【連載】『あの人の学生時代。』#24:佐藤二朗「大学生の今こそウジウジせよ」

学生の窓口編集部

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著名人の方々に大学在学中のエピソードを伺うとともに、現役大学生に熱いエールを贈ってもらおうという本連載。今回は思わずくすっと笑えるツイートでも大学生の心をわしづかみにしている俳優の佐藤二朗さん。大学生の理想の父親としても時に名前があがる佐藤さんは、6月1日(金)より公開中の映画『50回目のファーストキス』で交通事故の後遺症により短期記憶障害を負ってしまった娘、瑠衣(長澤まさみ)の父親・藤島健太役を切なくもユーモラスに演じています。地元の愛知県を離れ、信州で過ごした大学生活を聞いてみました。

役者になる夢を持ちつつ、信州大学へ

――佐藤さんは信州大学経済学部に行かれていたそうですが、大学・学部選びの理由は?

正直なところ、受験して合格したからというのが本音です。高校時代すごく経済に興味があったわけでもなかったんですが、唯一ひかれたところは、僕が通っていた学部が他の大学の経済学部では2年で勉強することを、3年かけてゆっくり勉強すると言われてたところですかね。

――2年のところを3年で勉強とは、丁寧に教えてくれる大学だったんですね。

まぁ、2年間で詰め込みながらやるのではなく、もう1年間かけてゆっくり勉強していこうねってことだと思います。信州の大自然と同じく、おおらかな感じですよね。ゼミを選ぶときも「大学時代は好きなことをやればいいよ!」ってスタンスの先生のゼミを選んでいました。それもあり、留年しないで卒業できるように授業は受けていましたが、バイトばっかりしていた大学時代でしたね。

――では、大学時代いちばん夢中になっていたのはアルバイトですか?
 
大学入学したときも「役者になりたいなぁ」と思ってはいたんですが、同時に「役者で食えるわけないなぁ」という思いもありました。大学を卒業したら、普通に就職して、土日の余暇で趣味で芝居をやろうかなぁと。

そこで大学1年生のときに、今も残っている『劇団 山脈(やまなみ)』という歴史のある古い劇団でせめてお芝居をやろうかなと思ってガイダンスを受けに行きました。でも厳しそうだなと感じて、結局入らず(笑)。

――え、そうなんですか!?

本当にもうとにかくぐうたらな、暗黒の20代だったんです。今思い返しても中途半端な学生だったなと思います。

――暗黒の20代を過ごされていたとは……。アルバイトに夢中になっていたということですが、具体的に大学時代はどんなバイトをされていたんですか?

4年間、大学がある松本市にいたので、浅間温泉の温泉街の旅館で、背広を着てフロントマンをやっていました。「温泉街は流れ者が多い」とよく聞きますが、実際、長野県ってわりと西からも東からもいろんなところから人が来るんで、旅館で働く人も過去に何をやっていたのかよくわからないような人も多かったんですよね(笑)。

たとえば、お客さんが車で来られたら、フロントマンが車のキーを借りて駐車場まで車を移動させるんですけど「俺は絶対運転しない」っていう人がいたり(笑)。なんで運転しないかの理由は怖くて聞けなかったですね。

他にも、夜勤の人に悪気なく「あれ、〇〇さん顔赤いですね。もしかして酔ってるんじゃないですか?」って冗談で言ったつもりがすごく怒られたことがあったり。多分その人は過去にお酒で何かあったのかもしれませんね。そんな人が多かったので、結構刺激的でした。

――そんな個性的な人が働いている旅館だと、人間観察しているだけでもお芝居の参考になりそうですね。

そうなんですよね。今年の6月にキャストを全員オーディションで決め、4人の作家がそれぞれ30分の短編をかいた作品(※)を上演するんですが、そのうちの1本を僕が担当していて、その作品は今お話しした旅館での出来事をモチーフに書いています。

※『ラフカット2018』全労済ホール/スペース・ゼロにて上演

長野・松本はたくさんの「初めて」を経験した土地

――じゃあ本当に大学時代のアルバイトの経験が今のお芝居の仕事に役立っているんですね。そんなアルバイト中心だった大学生活の中で一番思い出深いことといえばどんなことですか?

