旅行情報誌『るるぶ』らしさの魅力をWEBに…出版社のデジタルマーケティングへの挑戦の裏側に迫ってみた!

がくまど編集長:点P

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「出版社ってめちゃくちゃ忙しいんでしょ?」「今どき紙媒体ってどうなの?」「でもWEBメディアはPV至上主義なんでしょ?」

メディア業界を志す皆さん、そんな風に思っていませんか?

はじめまして、ライターのニシブマリエと申します。私は新卒で株式会社マイナビに入社し、営業と広報を経て、2017年10月にフリーランスとして独立しました。現在はライターやPRという立場で、メディア業界に片足をつっこみながら働いています。

確かに今は、紙が売れない時代。私がフリーライターとして受ける仕事も、圧倒的にWEBが多いです。かといって、出版社だって、指をくわえてただ滅んでいくのを待っているわけではありません。今回は、ネット時代への転換を図る出版社の取り組みをご紹介したいと思います。

皆さん、ガイドブックの『るるぶ』はご存知ですか? この春、その『るるぶ』から、新たなWEBメディア『るるぶ&more.』がスタートしました。

『るるぶ&more.』TOPページのスクリーンショット(2018-06-29)


これを手掛けるのは出版社のJTBパブリッシング。あの『るるぶ』でさえ、紙からWEBに移行していくということでしょうか? 編集長である竹地里加子さんと、デジタルマーケティングを担当する田代浩一さんにお話をうかがいました。

竹地里加子さん:『るるぶ&more.』編集長。1993年株式会社日本交通公社 出版事業局(現・株式会社JTBパブリッシング)入社後、約20年に渡って、『旅』『るるぶじゃぱん』『ノジュール』など月刊誌の編集を担当し、現職。

田代浩一さん:デジタルマーケティングチーム マネージャー。2001年株式会社日本交通公社 出版事業局(現・JTBパブリッシング)入社後、『るるぶ情報版』の国内版や書籍型ガイドブック『タビハナ』『ココミル』の編集を担当し、るるぶ.comのシステム開発を経て、現職。

待ちの『るるぶ』から、攻めの『るるぶ』へ

―『るるぶ&more.』はどんなメディアですか?

編集長・竹地里加子さん(以下、竹地さん):20代~30代の女性をターゲットに、旅行やちょっとしたおでかけの情報をとどけるWEBメディアです。旅情報だけでなく、ライフスタイルやビューティ、ファッションなど幅広いジャンルの記事を扱っています。

―最初から失礼な質問でスミマセン。WEBメディアを立ち上げたのは、紙が売れていないからですか?

竹地さん:直球ですね(笑)。それも一つの理由ではあるのですが、紙のガイドブックを持ち歩きたいという需要は根強いので、紙を縮小していくつもりはありません。

―では、どのような目的で?

竹地さん:もっと読者とのタッチポイントを増やしたいと思ったんです。『るるぶ』は、旅行に行くことが決まったあとに手に取られる情報誌です。1年に何回旅行にいくかというと、多い人でも3~4回ほどなんじゃないかなと。

―そうすると、多くとも年に3~4回しか『るるぶ』と接点がない…?

竹地さん:その通りです。もっと「週末どこ行く?」くらいの、日常に寄り添うような情報を発信していこうと立ち上がったのが『るるぶ&more.』。これまでのような「待ち」の姿勢ではダメだと思ったんです。潜在層にもアプローチしないと。

―なるほど。ところで、ターゲットは20代〜30代の女性ということですが、競合も多いのではないかと思います。その層を対象とした理由は?

竹地さん:紙の『るるぶ』は老若男女どんな方が見ても、役に立つような幅広さが売りです。一方、WEBメディアは、ターゲットを絞った方が濃い情報を届けられます。マネタイズとしては、『るるぶダイニング』というレストラン予約サービスや、電子チケットサービスへの導線も期待しているので、デジタルファーストかつ、お金が自由に使える「20~30代の女性」をコアターゲットにしたんです。

『るるぶダイニング.』TOPページのスクリーンショット(2018-06-29)


紙とWEB、編集の仕事の違いは?

―紙の編集とWEBの編集、どう違うものなんでしょう?

竹地さん:私は紙媒体の編集者として約20年勤めてきましたが、「良質なコンテンツを多くの人に届けたい」というマインドの部分では、紙もWEBも大きな違いはないんですよ。特に『るるぶ』は現地での徹底した取材をもとに制作されているところが強みなので。ただ、WEBメディアには流儀というか……お作法のようなものもあって。

―WEBのお作法?

竹地さん:データがとれるがゆえに、テクニックも必要になるんですね。導線やら回遊率やら、裏で考えなければいけないことが多いんです。ただ、メディアとしてもっとも大切なのは「テクニック」ではなく「伝えたいという思い」だと思うんですよね。

―確かに量産記事からは、一瞬で離脱しますよね。読了率も分かってしまうからこそ、発信側の熱量が大切なのですね。


女性向けメディアは写真が命!

―『るるぶ&more.』では、インフルエンサーも起用していますよね?

竹地さん:はい。インフルエンサーの方々を「&mores」と呼んで、連載記事を担当してもらっています。

(C)JTBパブリッシング

―ちょっと突っ込んだ質問になりますが、どんな方に、どんな役割を期待して起用されているんでしょう。

竹地さん:インフルエンサーの方々ってそれぞれに世界観があるじゃないですか。それが『るるぶ&more.』と合うかどうかを大切にしていて。もちろんファンの方の流入も期待していますが、お声がけをするときはフォロワー数よりも世界観と専門性を重視しました。

―美容にグルメと、インフルエンサーのジャンルも幅広そうですが、写真系のインフルエンサーが若干多い……?

