出だし2秒で答えがわかる?! 規格外な知力の「京都大学クイズ研究会」に潜入してきた

社領エミ

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こんにちは、ライターの社領エミです!

突然ですがみなさん、こちらをご覧ください。

私は今、京都大学でとある日本一のサークルの活動にお邪魔しています。

何も書かれていない黒板に、本を持って前に座る一人の生徒と、それを囲むように座る複数の生徒たち。

このサークル、みなさんには何のサークルに見えますか?

正解は……。


「問題。アブラハム・マズローが唱えた「欲求段階説」において、最高……」


ピンポン!!

「自己実現」


「正解!」




「問題。長く熟成された赤ワインに顕著に見られる……」


ピンポン!!

「澱(おり)」


「正解!」



「問題。1654年に来日し、日本における『黄檗しゅ……」



ピンポン!!

「隠元(いんげん)」


「正解!」



なんじゃこのサークル〜?! 答えは、クイズ研究会です!

今回お邪魔しているサークルは、「京都大学クイズ研究会 Mutius」
日頃からクイズに勤しんでいるサークルがあると聞きやってきたのですが、いやぁ、予想以上にハイレベルな知識量で私も驚いております……! 澱?! 隠元?! そんなの普通、知っとるか〜?!
また、尋常ならざる知識もさることながら、驚くべきはそのスピード


「問題。半導体の集積密度は……」


ピンポン!!


「ムーアの法則」


「正解!」


「問題。カラオケ用語の『ヒトカラ』を……」



ピンポン!!


「エクシング」


「正解!」



「問題。そのファンは『8号車……」


ピンポン!!


「超特急」


「正解!」



ひ、ひえ〜〜〜!!!
(※私もやってみたのですが、もちろんまったく歯が立ちませんでした)

早押しボタンの前で研ぎ澄まされた集中力に、超絶技巧に早い解答力、そんなことまで知ってんの?! という知識。

き、気になる……。

聞きたいことがたくさんある……!



というわけで、ジャーン!

このクイズサークルの要である、3回生であり会長の宮原さん、おなじく3回生の大橋さん、2回生の興梠(こうろぎ)さんです!

どうやってこんなに多くの知識を身につけているのでしょうか?
はたまた、この驚異の回答スピードには何か秘密はあるのでしょうか?

今回は、日本一のクイズサークルの秘密について、お話をお伺いしたいと思います!

クイズ研究会「Mutius」って何?


「いやー、みなさん本当にすごすぎます……! クイズ研究会の活動を見たのは初めてなんですが、知識とスピードにめちゃめちゃ圧倒されました!
まず、この研究会『Mutius』について教えてください!」


「はい。京都大学クイズ研究会 Mutius(ムティアス)は、現在部員が75名。2016年と2018年、学生サークル日本一決定戦『EQIDEN』にて優勝しました。過去には、学生クイズ最高峰の大会『abc』にて会員が優勝したことも何度かあります」


「すごい、本当に日本一のクイズ研究会なんですね!」


「活動としては先ほどのように、次々と出題される問題に制限時間3秒以内で答え、特定回数の正解を目指す『フリーバッティング』を週に3回行っています。あとは、基本的に毎週末はどこかしらでクイズ大会が行われているので、それに団体や個人で出場したりとか」

こちらは前述の『EQIDEN』出場直後の写真。実はいま、日本全国では年間80〜100ものクイズ大会が行われているそう。個人が主催する小さなものから、700名以上が参加する大きなものまで、規模はさまざまなんだとか……。全然知らなかった!


「へぇ! ちなみに、Mutiusさんが優勝した大会は公式大会とかなんですか?」

「クイズ業界には、公式というものがないんです。有志たちによる数多ある大会の中で、学生サークルを対象としている最大級のものが、僕たちが優勝した『EQIDEN』になりますね」


「なるほどなぁ。……でも、そんなに毎週クイズをやって飽きないんですか? あの問題を週3回って、めちゃめちゃ疲れそうな……」


「いや、毎回問題も違うので、逆にどうして飽きるのかわからないんですが……」


「そ、それもそうですよね! たしかに〜!」


クイズのジャンルが広すぎる! どうやって勉強しているの?


