね。

四本准教授 そうですね。また、論文を送ってリジェクト※されるとこれはつらいですね。心が折れそうになることもあります(笑)。

――先生の論文でもリジェクトされたりするのですね。大学生、大学院生の励みになるかもしれません。

四本准教授 研究者なら誰もが経験することですが、何回あっても慣れないものです(笑)。

※リジェクト
論文を掲載してもらうために専門誌に送付すると、査読者のチェックが入ります。「掲載できる基準」に達しているかどうかが調べられ、NGとなれば論文は送り返されます。これをリジェクトといいます。

研究者は「世界で一番幸せな職業」である!

――当サイトは現役大学生から、大学進学を目指す高校生まで、たくさんの方が読んでいます。中には研究者になりたいと思っている読者もいます。「研究者の道が気になっているけれど踏み出せない」という学生へのアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。

四本准教授 私は、研究者は世界で一番幸せな職業だと思っています。それに尽きますね。自分が興味を持ったことを思い通りに追求できる職業なのです。こんな幸せなことはないでしょう? 自分の研究に思い通りの予算がつかないとか、そういう制約はありますが(笑)。

最近は、博士号を取ると職に就けないといったネガティブキャンペーンがありますが、どんな職業に就いても将来の保証はないわけです。10年、20年後の日本の経済がどうなっているのかは誰にもわかりません。ですから、そこを先回りして自分で勝手に悲観的になるのは何か違う気がします。

――最近の若い人は少し怖がり過ぎなのかもしれませんね。

四本准教授 そうですね。学生と話していても、両親が「大学院に行きなさいよ」と勧めても、本人が「いや、不安があるのでやめておく」というような、例が多いと思います。

――本人が「大学院に進んで研究を続けたい」と言うのを、両親が「就職しなさい」と言って反対する事例のほうが多いイメージですが、意外ですね。

四本准教授 そうですね、学生の中で不安がすごく膨らんでいるなというのを感じますね。しかし、自分がやりたい研究があって、それが面白いと思うのであれば突き詰めてみてもいいのではないでしょうか。自分の好きなことが、自分の思い通りやれる幸せな職業なので、なりたいと思う人にはぜひ研究者を目指していただきたいと思います。

――ありがとうございました。

四本先生の「認知神経科学」の研究は、心理学で神経科学的なアプローチを行う、非常に重要な位置にあります。

脳はいまだに大きなブラックボックス。私たちの知覚が脳のネットワークでどのように処理されているのか、これからも新たな知見が得られることでしょう。

四本先生の研究によって「時間の知覚」についても新しい発見があるに違いありません。ぜひ四本研究室の論文に注目してみてください!

(高橋モータース@dcp)

四本裕子先生
四本裕子
東京大学 大学院総合文化研究科 生命環境科学系 准教授。博士(心理学)。1998年、東京大学文学部卒。アメリカ合衆国・マサチューセッツ州ブランダイス大学大学院に留学、博士課程修了。Ph.D.(Psychology)取得。ボストン大学、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学のリサーチフェローを経て2012年より現職。

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家族との時間がなにより一番大事!!お酒と音楽とオーディオが大好きな、もうすぐアラフィフおじさん(気分はお兄さん)です。

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