「みんなと一緒」すぎる大学生たちと、とある大学6年生の遠回り #大学1年生の転び方

トミヤマユキコ

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「みんなと一緒」すぎる大学生たちと、とある大学6年生の遠回り #大学1年生の転び方

授業で学生さんに自己紹介をしてもらうと、浪人経験者や留年生がとても居心地悪そうにしていることがあります。聞いてもいないのに、「みんなより年上なんで」とか「試験に失敗したんで」とか言うわけです。

それをみんなが、曖昧な笑顔で聞いている、みたいな……。うーん、まあ、人より遠回りしたのは事実かも知れないけど、それってそんなに卑下しないといけないことなんでしょうか? 前回、ものすごい愛さんは、大学に7年通っていたと書いてらっしゃいました。そのことについて「今のわたしがあるのは、過去のわたしがいたからですしね」と、堂々としていたのが痛快でした! みんなこうだったらいいのに!

これは日本の教育のよくないところだと思うのですが、失敗した人や遅れをとった人への寛容さがなさすぎるんですよ……。あと、人はいくつになっても勉強をしてよいのだ、という前提が共有されていないため、教室で年上の人と出会ったときに、苦手意識みたいなものがポロっと出がち。それがわかっているから、年上の人たちも、ついつい防衛に走る。これが教育空間として健全なはずありません。
「みんな一緒」の安心感も、行きすぎると悪しき差別心を生みますから気をつけたいところです。

さて、今回の転びエピソードは、すでに大学6年生が決定している方からのものです。いやあ、いいですね、6年生。かなりの遠回りです。しかも、そうなった理由が素晴らしい。とりあえず、読んでみてください。

4年間の大学生活を楽しく過ごすためには、友達をたくさん作らなければいけないと思って、1年生の春から死にものぐるいでランチやコンパに参加しまくって、LINEとFacebookで友達を作りまくりました。
結果、2年生になるころには大学にすら行かず、手元にある連絡先は全消し。大学にも6年間通うことになりました。
手っ取り早く個性を確立するために変なエスニックファッションに手を出したのも、顔から火が出るほどいい思い出です。
(男性/大学4年生/24歳)


コミュニケーション強者すぎても人生うまくいかない!?

友達がいると、たしかに学生生活は充実しますよね。それは否定できません。SNSで繋がるのも、多くの現代人にとって、避けて通れぬことでしょう。しかし、この方は、友達づくりをがんばり過ぎた結果、大学に行かなくなってしまったと。
ここが、わたしにとっては謎であり、興味深いところです。

お便りの文面だけではよくわかりませんが、友達づくりが大学生活と切り離されたところで行われていた、ということなんでしょうか? だとしたら、それはそれですごい。大学生のうちから、大学とは関係ないところでめっちゃ遊び友達がいる人生。
リア充の中のリア充じゃないですか。そのまま大学を辞めて仲間と起業、みたいなルートもあったかもしれませんよね(外野の勝手な妄想ですが)。

コミュニケーション強者すぎても人生うまくいかない!?

教員のわたしが言うのもなんですが、友達が多い人って、授業なんか受けなくたって、ノートとか借りられるそうじゃないですか? 出席数さえ確保しておいたら、ギリギリ単位はもらえると思うんですけど……。

出席してないわ友達少ないわでノートを借りることもできず必修の単位を落とした20年前のわたしから言わせると、「なぜそのコミュ力を勉強方面で利用しないの!?」と思ってしまいます。最強の武器を持っているのに使わない勇者、みたいに感じるというか。それが悪いということではなくて、むしろ、その欲のなさに人間味を感じて、「ちょっと一杯飲みませんか? その話、詳しく聞かせてくださいよ!」と言いたくなります。

人生の遠回りを経験してきた旅人たちを大事にしよう

しかも、この方は、そうやって作り上げた人脈を「全消し」して、大学へと戻ってきています。学びの場に戻ってきたことは歓迎すべきですが、どんな気持ちで連絡先を全消ししたんですかね。遊び友達とは言えど、交友関係って、自力で作り上げる「財産」のようなもの。それを消しちゃうなんて、苦しくはなかったんでしょうか。

決断力がハンパない。意思が強靭。やっぱり、友達めっちゃつくったり、それを全て捨てたり、ひとつひとつの行動に中途半端さが一切ないのが、この方の魅力ですよね。なんでこういう大人に育ったんだろう。どんな子ども時代だったのかな。

ああもう、質問がいっぱいですよ。これだから、遠回りしてきた人たちは素晴らしいのです。ちやほやするつもりはありませんが、やっぱり独自のルートで歩いている人からは、いろいろなことが学べるもの。同い年じゃないというだけで敬遠するなんてもったいなさすぎます。
自分の知らない世界を旅してきた人とは大いに関わるべきです——もし旅人の側が受け入れてくれるなら、という前提はもちろんありますが。

教室の多様性に気づいたら、大学はもっと楽しい

浪人生・留年生が遠回りしてきたエピソードを話すことは、そうした経験を持たない者にとっては大いなる学びになり、その一方で、当事者にとっては、自分を知って受け入れてもらう第一歩となります。ですので、どうせなら、卑下ではないモードで、遠回りエピソードを話してほしいんですよね。例えば今回のお便りのように、淡々と話してくれたら最高です。

教室の多様性に気づいたら、大学はもっと楽しい

知らず知らずのうちに「均質であること」を是としてしまう教育空間に多様性という名の亀裂を入れるべきだというのが、わたしの考えです。その亀裂をきっかけに、浪人も留年もしていない、傍目にはごくふつうに見える学生さんが、自分の中に秘めたマイナー性について語ってくれることもあったりします(そうした瞬間に立ち会えたとき、教員をやっていて本当によかったなあと思います)。

教室とは案外、多様性に満ちたものです。それを知っておいた方が、人生はきっと楽しいですよ。

最後に、この方は「手っ取り早く個性を確立するために変なエスニックファッションに手を出した」そうですが、わたしは大学1年生当時、母に頼んで髪の毛をおかっぱに切ってもらっていました。なぜ美容院に行かなかったんだろう……たぶん、それが個性だと思ってたんでしょうねえ(遠い目)。

見た目をトンチキにする楽しさから未だに逃れらないわたしとしては、エスニックファッションから完全に卒業しなくていいよ! たまには着なよ! と誘いかけておきたいと思います。ともに、トンチキパワーで、均質性に亀裂を入れていこうじゃありませんか。それだって、広ーーーい意味では、教育への貢献なんですから(笑)。

文・トミヤマユキコ
ライター、大学教員。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、2019年春から東北芸術工科大学講師。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学では、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。
書籍:『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(清田隆之との共著)
Twitter : @tomicatomica


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ライター、大学教員。早稲田大学法学部、同大大学院文学研究科を経て、2019年春から東北芸術工科大学講師。ライターとして、日本の文学、マンガ、フードカルチャーなどについて書く一方、大学では、少女マンガ研究を中心としたサブカルチャー関連講義を担当。

書籍:『大学1年生の歩き方 先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(清田隆之との共著)

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