仕事は自分のために選ぶ、どんなことでも全力に取り組もう

――学生が仕事を選ぶときに大切なことを教えてください。

なによりも、「自分のために選ぶ」ということですね。人生は選択の連続で、会社を選ぶのも仕事を選ぶのも、生涯のパートナーを選ぶのも選択だし、今日のランチに何を食べるのかも選択ですよね。その選択の基準や尺度は、やっぱり「自分にとってどうなのか」ということだと思います。人生の選択権は自分にあるのですから。

――自分のために、自分がわくわくするような仕事を選ぶということですね！

ただちょっと難しいのは、仕事は即わくわくするものでもないということです。誤解を招くかもしれませんが、仕事でわくわくするためにはある程度の忍耐や経験も必要です。じっくり取り組んでいくことが大切だと思いますね。もちろんわくわくする前に辞めてしまうのも選択なので、最終的に自分の選択に責任を持つ姿勢が必要です。自分を尺度にして、絶えず考え続けることが大切だと感じます。

――なるほど……。では最後に、学生時代に「これだけはやってほしいこと」というアドバイスをお願いします。

できるだけいろいろなことを経験してほしいです。人生の中で一番時間があるのは学生時代です。社会に出ると拘束時間が増え、自由に使える時間は少なくなります。でも、学生のときは、やろうと思えばどこにでも行ける時間があるし体力もあるので、有効に活かさない手はありません。
よく「時間と体力とお金のすべてが揃うことはなかなかない」と言われるように、お金の問題はあるかもしれませんが、できるだけ学生時代の時間を有意義に使ってほしいです。

――時間があるうちに、いろいろな経験をしておくということですね！ 頭でわかっていても、なかなかできないこともありますが……（汗）。

時間がたっぷりあるからこそ、その貴重さに気づきにくいのですよね。そこで、お伝えしたいのは「Do my best.」ということ。とにかく、なんでも全力で取り組むということです。「人はやったことではなく、やらなかったことで後悔する」という言葉がありますが、とにかくやってみること。そして、やるからには全力を尽くす。あくまで自分に対して、「Do my best.」。これにAlwaysをつけてもいいですね。いつも、一生懸命にやる。やる以上は自分の全力を尽くし、どんなことについてもこれを貫くことです。これは私自身が、毎日自分に言い聞かせていることです。

――社長もずっとこう思いながら、毎日を生きてこられたわけですね！

あと、社内ではよく「ええかええか、ヌーリーヌーリー」と言っています。「ええか」は、「いいか？」という岐阜の方言です。いまやっていることが正しいかどうか、いまの自分は舞い上がっていないか、傲慢になっていないかをつねに問うということです。そして、「ヌーリー」は中国語で努力という意味。これは「Do my best」と同じですね。当社は中国にも工場がありますが、中国人がよく「ヌーリー、ヌーリー」って言うんですよ。それを聞いて「これはいいなぁ」と思い、岐阜弁と中国語を混ぜてみました。

――これは経営者にとっても、大切な姿勢と言えますよね。

ややもすると、私たちは人に多くを求めがちですが、私自身いろいろな経験をしてきて思うのは「Nobody is perfect.」ということです。完璧な人など誰もいません。それぞれが補い合い、いいところを見つけ合って伸ばすようにすることが、会社経営にとって大切なことなのです。

――これから会社や組織で働くうえでも、大切な考え方だと感じます。

そうですね。会社はもちろんですが、まず社会において大切なことだと思います。

――ありがとうございました！

終始なごやかに、学生のころの思い出をお話しいただいた遠藤社長。「つねに全力で」と語るその姿に、にこやかな話ぶりの裏に秘めた熱い情熱をひしひしと感じることができた時間でした。みなさんも、たとえお金はなくとも、時間と体力がある学生時代のうちにいろいろな経験をしてみてはいかがですか？

＜プロフィール＞
えんどう こうじ●1955年岐阜県生まれ。1980年三和刃物株式会社（現貝印株式会社）入社。同年4月から2年間、コクヨ株式会社に出向。1989年に代表取締役社長に就任。
貝印株式会社HP：http://www.kai-group.com/
グローバルサイト：http://www.kai-group.com/global/

文：辻本圭介