【元プロサッカー選手→腸内細菌を研究する起業家へ!?】鈴木啓太さんがセカンドキャリアを通して伝える、サッカー以外を“見る”必要性 #Rethinkパーソン

2022/10/14

社会人ライフ

スポーツ選手の「セカンドキャリア」と聞くと、監督やコーチとして次世代を指導したり、業界内で働いたりと、さまざまな道がイメージできます。

元サッカー日本代表の鈴木啓太さんは、2015年シーズンに16年間の現役生活を引退後、セカンドキャリアとして起業家への道を選択しました。

便を採取し、腸内細菌を解析・研究するAuB株式会社を設立し、7年間の研究を経て、2,200検体(950名 ・40競技)を収集。研究で得られた知見で、健康食品やサプリメントの販売、サービスの開発などを行っています。

なぜ、プロサッカー選手が腸内細菌の研究をしようと思ったのでしょうか。

鈴木さんの思いを紐解いていくと、そこにはサッカー界に対する熱い気持ちと、物事を広く観察できる“視点”の大切さが見えてきました。

→【炎上を逆手に利用?!】 AIエンジニア ✕ YouTuber TOMOKINさんが実践する「パラレルキャリア」の作り方 #Rethinkパーソン

PROFILE

鈴木 啓太 (すずきけいた)

◉――元サッカー日本代表。静岡県出身。2000年に高校を卒業すると同時に、Jリーグ浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)に加入。ボランチとして活躍し、チームの中心選手として2006年のJ1リーグ年間優勝、2007年のAFCチャンピオンズリーグ制覇などに貢献。ベストイレブンを二度獲得。日本代表では国際Aマッチ通算28試合に出場。引退後は実業家に転身し、アスリートの腸内細菌を研究しフードテック事業を展開するAuB(オーブ)株式会社の代表取締役を務める。

1.サッカー界をもっと発展させるために。セカンドキャリアで“腸内細菌”に着目したワケ

−−プロのサッカー選手として活躍していた中で、引退後のキャリアについてはどのように考えていましたか?

引退後はサッカー界に留まるのではなく、一度外に出てさまざまなことを学んでみたいと考えていました。

サッカー選手が引退を迎える年齢は、平均26〜28歳といわれています。僕は18歳でプロになり「30歳まで選手としてプレーができたらいいな」と思っていました。引退年齢が概ね予想できたこともあり、今後のキャリアについて考える機会は多かったですね。

もちろん何か明確にやりたいことが決まっていたわけではありません。先輩がどのような職業に就いているのか話を聞いたり、スポーツ選手のセカンドキャリアについて調べたりと、自分なりに引退後、どのようなことができるのか考えていたくらいです。

だた「監督を目指す」「サッカー業界で働く」といった選択肢はあったものの、僕の中ではサッカー界をより大きくするために、一度全く別の業界にチャレンジをして、さまざまな経験を積んでからサッカー界に戻りたいと思ったんです。

−−それはなぜでしょうか?

サッカー界全体の利益を上げたかったからです。当時僕が所属していたチーム、浦和レッドダイヤモンズ(浦和レッズ)は日本で一番大きなクラブチームだと言われていて、年間約80億円を売り上げる年※2007年がありました。

仮に浦和レッズの名前を聞いたことがある人が、10人に1人いるとします。日本人口の約1億2000万人の10分の1だとすると、1200万人もの人が僕たちを知っているわけです。そんな大勢の人たちから認知があるのに、利益が約80億というのは僕は少ないと感じていました。

バリューがあり、エンターテインメントとして楽しんでいただいているにも関わらず、利益が少ないままだと選手たちのキャリアにも影響しやすいですし、何よりもサッカー界が発展しません。

後輩たちにボールを繋げていくためにも、自分に何ができるのか?を考えました。そこで、サッカー界に留まるのではなく、外の世界で学んで知識を身につけ、サッカー界、スポーツ界に還元したいと思うようになり、起業を意識し始めました。

−−そうだったんですね。起業の際、なぜ“腸内細菌”の分野にフォーカスを当てたのでしょうか?

きっかけは大きく2つあります。

そもそも「サッカーと腸内細菌では畑が違うだろう」と言われることも多いのですが(笑)実は僕の中ではそれぞれ遠い話ではありません。

というのも、子どもの頃から母親に「人間は腸が一番大切だよ」と言われていたからです。サッカーを始めてプロを目指していた僕を、食事の面からサポートしてくれていました。「毎日便の状態を見なさい」と言われていたので、自然とお腹で日々のコンディションを測るようになっていましたね。

プロになってからも、腸内環境を整えるサプリメントを飲んだり、菌の繁殖を防ぐために海外遠征時には梅干しを持って行ったり。食物繊維の豊富な食材を食べる、お腹を常に温めるなど、20年以上前から「腸活」を実践。腸に意識を向けた結果、筋肉の状態が良くなりパフォーマンスの向上にも繋がって「腸内細菌って大切なんだ!」と強く実感しました。自分の実体験が印象に残っていたことが一つのきっかけです。

もう一つが、引退する少し前に、お腹の研究をしている人に出会ったことです。子どもの頃から実践していたことを研究している人がいることに興味深く、会いに行きました。そこで、「特徴的な被験者で菌を調べてみると面白いことが分かりますよ」と教えていただいて。

例えば、遺伝ではなく腸内細菌の種類によって「太りやすい・痩せやすい」が決まりやすいという実験結果があったそうなんです。そこで、特徴的な被験者とは誰だろう?と考えてみたところ「アスリート」が思い浮かびました。一般の方々と体の筋肉やパフォーマンスが違うからこそ、アスリートを研究したら何か面白いことが分かるのではないかと思いました。

