「もし宇宙人と出会ったら?」という疑問から、現代のコミュニケーションを考える-京都大学木村大治教授の研究

編集部:ゆう

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「もし宇宙人と出会ったら?」という疑問から、現代のコミュニケーションを考える-

「宇宙人類学」という新たな学問分野をご存じでしょうか? 

これは「『地球』という限定された空間を超えて、『宇宙』という新たなフロンティアから人類を見つめ直す新しい研究領域」とされています(『宇宙人類学研究会』公式サイトより抜粋引用)。

京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 木村大治教授は、宇宙人類学において「宇宙人とのコミュニケーション」を研究していらっしゃいます。

その研究とはどのようなものでしょうか?

なぜ「宇宙人とのコミュニケーション」について考えるのか?

聞き慣れない新しい学問分野「宇宙人類学」について、京都大学 大学院の木村大治教授にお話を伺いました。

木村大治教授

――木村先生は人類学者でいらっしゃいますが、「宇宙人類学」の研究を始めたきっかけは何でしたか?

木村教授 私の専門はアフリカの人類学で、おもに「コミュニケーション論」をやっています。

コミュニケーション論の中には「コード」という概念が出てくるのですが、これは「イヌ」という音声が「犬」という動物に対応する、といった「対応の決まり」を意味していています。

ただ、異文化の場所に行くと「コード」が違うので、言葉が通じません。

では、本当に「コード」は必要なのでしょうか。

「コード」や言葉がないコミュニケーションというのはあるのでしょうか?

そのような「相手」として「他者」を想定すると「宇宙人」が出てくるわけです。

地球外の知的生命体との出会いがあった場合 、どのような相互作用が起こるのか、コミュニケーションの取り方はどうなるのか などを考えるのです。

ただし、宇宙人類学というのは非常に広い分野で、まるで未開の地に出ていったというイメージがあります。『宇宙人類学研究会』のサイト※1をご覧になるとわかるかと思うのですが、メンバーも、人類の宇宙進出について考えている人、宇宙産業の研究をしている人など多種多様です。

私はコミュニケーション論が専門ですので、ここではその方面での研究についてお話をしています。

――先生が宇宙人類学について考えだしたのはいつぐらいからなのですか?

木村教授 それはけっこう古くてですね、最近パソコンの中の昔の文書を発掘してみたのですが、1991年に書いたメモに「宇宙人への通信の話」と書いてありましたね。

――では、30年ほど前からそのようなアイデアを持っておられたわけですね。京都大学では、宇宙人類学の講義は行われているのですか?

木村教授 「宇宙ユニット」※2のメンバーが「宇宙総合学」というリレー講義を行っていまして、その中で私も「宇宙人類学」の講義を、一度担当しています。2019年は全13回です。

※1
⇒参照:『宇宙人類学研究会』公式サイト
http://www.cspace.sakura.ne.jp...

※2京都大学「宇宙ユニット」
宇宙総合学研究ユニットは、宇宙に関連した異なる分野の連携と融合による新しい学問分野・宇宙総合学の構築を目指して、2008年に設置された組織。

⇒参照:『宇宙ユニット』公式サイト
https://www.usss.kyoto-u.ac.jp...

宇宙人は極端な「他者」である

――木村先生は『見知らぬものと出会う』※3の中で「投射」という働きについて述べていらっしゃいますね。人は他者とコミュニケーションを取るときには、自分を中心に、見知った相手を通って、見知らぬものへの延長線を考えていると。

宇宙人が代理しているのは、ひとことで言えば「他者」である。
⇒引用元:※3 P.57

(前略)いかに「他なるもの」を表象しようとしても、どこかで人間のくびきから逃れられない、という構図が見えてくる。
⇒引用元:※3 P.59

――つまり、「宇宙人」を想像しても、人はどこかで自分の見知った「人のようなもの」を考えてしまっている、人を投射した宇宙人像を思い描いてしまう、ということなのでしょうか?

