吉江さんのガクチカ（学生時代一番力を入れていた活動）は？

▲大学時代の吉江さん

バイトもサークルも遊びも楽しんでいましたが、大学は勉強をしに行くところだと思っていたので、やはり一番頑張ったのは勉強です。特に研究室に配属された後は、研究の下地となる論理的な思考を身につけるために勉強に励みましたね。

研究室で取り組んだことは、細胞の中に撹拌子の役割をするものをつくること。化学の実験で見たことがある人もいると思いますが、磁力を利用してビーカーの中で撹拌子を回転させ、液体を混ぜる「スターラー」という装置があります。これと同じことを細胞の中で起こそうという研究です。細胞自体を反応容器とみなし、物理的に撹拌することで細胞内の化学反応を速めることができるかもしれないという意図です。現実的ではないけれど、実現できたらすごいという、かなり挑戦的なテーマでした。しかも教授から急にお題を振られて（笑）、やるしかない状況だったのです。

でも実際の研究は自分の裁量でやらせてもらえましたし、失敗に対する恐れもあまりなく、何事にも思い切って挑戦できました。研究室の基盤技術だけでは取り組めない内容だったので、自ら新しくチャレンジすることも多く楽しかったです。当時は大学に歩いて通える場所に住んでいたので、夜遅くまで研究に没頭することもしばしば。なかなか成果が出にくい状況は誰でもつらいものですが、それを超えるおもしろさがあり、私としては充実していましたね。

仕事で役立っている大学時代の経験は？

マテリアル工学の専門知識はもちろん、常にロジカルに考え、それを相手に正しく伝える訓練をしてきたことですね。これは文系・理系問わず求められることですが、特に研究者はサイエンスに基づいて話すことが大事です。私が師事した教授は学生を積極的に学会に連れて行ってくれるタイプで、発表の機会も何度か与えてもらえました。修士のときには海外の学会に行かせてもらい、初めて英語で発表することができました。発表内容を申請するときにポスター発表か、口頭発表かと聞かれて「どちらでもいい」と回答したら、口頭での発表になってしまって慌てました（笑）。原稿は用意すればいいのですが、英語が聞き取れる自信がなかったので、質疑応答がかなりプレッシャーでした。それでもなんとか上手くいきいい経験になりましたね。人前でプレゼンする度胸がつきましたし、場慣れもできたと思います。

就活前にやっておいたほうがいいことは？

もし「絶対に〇〇社に入りたい」という希望があるなら、その企業について徹底的に調べて情報を得ればいいのかもしれません。でも個人的には、それ以前に「自分はこうしたい」と思っている前提を、一度疑うところから始めたほうがいいと思います。そもそも、就職して会社に勤めることだけが生きる道なのか。例えば私自身が人生をやり直すとしたら、中学校を卒業してイタリアに留学して靴職人を目指したいと思っています。そんな道もありえるじゃないですか。まずは固定概念を捨てて、真にやりたいことを本気で考えること。その上で安定した収入といったような自分が大事にする要素とバランスを取って就職先を選ぶのもいいと思います。最終的に自分がきちんと納得して進むことが大事です。

固定概念で理想とする会社に入って順風満帆であればいいのですが、理想と現実にギャップがあっても後悔しないよう、やりたいことを徹底的に考えて道を選ぶのがいいと思いますね。

「今は研究を仕事にできていることをうれしく思っていますが、将来はもっとアカデミックで探索的なテーマに取り組みたい気持ちもあります。お給料をもらいながらサイエンスを突き詰められる環境が、自分にとって一番幸せなことですね。」と語る吉江さん。いつどんな場所にいても、本当にやりたいことを追い続けたい。そんな思いが伝わってきました。

文：鈴木恵美子
写真：中邨誠
取材協力：第一三共株式会社