この二つのきっかけによって、子どもの頃から腸を通して「これはどういうことだろう?」と考えていた疑問と、セカンドキャリアでの模索が、線で結びついたような気持ちになり、事業のテーマに決めました。

2.起業当初は苦戦の連続だった。サッカー時代の経験が今に活きていること

−−2015年の現役引退直前、AuB(オーブ)株式会社を設立した鈴木さん。起業当初は便の検体もなかなか集まらなかったものの、営業や口コミを経て活動が広がっていきました。7年間の研究を経て、現在は2,200検体(950名 ・40競技)を収集しています。起業後は初めてのことだらけで「全てが大変だった」と話します。どのように乗り越えたか教えてください。

当時は資金調達のために100社ほど訪問をしていましたがどこもダメで。「あと10ヶ月後には会社が潰れてしまうかも」というところまできていた時期もありました。そのとき、ある人に近況を聞かれたんです。「お金の問題で悩んでいます」と言うと「お前悩んでいるのか!じゃあまだ大丈夫だな」と言われて(笑)。

僕からすると眠れない日々が続いているわけです。全く大丈夫ではないのですが「悩んでいるんだったらまだ時間はある。悩んでいる間は何も起こらないから、悩む暇があるなら考えて行動しよう。何もやることがない・できない状態ではないのだから大丈夫だ」と言われたんです。その言葉によってスッと気持ちが楽になったことを覚えています。「悩むことをやめてとにかく動こう」と前向きに行動でき、危機を乗り越えられました。


※AuBで取り扱う商品ラインナップ

−−選手時代と現在で共通していることはありますか?

サッカーチームと会社の組織は、概ね一緒だと思っています。サッカーで例えると、チーム(会社)、監督(社長)、選手(社員)、他チーム(競合他社)、ファン・サポーター(市場)といったように、実は仕組みとしては会社と同じです。

自分が選手(社員)としてどのようにプレー(仕事)をすれば勝てるのか(利益を上げられるのか)を自分の頭で考えて、価値を高めない限り(スキルを磨く)組織の中での存在価値がなくなると思っています。

個人の力を磨きつつ、組織の中でどのように活躍できるのかを考えることは、今でも共通していますし、サッカー選手時代に培ってきた勝つための考え方も活きていると感じています。

そういった観点で物事を見ると、学生のみなさんが今行っている部活やアルバイト先での経験は社会に出てからも役立つと思いますよ。

3.視点の数を増やすには「自分との対話→外へ行く→自分との対話」を繰り返そう

−−サッカー界を発展させるために、一度外へ飛び出してみる道を選んだ鈴木さん。“視点”を変えることの重要性について教えてください。

物事のバランスを保つためにも「表・裏」といったような、違った視点を持つことは大切です。

全ての物事には二つ以上の見方ができると思います。大きな話で例えると、技術が発達すればするほど、地球環境への問題が浮上します。そのときに「地球のことを考えると技術を発達させ続けるのは『持続可能』な世界なのか?」といった疑問が出てきますよね。片面だけを見て物事を進めてしまうのではなく、両方を知ってから「どうバランスをとるのか」を考えないといけない世の中になってきていると思うんです。

僕の場合だと、サッカー界をよくするためにサッカーだけを考えるのではなく、外からサッカー業界はどのように見られているのか、外からサッカー界を応援するためには何が必要なのかなど、さまざまな視点から物事を考えないといけません。視点を多く持てるようになると、バランスを保った意見が伝えられて、双方に良い効果を与えられると思います。

−−視点を増やすために、学生が今から実践できることはありますか?

世の中や自分自身を知るために、まずは「外」を知りましょう。

「僕のやりたいことは〇〇だ」と思っても、そのほとんどはこれまでの自分の経験値から判断しています。もちろん自分の物差しで判断していいのですが、外へ出てさまざまな人と交流し、あらゆる場所へ行くことで、たくさんの“物差し”が増えるんです。

物差しが溜まったところで、もう一度自分と向き合ってみたときに「この考えは合っているのかな?」「もしかして△△の考え方も必要かも」といったように、新しい視点が生まれます。

その視点を持ちながら自分と対話したり、また外へ出たりすると、どんどん視点が増えていくと思いますよ。これらは時間がかかり、すぐに見えてくる人と差が出てしまうかもしれませんが「外へ行く→自問自答→外へ行く」を繰り返すことによって、視点の幅は広がるはずです。

−−ありがとうございます。最後に社会人1年目の読者へメッセージをお願いします。

社会人1年目のみなさん。もしかすると「あ〜こんなはずじゃなかった」や「思った以上に仕事が楽しい」など、さまざまな気持ちを抱えながら働いている方が多いと思います。

仕事をする中で大変なこともありますが、みなさんがこれからの社会を作っていく世代。困難にぶつかっても「大変だな〜でもこれは成長するチャンスだ!」「将来は〇〇がしたいから、勉強する機会だ」など、いい意味で楽観的に、楽しくポジティブに物事を捉えてほしいです。その姿は次の世代へのいいメッセージになると思うので、ぜひ楽しく仕事に向き合ってみてください!

取材・文:田中青紗
編集:学生の窓口編集部
取材協力:AuB株式会社
https://aub.co.jp/

関連キーワード:

関連記事

新着記事

もっと見る

HOT TOPIC話題のコンテンツ

注目キーワード

 ビジネス用語・カタカナ語80選

 キャリアロードマップの一歩目

  • ピックアップ