バイトばっかりやっていたんで、これ! っていうエピソードが思い出せない……

僕は愛知県生まれなんですが、今でも第二の故郷は長野県の松本だと思ってるんです。初めて親元を離れて一人暮らしをした場所はもちろん、初めてお酒を飲んだのも、初めて女の子と付き合ったのも大学がある松本でした。要はいろんなことをデビューしたのが大学なんで、それが思い出といえば思い出といえるのかもしれません。

――確かに初めてを経験した場所は思い出に残りやすいですよね。後に役者の道を歩まれる佐藤さんですが、大学時代も就活を経験したと聞きました。当時のエピソードはありますか?

そうですね。大学を卒業してからも「趣味でもいいから芝居をやりたい」という思いがあったので、東京に行きたいというのがまずありました。そうなるとメーカーだと地方勤務ってこともあるじゃないですか。だから東京に就職できるからという理由で当時はマスコミを志望していましたね。

芝居の小屋は圧倒的に東京が多かったこともあり、「土日に趣味で芝居をやりたいからこの会社を受けました」と正直に面接官に伝えていました。でも結果は不採用。素直に答えていたところが理由のひとつかもしれませんが、テレビ局を受けていたとき、希望の職種が営業だったんですよね。

――営業!? 確かにテレビ局で営業志望はめずらしいですね。

実は学生時代のアルバイトでテレアポなどの営業のバイトもやっていたんですよ。自分で言うのもなんですが、営業の成績がよかったんです。だから自信もあってテレビ局でも営業職を希望したんですけど、テレビ局の面接官は不思議がるんですよね。「普通テレビ局に入りたい人は制作志望が多いのに、なんで営業?」と。

そこで「土日は芝居をやりたい」という理由を正直に言って落ちる、みたいな感じでしたね。

――せっかく営業の腕はあったのに……。正直すぎるのも考えものですね(笑)。

娘のためを思う父親を、時にコミカルに、やさしく演じる



(C)2018 『50回目のファーストキス』製作委員会

――映画『50回目のファーストキス』では、新しい記憶が1日で消えてしまうという短期記憶障害を負ってしまった娘のために、事故にあった日と同じ1日を毎日繰り返せるように努力する父親役を演じられていますが、父親役を演じる上で心がけた点があればお聞かせください。

本当に悲惨な事故なんですが、彼が娘のためにと思ってやっていることが正しいかどうかはわからないんですよね。だって問題を先延ばしにしているだけですから。

だけど、そうしないと「娘は毎朝、事故の事実を知って、毎日泣いてしまう。そんな娘の姿を見るのは父親として耐えられない」というセリフがありますが、そんな胸がギュッと締めつけられるような状況で娘を強く思う気持ちをしっかり土台に持って、どんなシーンでも撮影に臨むようにしていました。
 
――本当に切ないですよね……。
 
福田(雄一監督)組だから今までの作品のようなコントチックな笑いのシーンを期待するお客さんも多いだろうけど、笑いがある中でも父親の娘を思う気持ちを忘れてはいけないと。

ただやっぱり、どんな悲惨な状況にあっても、毎日人は笑うし、食べるし、クソはするじゃないですか。だから、悲壮感は出さないようにしましたね。

悲壮感を出さなくても充分悲惨な状況なんですよね。福田も「悲壮感を出さない作品にしようと思った」って言っていましたし、逆に、だからこそグッとくる部分もあると思います。

――また、ある意味こちらも将来が心配な、瑠衣の弟であり息子・慎太郎役の太賀さんとのコンビネーションも抜群でしたが、事前に2人で演技プランを話し合ったりしたのでしょうか?

特に話し合ったりはしてないですね。僕は太賀とはこれまでに何度も共演しているんですけど、彼は何をやっても本物に見えるんですよ。それは非常にいいことなんですよね。

なので、彼はこの物語に悲壮感を持たせないことにも非常に大きな役割を果たしていたし、あれはあれで、お姉ちゃんに対する愛がすごくある弟を見事に演じていたと思います。太賀の存在は大きかったですね。

――弟なりに、家族全体を見て、わざと明るく振る舞おうとしていた部分もあった気がします。

そうですよね。だからもしかするとお父さんも息子に救われていた部分があったかもしれない。

福田組だからこそのハワイでの撮影秘話

――福田監督から、演じる上で「こうしてほしい」といった注文はありましたか?