木村教授 ええ。「宇宙人」という言葉の中に「人」が入っていますね。そこですでに「宇宙人」という極端な他者であるべき存在についても、どこかで「ヒト」を投射しているわけです。

我々と同じような気持ちを持つものなのではないか、そのうち話が通じるのではないか、とかね。

ですから、SFに登場する宇宙人も物分かりのいい連中が多いような気がします。最初は対立していても、最後は打ち解けたりとかね。

――なるほど。確かにそうかもしれません。

木村教授 SFの中には、「ソラリス」とか、全くコミュニケーションが取れないような宇宙人が出てくる作品もありますが、それはむしろ少数のようです。

私は、このようにどうしても人間のイメージが登場してしまうという現象を、「人間の汚染」と呼んでいます。

――「人間の汚染」はヒトを投射することによって起こるわけですね?

木村教授 想定したいのは、そのような人間もどきのような宇宙人ではなくて、極端な他者、いわば不可知性を持つ宇宙人です。そのような宇宙人とコミュニケーションを取る手段はあるのか? といったことを考えるわけです。

――それは面白いですね。先生は研究の目的をどのようにお考えでしょうか?

木村教授 「極端な他者」とのコミュニケーションについて考えることでしょうか。

人間同士では、例えば言語がまったく通じなくても、どこかに「通じ合うもの」があります。これは「同じ人間」という身体的、文化的な基盤に根ざしたものです。

しかし「同じ人間」というのを消したときにはどうなるでしょうか。

例えば人間に近いチンパンジーなどの観察をしていると、彼らがどういう気持ちなのか徐々にわかってきます。

しかし、地球の生物でない宇宙人なら? また、本にも少し書きましたが「AI」はどうでしょうか? 人間は分かることができるでしょうか。

※3
木村大治教授の著作『見知らぬものと出会う: ファースト・コンタクトの相互行為論』
http://www.utp.or.jp/book/b372...

「宇宙人類学」研究の「面白いところ」と「つらいところ」

――宇宙人類学研究の面白いところといえばどんな点でしょうか?

木村教授 それは「思考実験」を行う点でしょう。当面は、実際に宇宙人と会うことはできませんから、イマジネーションを広げて考える必要があります。

――本の中ではいろんなSF小説に登場する宇宙人が紹介されていますね。

木村教授 思考実験を行う上でのサンプルといいますか、SF作家のみなさんがいろんなアイデアを出していらっしゃるので、参考になります。

――では、逆にこの研究のつらいところはどんな点でしょうか?

木村教授 宇宙人類学について説明をすると、多くの人が「なるほど」と、その意義は理解をしてくれます。しかし、たいていは「どうやって研究するの?」と言われます。これがつらい点ですね。

人類学は「フィールドワーク」を基盤としています。異文化の土地に行って、一定期間そこに居住し、人とコミュニケーションを取って調査を行う。

宇宙人類学では、残念ながらこれができません。まだ人類は宇宙人と接触したことがありませんし、人類学者が「宇宙」に触れる、宇宙ステーションに行くことも難しいのが現状です。

できるのは、例えば宇宙飛行士など宇宙に触れた人にそこでの生活について聞く、その程度です。

ですから思考実験を重ねたり、人間と違うもの、人間から離れたものとして「動物」とのコミュニケーションについて研究するといったことを行っています。

――宇宙人の住む場所に行ったりはできませんものね(笑)。

木村教授 行きたいんですけどね(笑)。

「宇宙人類学」の研究が実生活に与える影響

――研究に対してすぐに成果を求めるのは、あまりよろしくない態度かと思うのですが、宇宙人類学の研究は私たちの生活に影響を与えるのでしょうか?