「しかし、出題されるクイズのジャンルがものすごく幅広くて驚きました。歴史の問題が出たと思ったら、芸能の問題も出たりして」

「はい。クイズは、歴史、科学、文学、芸術、芸能……世の中のありとあらゆるものが問題になるんです。なので、ジャンルは無限ですね」


「無限か〜!」

「時事ネタとかもクイズになるので、ニュースなんかはクイズの宝庫です。最近のでいうと、『アメリカのトランプ大統領が北朝鮮の金正恩第一委員長と初めての首脳会談を行ったシンガポールのホテルは?』とか」(※取材当時2018年8月末)


「え?」


『カペラホテル』だっけ


正解! あとはスポーツネタなんかも。今で言うと、アジア競技大会をやってるので、『開催国は?』とか、『自由形・バタフライで金メダルを獲ったのは誰?』とか……」


「あぁ、『インドネシア』で、『池江璃花子さん』ですね」


「正解!」


「な、なんでその情報を知ってるの〜?! どうやってそんなに広い範囲の知識を覚えてるんですか?!」


「うーん……。広い範囲を覚えるのは、やはり問題集ですかね」


「問題集?」


「クイズ業界では、有志が同人誌のような形で問題集を発行していて、クイズ大会のたびに売ったり交換したりしてるんですけど」


▲こちらが宮原会長が作った問題集! 会長主催のクイズ大会の記録集だそう。


▲中身はこんな感じ。先ほどの活動で読まれていた問題集も、有志の方から購入したものなんだとか

「こういう問題集って、だいたい最初らへんにはオーソドックスな問題がまとまってるんです。例えばこれ、『昭和の日はいつでしょう?』とか。これは誰でもわかりますよね」


「……え?!」


「え?」


「……し、知らないですね……」



「「「あ〜……」」」


「すまんかったな! 祝日なんて覚えてないわい!」


「正解は4月29日です。

こんな感じで、問題集でわからない問題があったら『祝日を全部覚えてみよう』という風に背景を抑えていくのが勉強の方法として多いですね。あとは、女性初のノーベル平和賞とか、何かで初めて業績を残した人は割とクイズになりやすいなど、ある程度の傾向はありますよ」

「無限にジャンルがあるとは言っても、結局のところクイズ大会で勝つことが目的なので。大切なのは『みんなが抑えているところをどれだけ落とさないか』だと思います」

無限のジャンルから作られる「美しい問題」って?

「それにしても、公式ではないアマチュアの方々が問題集や大会を作られているとすると、問題は無限に生み出せますよね。例えば、『ノーベル賞を64番目に受賞した人は?』なんかがクイズで出ても、ニッチすぎて誰も答えられなさそう」

「そういうマニアックすぎる問題は、問題として良いかというと微妙ですね……。僕は個人的に『やわらかいクイズ』が好きなんですけど」


「やわらかいクイズ?」


「はい。僕、前会長の佐野さんが作った『読み聞かせ』の問題がすごいなぁと思っていて」



「『読み聞かせ』という、学校で習うわけじゃないけど誰もが知ってる言葉が答えにされているのがかっこいい。かつ、これまでクイズにされていなかった言葉をうまく問題に落とし込んだなぁと。

よく使う言葉ってだいたい問題文が作りにくいんですが、これは文の構成においても美しいし、こういうのに出会った時は『あぁ、いい問題だなぁ』と思いますね」

「た、たしかにいいかも……こういう問題なら、私みたいな初心者や子供でも渡り合えそうでうれしいし!
ちなみに会長は、どういう問題が良い問題だと思いますか?」


「難しいですね……。例えば、僕が最近すごいと思ったクイズはこれですね」

「この問題はまず、考えさせる流れが美しいんです。『「作業」や「料理」の前について』で、『共通して前につく言葉は何だろう』と考えさせる。そのあとの『機械ではなく』も効いてるんですよね、うまく頭をひねらせる感じが絶妙だなと」

「そして、最終的にはみんなが知っている『手作業』『手料理』という言葉に行き着くのがすごいですね……! 問題って、実はかなり美学を持って作られてたんだなぁ」

究極、「アマゾン川で」と聞くだけで答えがわかる!