これがですねぇ、ビックリしますよ。……何ひとつありませんでした(笑)。僕も、今回こういう話だし、いろいろ細かい演出家っぽい演出をするかな? って思ったんですけど、まるでなかったですね。

――きっと福田監督自身、佐藤さんを信頼してらっしゃるんでしょうね。

それはそうかもしれないですね。「悲壮感を出さずに、でもちゃんと悲しみを抱えていて、それでいてちょっとチャーミングな父親っていうのは、二朗さんは絶対合うと思う」みたいなことを福田が言っているのを、映画を撮り終えた後に何かの雑誌で読みましたけど。

――撮り終えた後って(笑)! ところで、撮影は約1カ月に渡ってハワイで行われたそうですが、長期のハワイロケはいかがでしたか?

ハワイでの1日の撮影時間が決められていたこともあって、毎日みんなで飲む時間があったんですよ。しかもハワイですから、みんな浮かれますよね。僕は一応キャストの中では最年長組だったので、ビシッと締めるとこは締めなきゃいけないなと思ってインしたんですけど、結果僕が一番浮かれてました(笑)。

――みなさんハワイを満喫されていたようですね。

僕自身、ハワイは初めてだったから楽しかったですね。やっぱり、長年一緒にやってきたキャスト・スタッフでカラオケに行ったときは、いつも働いているところしか見たことない技術のスタッフとかがすごく楽しそうに歌ってるのを見て、それだけでもよかったなって思いました。

――なんだか社員旅行みたいですね。他にも何かエピソードはありますか?

普段ほとんどカラオケとかしないんですけど、そのときベロベロに酔っ払って、なぜか桑田佳祐&Mr.Childrenの『奇跡の地球』を熱唱してしまったんですよね。しかも2番から桑田さんのモノマネを真剣にやりながら歌うという、我ながらムチャクチャ恥ずかしいことがあって。

でもまぁ、酔っ払った席だったからいいやって思ってたんですけど、誰かがばっちり撮影していたんですよね。次の日さっそく動画がシェアされてて、僕が撮影に入ったらみんなニヤニヤして……。福田に「似てるねぇ、桑田佳祐さんのマネ」ってからかわれたり。そんなこともありましたね。

――福田組の仲のよさが伝わってくる、素敵なエピソードですね。では最後に、作品の見どころを教えてください。

僕はとにかく、改めて「山田孝之はすごいな」と思いました。彼にとっても久々の純愛作品だったそうです。

同じ「泣く」演技でも、すごく泣いててもあんまりグッとこないこともあれば、、そんなに涙が出てるわけじゃないのにものすごくグッとくることもありますよね。そんな中で孝之が泣くシーンは全部心にグッときましたし、役者としての凄みを感じました。それはもうこの作品全編通して言えることですし、そこは大きな見どころだと思います。

* * * * * * *

最後に、今の大学生に一言メッセージをお願いすると、迷わずササっと書いてくれた言葉は「ウジウジせよ」。「大学時代はウジウジした方がいいんですか?」と聞くと、「みんなどうせウジウジしてるでしょ? 遠慮なくウジウジした方が、のちにそれがいい経験になるかもよっていうことです」と、お馴染みの優しい笑顔で応えてくれました。

さとう・じろう●1969年5月7日生まれ。愛知県出身。96年に演劇ユニットちからわざを旗揚げし、全公演で作・出演を務める。近年の主な出演作は、映画『天空の蜂』『銀魂』『斉木楠雄のΨ難』、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京系)、『スーパーサラリーマン左江内氏』(日本テレビ系)など。現在、『やれたかも委員会』(MBS・TBS系)、『執事 西園寺の名推理』(テレビ東京系)に出演中。8月に『銀魂2(仮)』の公開が控えている。

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『50回目のファーストキス』6月1日(金)全国ロードショー!

主演:山田孝之 長澤まさみ
ムロツヨシ 勝矢 太賀 山崎紘菜/大和田伸也 佐藤二朗
脚本・監督:福田雄一 
プロデューサー:北島直明 松橋真三 製作:『50回目のファーストキス』製作委員会 
制作プロダクション:Plus D  
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 
(C)2018 『50回目のファーストキス』製作委員会 
公式サイトURL:http://www.50kiss.jp/site/
公式Twitterアカウント:@50kissjp
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文:落合由希
写真:為広麻里

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