残業代が支払われないときいたが、労働基準法違反では?

2015/06/12

給料・年収

いつも、楢木先生の心あふれる回答を楽しく読んでいます。今日は「残業代」の制度について教えてください。
内定先の商社ですが、残業代が支給されないと聞きました。面接の際にもそのことは言われて承諾したのですが、後から労働基準法の解説本を見て「ひょっとしたら基準法違反なのでは?」と思いました。
そのときは「裁量労働制だから」と聞いたのですが、小さな事業所なので労働組合も労使組合もないのでそもそも契約を締結できないと判ったのです。始業時間は8時半一律なので、フレックス制でもないようですし年棒制でもないようです。

こういった「残業代が支給されない」という状況はありうるのでしょうか? また法令違反だった場合、監督署に言えば是正されるのでしょうか?
私は働くと決めて気に入ってる会社が法律違反をしているなんて純粋に悲しいことだと思っているので質問させていただきました。どうかアドバイスをお願いします。



★楢木さんからのアドバイス

就業時間が決まっているのに、その時間を超えて仕事をしても残業代が出ないという会社は、あなたが思っている以上にたくさんあります。会社なりにいろいろな理由がありますが、あなたがおっしゃる通りほとんどは労働基準法違反です。
内定先が裁量労働制をとっているというのも、真偽が定かではありません。たしかに「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務」で、使用者がそのやり方や時間を具体的に指示をしないものについては裁量労働制が適用できるようになりました。しかしこれを裁量労働制とするには、労使委員会を設立し、いくつかの事項について全員一致の決議が必要で、その上決議は労働基準監督署長への提出が必要です。
ということで、あなたの内定先は残業に関して労働基準法違反の可能性が高いと思われます。少しガッカリしたでしょうね。

ところで私は労基法違反をお勧めしたり擁護するつもりはないのですが、そうせざるを得ない実態があることも肌身で承知しています。労働法は労働者を守ることが目的ですから、経営側の利害と一致しないことがたくさんあります。残業代もそのひとつとしてよく議論されます。
たとえばAさんは就業時間内に10の仕事をしたけれど、Bさんは8の仕事しかできなかったので残りの2を残業でこなした。そのためBさんの所得はAさんの2割り増し程度になった、というものです。Bさんはもちろん自分の時間をよけいに費やしたのだから残業代をもらうのが当然と考えますが、経営者はそうは思いません。能力が不足している人の方が所得が増えるし、管理費用も増大する、と考えるからです。
こうした問題が発生する背景には、人の労働価値が時間によって計られる矛盾が拡大してきたことがあげられます。たしかに昔は時間と生産性との関係が比較的わかりやすかったのですが、今では次第にわかりにくくなってきました。それはオフィス労働者が増えたこと(生産性が計りにくいですね)、技術者や研究者が増えたこと、開発業務が増えたことなどが原因です。
これらの仕事をするのに時間は必要ですが、時間と成果との間に密接な関係が描けないことがあります。そこには残業しようと思えば何時間でも残業できる条件があり、残業しないで大きな成果を上げてもその効率性は報われないという矛盾もあります。こんな中で出てきたのが、自主的な裁量労働制です。自主的ですから、もちろん労基法違反です。しかしこの動きは、労基法に裁量労働制を盛り込むための大きな圧力になりました。
法律の制定の前に違反行為があり、そのことによって法が整備されるというケースは少なくありません。この場合違反行為は、法が実態になじまないことへの呻きのようなものかも知れません。もっとも、このような呻き声があることをいいことにして、安易に違反行為に便乗する企業も少なくありません。あなたの内定先がどんなタイプであるかはわかりませんが、いずれにしても労基法違反の可能性が高いことは確かでしょう。

労働基準法や違反の実態はこのような現状ですが、さてどうしましょうか。会社に対して大した思いがないのなら、入社してから残業問題で労基署に訴え出るというのも気が重い話です。いっそ内定を辞退した方が結果的には消耗しなくて済むでしょう。
しかし、もし会社に特別な思いがあるのなら、長い月日をかけ、会社を改善する一員になることもひとつの選択かも知れません。



■回答:楢木 望(ならき のぞむ)

1948年東京生まれ、千葉大学教育学部卒業。1971年リクルート入社。「月刊就職ジャーナル」編集長など歴任。1985年にライフマネジメント研究所設立。採用・教育・就職コンサルタント。ニューズレター「採用と人材の手帖」発行人。「内定者のための学習メールマガジン」開発。メールマガジン「キャリア・キッチン」発行。http://www.lmi-tokyo.com


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