竹地さん:その比率はあまり意識していなかったのですが、記事内に使われる写真にはかなりこだわっていて

―分かります! ぶっちゃけ紙の「るるぶ」より写真に力入っていませんか?(笑)

竹地さん:紙は紙で力を入れていますよ。でも先ほど申し上げた通り、ターゲットが20代~30代の女性なので、いわゆる「インスタ映え」は意識していますね。ビジュアルガイドラインを作って、写真の方向性を擦り合わせているんです。

―例えば『るるぶ&more.」においては、どんな写真が良い例になるんですか?

竹地さん:例えば紙の場合だと、神社を紹介するときは全体像が分かるような引きの写真を使用します。でも神社の引き画って、茶色っぽくて地味~な感じがしませんか? だったらかわいいお守りにフォーカスしてみるとか、ハートになっている石垣を撮ってみるとか。

―「わたしもこんな写真撮りたい!」と読者に思ってもらえるようなステキな写真を。

竹地さん:そうです。観光地の紹介よりも、共感してもらうことを重視しています。20代~30代の女性への入り口は「このお寺はだれがつくって、創建何年で…」といった事実をつたえるよりもまず、直感的に「ステキ!」だと思ってもらうことです。ステキをフックに、神社そのものに興味を持ってもらえればいいなって考えています。

競合多きジャンル。マーケティング上の勝機は?

―とはいえ、旅行メディアに限らず、女子向けのメディアはたくさんのライバルがいると思います。『るるぶ&more.』は、どのようなところに勝機を見出しているんでしょう?

田代浩一さん(以下、田代さん):ここからは私がご説明しますね。正直、今ってスキマ時間と可処分所得の奪い合いじゃないですか。

―田代さん、開口一番すごいことをおっしゃいますね。でもその通りです。

田代さん:コンテンツからお金に変えていくという面では、JTBグループであることに強みがあると思っています。『るるぶ&more.』で「行きたい!」と思ったあとに、シームレスにレストラン予約ができたり、宿泊予約が出来たら嬉しいですよね。

―確かに、ちょっとしたお出かけで、全部をバラバラに手配するってなかなか骨が折れます。

田代さん:そのワンストップなサービスに利便性を感じてもらえれば、勝機は見出せるのではないかとと。あとはやっぱりコンテンツの質と量でしょうね。ここにもこれまでの我々が培ってきた強みを生かせる自信はあります。

―コンテンツの「量」というと、月何本といった目標はあるんですか?

竹地さん:当面は、月400本を目標にしていて。

―っっっ400本!? 尋常じゃないですね。質を下げずにその量をこなす。いやー、狂気すら感じます。

竹地さん:メディアとして、常に新しい情報があることはマスト。朝・昼・晩と、1日に何回訪れても、素敵な発見があるサイトにしたいんです。正直、編集部員にもライターさんにも無理をさせているなって思うことはあります。だからといって、質を下げる選択肢はないんです。それを無くしたら『るるぶ』の強みや魅力を自ら潰すことになりますから。


―情熱が伝わってきます。それにしても400本はすごい……私もつべこべ言わず頑張ろうと思いました。

―検索とソーシャルでいうとどちらに注力していくんでしょう?

田代さん:最初はソーシャル。待つ『るるぶ』ではなく、発信していくということに力を注いでいきます。ただ、実際に「行きたい!」と思ったときに対応できる、検索に強い記事も並行して強化していきます。

―裏のことまでお話しいただき、ありがとうございます。最後に、お二人はどんな人と働きたいですか?


竹地さん:面白い人と働きたいですね。最近は、「いい子」が多いんです。いい子でいられることはすごいことだけど、若い人たちには「人と違ってもいいんだよ」って言いたくて。私は、自分と違う視点を持っている人から学ぶことが多いので、色々な個性が見たいなと思っています。

―田代さんはいかがでしょうか?

田代さん:いい意味で、いつも疑問を持っている人と働きたいです。疑問を持っている人って好奇心旺盛ですよね。良いコンテンツも「なぜ?」から生まれることが多い。そういう目の輝きがある学生さんには「おおっ」と思うことが多いです。

―お二方とも、興味深いお話をありがとうございました!

*****

ということで、今回は「WEBメディアに挑戦する出版社」にお話を伺いました。メディアに就職したいけれど、紙媒体はやめた方がいい? でもWEBメディアは質が低いんでしょ? そんな疑問を持つあなたに、金言が飛び出しましたね。

紙もWEBも手法の違いだけ。テクニックより、何を伝えたいかが重要!ということです。

紙・WEBに関わらずいろいろなメディアを見比べて、彼らのメッセージと自分の世界観とを照らし合わせていく。「出版社で働きたい!」と思ったら、「自分は何を伝えたい人なんだろう?」と、自身に問いを立ててみてください。きっと次の一歩が見つかるはずです。

ニシブマリエ Marie Nishibu

フリーライター・PR。新卒で株式会社マイナビに入社後、営業、広報を経てフリーランスに転身。HRやマーケティングといったビジネス領域や、ジェンダー・多様性などをテーマに執筆活動を行う。趣味は海外一人旅。一人旅でも自分の写真を撮りたい!と、セルフポートレート撮影を開始。三脚かついで一眼レフで自撮りをする行為を「プロセルフィー」と名付け、通行人に怪訝な顔をされながら作品作りに奔走中。

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