「あのですね。さっきの活動の、この問題なんですが……」



答えるの早すぎません……?! どうしてこんなに早く答えがわかるんですか?!」

「もっと早く答えられる問題もありますよ。例えば有名なのでいうと、問題文『アマゾン川で』の時点で答えが『ポロロッカ』だとわかるものとか」


「え……?!」


▲こういうこと~?!


「な、なんでなんで?!」


「問題文は、ほぼほぼ『アマゾン川で3月に起こる逆流現象のことを何と言うでしょう』で決まりだからです。


『アマゾン川"で"』のように助詞が『で』の場合は、アマゾン川でしか起こらないようなことが答えになる。そしてアマゾン川は、クイズになるくらい有名な事象がポロロッカくらいしかない。なので、ポロロッカが正解になります」


「え〜〜〜…?! ほんとに?!」


「考えてみてください、『アマゾン川で』で始まるクイズになりそうな問題文は、これくらいしかないはずですよ」

「おもしろいのが、例えばこれが『アマゾン川"では"』になると、答えはポロロッカにならないんです。『アマゾン川では、3月に起こる逆流現象があります。それは何でしょう?』だと、問題文が意味なく回り道していて、文章として綺麗じゃない。

『アマゾン川"では"』ときたら、おおむね『アマゾン川とほかの場所でも行われること』が答えになります。すなわち、ポロロッカが代表的な事象であるアマゾン川だと、問題文は『アマゾン川では、3月に起こる逆流現象"ポロロッカ"を利用してあるスポーツが行われます。それはなんでしょう?』となるはず。

なので、『アマゾン川"では"』で始まる問題の答えは『サーフィン』になるわけです


「な、何それ?! そんな細かいとこまで予想しながらやってたの〜?!」


「助詞は本当に大事なんですよ。『に』とか『の』でもかなり変わってくるし」


▲このように、大会の記録集には回答者が問題のどこで答えたかがわかるような記述もされています。「/」が入っているところが、「回答者が早押しボタンを押して答えたタイミング」らしいんですが……早過ぎるでしょ〜?!

「ほかにも、イントネーションで答えが分かれるものもありますね」


「これは僕が考えた問題なんですが、この場合『昨年の紅白歌合戦において、紅』の時点で答えがわかります


「な、なんで?! その時点で答えが『総合司会の名前』になるなんてわからないでしょ?!」


「『昨年の紅白歌合戦において、紅』で始まる問題の場合、これに続く文章のパターンは概ね2つ」

「2つを声に出して読み比べてみてください。パターン1の場合、『紅組は』は少し語気が強めになり、パターン2の場合『紅組は』がストレートに読まれるのはわかりますか?」

「た、たしかに……! もしかして、そんなことまで考えながら早押しボタンを押してるんですか……?!」


「押したあとに問題文の続きを考えることも多いですけどね(笑)」


「た、たったの制限時間3秒で! 職人芸だな〜!」


▲そういえば、活動中にもボタンを押してから考えてる方がいらっしゃったかも。にしても頭の回転早すぎでしょ!


「でも極端な話ですが、助詞やイントネーションからの予測って、問題の作り手や読み手が意地悪だったら成立しないですよね?」

「早押しクイズはほぼ競技のようなものなので、ある種のスポーツマンシップというか、大会自体が作り手・読み手がきちんとするという信頼のもとに成り立っているんです。読み方が悪いと、問題が無効になる場合もありますよ」


「なるほどなぁ。問題の作り方も読み方も、めちゃめちゃしっかりしてるんですね」

クイズの「魅力」って何だろう?