木村教授 この研究は他者とのコミュニケーションの仕組みを理解しようというものですから、実生活でも役に立つ面はあると思いますよ。

現代人は「他者をどう考えるか」に悩んでいることが多いですね。「他者理解に渇望している」といってもいいと思います。

――アドラー心理学※4が流行したりするのもそのせいかもしれませんね。

木村教授 そうですね。「他者理解」というのは、なんやかんややっているうちに徐々に共通の場が形成され、そこから生まれるものです。

他者とのコミュニケーション、その生成を考えると「相手がわからないことのほうが普通なんだ」ということが理解できます。またコミュニケーションには「こうするのがいい」という決められたやり方はないということもわかるでしょう。

これらの理解は、現代人が持つコミュニケーションに対する「ある種の思い込み」を変えることができます。そうすれば「他者理解への渇望」もずっと軽減されるはずです。

――なるほど。生きていく上での「気持ちの持ちよう」が、がらりと変わるかもしれませんね。

※4
心理学者アルフレッド・アドラーは「全ての悩みは対人関係の悩みである」としています。

京都大学 稲盛財団記念館

木村教授の研究室は京都大学 稲盛財団記念館の中にあります。

「面白かったら何でもええです」という師の言葉

――当サイトは現役大学生から、大学進学を目指す高校生まで、たくさんの方が読んでいます。中には研究者になりたいと思っている読者もいます。「研究者の道が気になっているけれど踏み出せない」という学生へのアドバイスがありましたら、ぜひお願いいたします。

木村教授 私の先生は伊谷純一郎※5という方でしたが、この伊谷先生が、私が大学の卒業研究で悩んでいたときに、「面白かったら何でもええです」とおっしゃったことがありました。お気楽に聞こえるかもしれませんが、この言葉は実は恐ろしい言葉ではないかと思っています。

「面白いこと」であればいいんですけど、裏を返せば、いかに流行の研究でも、世間に評判になっても、「面白くなかったらおしまい」ということでしょう? 「面白いこと」を捕まえるのはとても難しいことなのです。

私も学生に「フィールドに行ったら面白いことを捕まえてこい」と言いますが、これが難しい。フィールドワークでは「フィールドノート」を付けるのですが、 100個ネタを拾っても1つ2つあるかどうか。実際1つあったら仕事になる、と言っています。

――なるほど。

木村教授 ですから自分が面白いと思うことを捕まえたらすごく大事にするべきです。

「面白いこと」を捕まえているのならそれを手放さず、研究するのが「ええです」。

面白いことが好きならそれを仕事にするのがいいのではないですか?

――ありがとうございました。

人類が他の星の知的生命体と接触するのがいつになるのか、もしかしたら人類が絶滅するまでそんな日はこないのかもしれません。

ただ「ヒトと全く違う存在」とどのようにしてコミュニケーションを取るのか……と思考を巡らすことは非常に有益なことのように思われます。

「他者」を理解することについて多くの知見を与えてくれる人類学は、対象を宇宙に広げてもきっと有効でしょうし、宇宙人類学は日々の生活を送る私たちに「他者との付き合い方」についての有益な示唆を与えてくれそうです。

木村先生は「未開の地に行ったようなイメージ」とおっしゃっていますが、やがて宇宙人類学の講座がどの大学にも設けられるようになるかもしれませんね。

※5
伊谷純一郎(1926年-2001年)
生態学者・人類学者・霊長類学者。京都大学名誉教授。理学博士。日本の霊長類研究を世界最高水準にまで高めたといわれる先駆的研究者。

⇒参照:『京都大学アフリカ地域研究資料センター』「木村大治プロフィール」
http://jambo.africa.kyoto-u.ac...

(高橋モータース@dcp)

木村大治 Profile
1960年愛媛県生まれ。京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 教授。専門は人類学、コミュニケーション論。1990年京都大学 大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。『宇宙人類学の挑戦―人類の未来を問う』(共著,昭和堂,2014年)、『動物と出会う〈I〉出会いの相互行為』『動物と出会う〈II〉心と社会の生成』(編著,ナカニシヤ出版,2015年)、『括弧の意味論』(NTT出版,2015年)、『見知らぬものと出会う: ファースト・コンタクトの相互行為論』(東京大学出版会,2018年)など著書多数。


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