​【連載】『あの人の学生時代。』 ♯9:テレビ東京プロデューサー 伊藤隆行「何も無いことを恥じるな」 2ページ目

学生の窓口編集部

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目次
  1. ――大学のサークルの中にはどれも得るものはなかったと……
  2. なぜテレビ東京に……? 伊藤さんの就活は
  3. 伊藤さんから今の大学生に伝えたいことは……

必死にぶつかることの中で面白さを感じる


――就職に関してはどうでしたか?


3年生の後半くらいに、これまたなんとなく「就職しないといけないんだろうな」と考えて銀行に行こうと思いました。「政治経済学部だし、銀行OBも多くいるから銀行で」という考えだったんですけどね。それに政治経済学部ですから、「大学で学んだ知識をなんとかかんとか……」みたいに志望理由も言いやすいですし。テレビ業界については、銀行への就職に向けた「練習」として応募したくらいでした。

――就活もなんとなくだったんですか(笑)。


でもね、就活はおもしろかったですよ。試験も面接も。それまで会ったことのない「大人」に会っていろんな話ができたし。


――実際に働いている人と話すと得るものも多いですし、大事なことですよね。


就活って自分の持っているものをかき集めて そのときに出せる最大限のいい顔、最大限の意思を相手にぶつけるんだけど、意外と足りなかったりして、うそで固めたりもする。まぁ、うそで固めたつもりでも、意外と自分を反映していたりして、それもおもしろいですよね(笑)。今思えば、自分も何もないなりに必死にぶつかったと思います。

――就活自体は順調でしたか?

これが意外とよかったんですよ。大手都市銀行もいい所までいって、日本銀行も受けていい所までいきました。で、テレビ局は日本テレビとテレビ東京の2つがいいところまで進むことができましたね。

――必死にぶつかった結果ですよね。そういえば日本テレビとテレビ東京は、面接の日程がかぶってしまったそうですが、そこでなぜテレビ東京を選ばれたのですか?


なんででしょうね。何を血迷ったのか、テレビ東京を選んでしまったんですよ。株のニュースばっかりやってるとか、『浅草橋ヤング洋品店』とか『ギルガメッシュないと』とか変な番組をやっているってイメージがあって、面接もいろんな人が会ってくれて、中には半分寝ているようなおじさんもいて……。とにかく変わった局だなと思っていたんですけど、何もアピールすることないから「報道志望です!」って言ったらなぜかトントン拍子で進みました(笑)。

人生の中でかなりいい刺激を受けた就活


――最終的にテレビ東京に進まれることになりますが、なぜ最初に志望していた銀行ではなく、本命でなかったテレビ局に進まれたのでしょうか?


これはね、本当にいろいろありまして……。僕は「色弱」で、色はわかるんですけど、よく健康診断で出るドットで文字や数字が描かれた表みたいなもの(※石原式色覚検査)は正しく認識できないんですよ。子どものころに色弱であることがわかったとき、母が泣いていたのを子どもながらに覚えています。で、この色弱であることと、自分の「父親」のことが、自分の中で就職活動をとても印象深いものにしたんです。

――お父さんの影響ですか……。


実はうちの父はクレジットカード会社の社員だったんですよ。まだカード文化が日本に定着する前だから、海外に研修に行ったりしてまさに昭和の営業マンって感じの人で。性格も厳格で、ちょっとでも曲がったことをすると猛烈に怒る人で、子どもからすると怖い父親でしたね。で、その父が「子会社はやめとけ」と言うんです。子会社は親会社の意向でいろいろ苦労するからダメだって。

――すごいアドバイスですね(笑)。


なんでそんなことを言ったのかというと、父が会社で人事部長だったとき、会社や現場が動きやすいようにと人事案をまとめたんですけど、親会社の意向が入ってまったく反映されなかったそうなんです。それでブチ切れてしまったんでしょうね。父は言いたいことは言うタイプだったので、お偉いさんの前で人事案を破り捨てて、閑職に飛ばされちゃったそうで……。

――その経験があったから、息子に子会社はやめとけとアドバイスしたのでしょうね。


そうでしょうね。それが自分の色弱が発覚したのと同じくらいのタイミングだったのを覚えています。話は就活時に戻るんですけど、受けた銀行の中には父の会社の親会社だったところもあって、父も「そこがいい」って初めていろいろ話してくれたんですよ。それまで寡黙であまり話すことがなかったんですけど、それがとても印象深かったです。銀行もテレビ局も最終まで進んだんですけど、最後にまたあの色覚検査の表が出てきたんですよ。

――健康診断ですか。


そう。それまですっかり忘れていて。そこで初めて気づくんですよ。「テレビの仕事をするのに色弱じゃ当然だめだ」って。当時は実家だったので、帰って母親に「あの表が出てきたんだよね、だからテレビ局はあきらめるわ」って言って。そのとき母親が「ごめんね」って言ってきて……。テレビ局は練習として受けていたはずなんですけど、最後まで頑張っても「結局あの色覚検査の表で終わっちゃうんだな」って思ったら悔しくて、大学生なんですけどしくしく泣いたのを覚えています。

――練習とはいえ、一生懸命に取り組んだからこその悔しさなのかもしれませんね。


銀行の人が「うちは色弱とか関係ないから」って励ましてくれて、救われた気持ちにもなりましたけど、めちゃくちゃ悔しかったですね。それでしくしく泣いた次の日、検査をしたテレビ東京の医務室から「採用に関して私に権限はないけど、色弱であることはあんまり心配しなくていいわよ」って電話があったんですよ。今はもういらっしゃらないけど、西村さんという人で。そこから1週間くらいして、最終面接に呼ばれて採用になりましたね。

――大逆転じゃないですか!


目のことで完全に閉ざされたと思っていた道が、いきなり「大丈夫」と開くことは、自分の中でかなりインパクトが強かったですね。自分のそれまでの人生を振り返ってみても、色弱であることは母親が泣いていた思い出があったり、自分にとっては切っても切り離せないことですけど、思いもよらないタイミングでそれが認められて。必要としてくれたことが非常にうれしかったです。それで、銀行の人には申し訳ないけどテレビ東京にしよう……と。

――なるほど、そうした経緯で、自分が思っていたのとは真逆の道を進むことになったんですね。


父が望んだ道とも真反対になってしまいましたけどね。テレビ東京にしたと話したら、「子会社じゃないか!」と言われましたよ(笑)。でも周りの流れに乗ってなんとなく道を選んでいたそれまでと違って、自分の意思で違う道を選んだのがこの就活だったなと今振り返れば思いますね。目のこと、父のこと、すべて含めて人生の中でかなりいい刺激を受けた時間でした。その「いろんなことに刺激を受けて成長していくこと」は、今でも大切にしていますし、役立っていると思っています。

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