「いやぁ。今日は、みなさん本当に情熱を持ってクイズに取り組んでいらっしゃるということがよく解ってとてもおもしろかったです!

みなさんをそこまで引き付ける『クイズの魅力』って、どういうところにあるんでしょうか?」


「そうですねぇ。どこだろう……」


「クイズね。たいして役に立たないしね……


「や、役に立たないんですか〜?! 就職とかには?!」


「知識は増えるけど、知識だけなんですよね」

「競馬に関するクイズのおかげで『高松宮記念が行われるのは中京競馬場』とかは覚えてるんですが、一度も競馬場に行ったことがないですからね」


「一回行ってみたいよね」


「な、なんじゃそりゃ〜!」

「芸能問題に備えて女優の出演作や家族構成を覚えたりするんですが、肝心のドラマを見ていなかったときなどは、歴史人物を覚える感覚で覚えることもありますね。

『有村架純、兵庫県出身、連ドラは「あまちゃん」「ひよっこ」に出演し「思い出のマーニー」で声優初挑戦』みたいな感じに……」

「文字でしか覚えてないので、広告なんかで女優さんの顔を見て『この女優、こんな顔してたのか!』ってなることも、よくありますしね」

「でも僕は、クイズってそれでいいと思っていて。だって、僕はただ、早押しボタンを押して『正解!』と言ってもらえることを何よりの楽しみにクイズをやってるだけなので」


「間違いない!」


「えー! クイズの最大の魅力って、そこなんですか?」


「はい。この楽しさに取り憑かれてクイズにはまってる人は多いと思いますよ、少なくとも僕の周りでは」


「そんな純粋なメンタルで凄まじい知識を極めていたの……?!」


▲この一言があの白熱した戦いを担っていたなんて……!


「それでは最後に、皆さんの今後の目標をお聞かせください!」


「僕は、これからもクイズを精進して、早く4回生の先輩たちに追いつけるようになりたいです。社会人になっても、テレビに出られるくらい強くなりたい!」

「僕はとりあえず、死ぬ時に後悔したくない、それくらい!(笑)」


「僕は……クイズの答えになるような人になりたいです!


めちゃくちゃいいですねその答え!!

みなさん、今後のご活躍を楽しみにしております。今日はとてもおもしろいお話をお聞かせいただき、ありがとうございました〜!」

ピュアすぎて眩しいクイズ業界

いかがでしたでしょうか!

ちなみに前述の通り、クイズ大会は運営側も参加側も全員がアマチュア。そんな中で、中学生の大会は高校生が運営を、高校生の大会は大学生が運営を、大学生の大会は社会人が運営を……と、業界内で助け合い、下の世代を育てるシステムが成立しているのだそう。

下の世代が育つよう尽力する運営陣。より美しい問題を目指してクイズを作問する方々。「正解!」と言われることを楽しみに、知識を極める参加者たち……。

……クイズに情熱を傾ける人って、めちゃめちゃ純粋じゃないですか〜!


▲活動中の様子です。見てください、この笑顔いっぱいの幸福な空間……!

今回御三方にはかなりいろいろお話を聞いたんですが、いくら聞いても「お金儲けになるから」とか「モテるから」なんかの汚い欲が全く顔を出さなかったんですよ。
わたしはもう欲でいっぱいの生活を送っていますので、いやぁ、眩しかった……。でも、なにか一つのことを極められる人って、得てしてこういう純粋さを持っているのかもしれない、としみじみ思ったのでした。

たとえこのすさまじい知識が直接的に何かの役に立たないとしても、その純粋な意欲さえあれば彼らは絶対に大丈夫!
幸福な学生たちの空間を見て、汚れた大人の心が澄み渡ったような気分になりました。社領エミでした。

文・社領エミ@emicha4649


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