卵は1日1つまではウソ? 臨床内科専門医に聞く、家庭医学の言い伝えのウソホント
近ごろ、医療ニュースなどでよく、「これまでの医療情報は間違いだった。こっちの方が正しい」と言う情報を耳にします。
「医学は日進月歩です。新しい研究データが発表されるなどして、いままでは常識とされてきた治療法が検証される事例は多数あります」と話すのは、臨床内科専門医で正木クリニック(大阪市生野区)の正木初美院長。そこで、家庭医学でのうわさの真偽について、身近なケースを聞いてみました。
■けがの傷には消毒液は不要。へそのゴマはとるほうがいい
Q1 けがをしたら消毒して乾かす方がいい?
正木医師 ×
昔は、傷に消毒液をかけてティッシュペーパーでおさえ、手であおぎながら自然と傷がふさがるまで乾かす方がいいと考えられ、家庭でも行われてきました。
ですが、消毒液は殺菌すると同時に、傷を治そうとする細胞にもダメージを与えるので、より傷の治りが遅くなることがわかっています。
出血している場合は、清潔なタオルかティッシュペーパーで直接押さえて止血します。その後、傷口に付着した土や砂、ホコリなどの異物を水道水で洗い流すだけでかまいません。
傷口からは透明の滲出液(しんしゅつえき)という体液が出てきます。これには傷を修復して、皮ふを再生するために必要な細胞が含まれています。この滲出液が傷を覆って皮ふを再生さる治療を「湿潤(しつじゅん)療法」と呼びます。傷の治りが早く、傷跡が残りにくいというメリットがあります。
水で洗い流した後は、ドラッグストアで売っている湿潤療法用のばんそうこうやパッドで患部を保護し、傷が乾かないようにします。
ただし、刺し傷や皮ふの深い位置まで切れている傷、重い火傷などの場合は、患部の深くまで雑菌が入り込んでいることがあるので、医療機関を受診しましょう。
Q2 スイカの種を飲み込むと盲腸になる?
正木医師 ×
一般的に「盲腸」と呼ばれる「急性虫垂(ちゅうすい)炎」は、盲腸の先の虫垂という部位が炎症を起こしている状態です。原因はまだ解明されていませんが、虫垂の血行が悪くなり、そこに細菌やウイルスが侵入して感染し、炎症を起こすと考えられています。
虫垂の入り口は細いのでスイカの種は入りませんし、スイカの種の皮は硬いので、ほとんど消化されずに排出されます。飲み込んだからといって急性虫垂炎になることはありえません。
Q3 へそのゴマはとってはいけない?
正木医師 ×
これまでは「へそのゴマをとったらダメ」と言われていましたが、医療の常識では「へそのゴマはとった方がよい」のです。
へそのゴマは、皮ふのアカや皮脂、石けんカスなどの汚れです。アカを放置すると、炎症が起こる、細菌が増殖する、悪臭を放つことがあります。
ベビーオイルなどをへそに数滴垂らして5~10分待ちます。汚れが浮くので綿棒で優しくお手入れしましょう。へその皮ふはデリケートなうえに腹膜と接しているので、乱暴にすると傷が付いて雑菌が入り込み化膿する恐れもあります。そっと手当てをしましょう。
Q4 卵は1日1個までしか食べてはいけない?
正木医師 ×
卵は血液中のコレステロールを上げる代表的な食材と考えられていました。
卵1個のコレステロール含有量は約200ミリグラムですが、これまで、厚生労働省による「食品からのコレステロールの1日摂取目標量」は、成人男性が750ミリグラム未満、成人女性は600ミリグラム未満、高コレステロールの人は300ミリグラムを超えないのが望ましいと設定されていました。
しかし、この目標量は撤廃されました。コレステロールの多くは肝臓など体内で作っています。食事から摂取しているのは一部であり、それが全体のコレステロール量に影響を与えるとの十分な科学的根拠が得られなかったからです。現在も未解明なことが多いのですが、1日1~2個、卵を食べても問題はないとされています。
けがの傷は洗い流して専用ばんそうこうで乾かないようにする、へそのゴマを丁寧にとるなど、さっそく実践したいと思います。
(岩田なつき/ユンブル)
取材協力・監修 正木初美氏。日本臨床内科医会専門医、大阪府内科医会理事、日本内科学会認定医、日本医師会認定スポーツ医、日本医師会認定産業医、正木クリニック院長。
正木クリニック:大阪府大阪市生野区桃谷2-18-9