限度を超えていた男 ~ラリー遠田がみた『ほっとけない学生芸人GP2018』

ラリー遠田
2018/11/21
学生トレンド
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2018年7月某日、私はマイナビ学生の窓口のスタッフから相談を受けていた。「学生芸人の活動をサポートするために、お笑いコンテストのような企画をやりたい」ということだった。ただ、学生芸人向けのコンテストやライブというのは決して珍しいものではなく、普通にやっても目新しさがない。

そこで私が提案したのは、純粋なおもしろさのみで競うのではなく、別の基準で争うような大会にすればいいではないか、ということだった。だが、「別の基準」とはどういうものなのか? その場で少し考えて、私の口をついて出た言葉が「ほっとけない」だった。

このキーワードが担当者の心に刺さったようで、これをコンセプトとすることになった。こうして「ほっとけない」を唯一の審査基準とする前代未聞のお笑いコンテスト『ほっとけない学生芸人GP』が始まった。

▼『ほっとけない学生芸人GP2018』オフィシャルレポートはこちら
「ほっとけない学生芸人」とは一体何だったのか? 2018大会オフィシャルレポート

 須田亜香里は絶対に選ばない人

企画段階では、言い出しっぺである私自身も「ほっとけない学生芸人」とはどういうものなのか、確固たる基準を持っていたわけではなかった。

一次予選では52組の学生芸人のネタ動画を見た。学生芸人の大会で審査員を務めたことが何度かあり、その全体的なレベルの高さは知っていたのだが、それにしてもみんなおもしろい。冷やかしで応募してきたような雰囲気の芸人は1組もいなかった。

ウェブ投票で上位の4組と、各審査員が個人的に1組ずつ推薦する芸人だけが二次予選に進めることになっていた。私は、途中段階での得票数が少ない上に、ほかの審査員が恐らく選ばないだろうという芸人をあえて選ぶことに決めていた。ほかと重複しないようにすることで、1組でも多くの芸人を二次予選に上げたいと思ったからだ。

その基準で私の琴線に触れたのがヨシダin the sunだった。彼が演じていたのは、商品開発会議に出席するサラリーマンの1人コント。ネタ自体はそつなくおもしろいのに、得票数が全く伸びていなかった。

▲ヨシダin the sun一次審査のネタ動画

その理由は何となく想像できた。彼のツイッターでの過去の書き込みをさかのぼると、「気持ち悪さが限度を超えている可能性がある」とプロの芸人に指摘されたことがあると書かれていた。その通りだ。彼は自分自身のことをよくわかっていた。

ほかの審査員が誰を選ぶのかは知らなかったが、須田亜香里さんが彼を選ばないことだけは何となく確信できた。私は彼を選ぶことにした。

 出川、狩野にも似た逸材

二次予選は10組のファイナリストが審査員の目の前でネタを披露する「ネタ見せ」方式。観客は入っていないが記録用のカメラは回っている。普段のライブよりもやりづらい環境だと思うのだが、どの芸人も落ち着いた様子でネタを演じていた。

一次予選で絞り込まれているだけあって、みんなおもしろいのはもちろん、それぞれにエンターテイナーとしての魅力があった。

特に、スレッジハンマーのオリジナルな思想を展開させていく豊かな発想力、キャラメルアンセムの自分たちに合ったネタとキャラを作り込む恐るべき客観性、自分がおもしろいと思っていることだけをまっすぐにぶつけてくるグランフロント玉出の芯の強さが印象に残った。


▲スレッジハンマー


▲キャラメルアンセム


▲グランフロント玉出

10組のネタを見終わった後、審査員である私はその中から1組を選ばなければならない。基本的には、自分がシード枠で選んだ芸人にはよほどのことがない限り投票はしないでおこうと思っていた。それをやってしまうと、1組だけを過剰にゴリ押しして、大会そのものを私物化してしまうような感じがしたからだ。

しかし、全組を見終わった私は頭を抱えた。自分の中の基準では、ヨシダ以外にふさわしい人間がいなかったのである。この日のネタの出来だけで評価するならば、彼よりも優れている人はたくさんいた。いや、ほとんどがそうだったと言ってもいい。

なぜなら、ヨシダは明らかに緊張でガチガチだったからだ。動画で見ていたときよりもやや早口になっていて、声のメリハリもない。ハリ、ハリ、ハリの一辺倒で来ていた。彼は10組の中の誰よりも緊張していた。

だが、「ほっとけない」という観点でのみ考えるならば、彼は逸材だと認めざるをえない。ネタの後の審査員の講評パートでは、全員が彼をいじりたくなってしまっていた。この感じはテレビでも見覚えがある。出川哲朗、狩野英孝など、神に選ばれし者だけができるアレだ。生きているだけでボケであり続け、周囲の人を無理矢理ツッコミに回してしまう。ヨシダもあの奇跡を起こせる側の人間だった。

私は芸人でもタレントでも何でもない、ただの一般人にすぎない。そんな自分が、いざヨシダを前にすると、ムズムズするような衝動と共に彼をいじり倒したくなっている。わざと厳しい言葉を浴びせて、彼がどんな表情を浮かべ、どんな言葉を返してくるのかをワクワクしながら想像してしまっている。

「ほっとけない」という審査基準をそれぞれの審査員がどう解釈して、誰に投票するのかは全く想像がつかなかった。結果的には、私とヤスさんがヨシダ、徳井健太さんと児島気奈さんがとれたて力、須田さんがスレッジハンマーに投票していた。票が割れたため、勝負の行方は決選投票で須田さんがヨシダかとれたて力のどちらを選ぶかに委ねられることになった。

須田さんは迷いながらも「ヨシダin the sun」の札を上げた。こうしてヨシダはチャンピオンになった。賞状を手渡す須田さんからは「すごく気持ち悪かったです」という最高の褒め言葉が贈られた。

 手を差し伸べたくなる、それが「ほっとけない」

二次予選で実際に学生芸人のネタを間近で見るまでは、「ほっとけない学生芸人」の具体的なイメージが浮かばなかった。だが、ヨシダin the sunを見たとき、ほっとけないとはこういうことなのだと確信できた。

私が思うほっとけない芸人とは、一番面白い芸人でもなければ、一番華がある芸人でもない。ただ、手を差し伸べたくなるような人。もっと言えば、1人では立っていられないような人。生まれたての子鹿のようにプルプル震えているか弱い存在。「ほっとけない」とはたぶんそういうことだ。

こんな男の人生に、一度くらいこんな夜があってもいい――俺はお前を見てそう思ったんだ。おめでとう、ヨシダ。賞金の10万円で「ライブハウスを借りてライブをやりたい」と柄にもなく真面目なことを言っていたお前を見て、俺は心の中で「いや、風俗行けよ!」と叫んでいた。そこは風俗だろ、ヨシダ。でも、そこで真面目になっちゃうところも含めてほっとけないんだよな。優勝者としてこれから胸を張ってマイナビ学生の窓口の看板を背負ってほしい。今頃、担当者は頭を抱えているかもしれないけれど。

文:ラリー遠田

ラリー遠田:作家、ライター、お笑い評論家。テレビ出演やウェブ連載を担当するなど、お笑い関係でマルチに活動している。
HP:http://owa-writer.com/
Twitter:@owawriter

公式レポート&ヨシダ in the sun二次審査の動画を見る

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