3年半前に傘のシェアリングサービス「アイカサ」をスタートさせ、27歳の若手起業家として注目される丸川照司さんに、これまでにない視点や考え方でイノベーションを起こす極意について話をうかがいました。
→アイカサが「2030年使い捨て 傘ゼロプロジェクト」を発表。続きはここから
PROFILE
丸川 照司 (まるかわしょうじ)
◉――1994年生まれ。埼玉県出身。ビジネスというツールによって社会課題を解決するため、2018年、株式会社Nature Innovation Groupを設立。傘のシェアリングサービス「アイカサ」をスタートさせる。
◉――現在「アイカサ」は首都圏をはじめ、鉄道沿線を中心にスポット数はおよそ1000カ所に及ぶ。アプリ登録者数は約30万人。2022年5月31日より、大手企業8社とパートナーシップを結び「2030年使い捨て 傘ゼロプロジェクト」を始動。
▼Rethink INDEX
1.ひとつの物事に、世の中のいろんなことを掛け算して考えてみる
2.「勘違いでいい」まずは走ってみることが大事
3.「いかに簡単にできるか」を考えてみる
4.問題を“グラデーション”で捉える
5.イノベーションを起こすために一度疑ってみる
私は決して「アイカサ」がイノベーティブなアイデアだと考えてはいません。そう思わないことが、自分の発想力の基準を上げてくれると感じています。
「アイカサ」のアイデアを思いついたのも、雨の日に傘を忘れるという日常によくある出来事がきっかけでした。学生時代、最寄駅から自宅まで雨に濡れて帰宅をしているとき、店の軒先にある傘立てに誰も使っていないような傘が置かれているのを見たんですね。当時の私は「この傘を借りることができればいいのに…」と感じました。傘を買うよりも借りて済むなら、そのほうがずっと素敵なんじゃないかと。「アイカサ」の始まりは、そんな些細なアイデアです。
当時でも、タイムズのカーシェアといったシェアサービスがありましたし、バンクーバーや中国などの海外では傘のシェアリングもすでにサービスとして存在していました。単純にそれを日本でもやったらいい、というのがスタートだったのです。
「世の中ではシェアリングサービスが流行っているけれど、シェアリングできるものってなんだろう?」と、100個ほどリストアップしていけば、必ず傘があがってくると思います。あとはそれをどう実現していくかを考えればいい話ですよね。ひとつの物事に、世の中のいろんなことを掛け算して考えていくと、みなさんが思うイノベーティブなアイデアというのは簡単に出てくると思います。
新しいビジネスを始めるときには、いい意味で「勘違い」をすることも大切だと思います。私が傘のシェアリングサービスを始めたのも、ある意味「できる」と思い込んでいたからです。
私は学生時代に携帯電話の営業のアルバイトをしていて周りの人に比べて営業経験があったんです。今思えば、営業ならできると思い込んでいた部分もあったのかもしれません。
100店舗の商店街があったとして、単純に考えれば1〜2週間で全店舗に訪問営業ができますよね。そのうち10店舗でもサービスを利用してくれたなら、傘のシェアリングのインフラは完成する、とその頃は本気で考えていたんです。そんな勘違いが逆に、自分を楽観的にし、突っ走ることができました。
実際に2週間でビジネスが完成したかというと、もちろんそんなことはありませんよ(笑)。訪問営業を始めてみると、店のオーナーや店長に話を聞いてもらうだけでも大変でしたし、傘のシェアリングと聞いてもあまりピンとこない方がほとんどで、説明の仕方にもかなり苦労しました。ただそういう部分も含めて無知だったからこそ、ここまでまっすぐ進んで来れたのだと思っています。
アイデアがあっても、実現に至るパーセンテージはわずか1%ほどだと聞いたことがあります。まずは試してみることを、ライトに考えてみてはいかがでしょう。特に若いうちは失敗してもそんなに大きなデメリットはありません。10回くらいトライ&エラーを繰り返してもいいので、思いついたアイデアを試してみれば、心から動きたくなるものに出会えると思います。
実行に移すのが難しいと感じる人は、どうしたら簡単にできるかを想像してみてはいかがでしょう。
物事をシンプルに考えることは、とても大切だと思います。傘のシェアリングサービスも、いきなりアプリやしっかりしたシステムを作ろうとすると、かなり難易度が高い。ですが、「とりあえず余ったビニール傘を集めて『アイカサ』のロゴシールを貼ってやればいいじゃん」くらいの気持ちで考えてみると、なんだかできる気がしませんか? コストもシールの印刷代1万円くらいしかかからないとなれば、簡単にできるんじゃないかと、ハードルがグッと下がります。
シンプルに考えた先に、更なるアイデアが生まれることもあります。
現在は、1000カ所に「アイカサ」のスポットを設置していますが、ビニール傘が買えるコンビニの数と比べると、まだ設置スポットが圧倒的に少ないという現実があります。サービスをさらに普及させるためには、どうすればいいのか? そう考えた結果、今回「2030年使い捨て 傘ゼロプロジェクト」の発足に至りました。多くのパートナー企業の協力を得ることで、「アイカサ」の設置場所が増え、雨の日にコンビニで仕方なくビニール傘を買う状況がなくなると考えています。
▼「2030年使い捨て 傘ゼロプロジェクト」発表イベントの様子
課題と直面したときには、あえて白黒つけないことが大切です。
ほとんどの物事は、白でも黒でもなく“グラデーション”で考えるべきだと思います。ビジネスにおいては、利益が出る・出ないということが重視されますが、本来、そんなに簡単な話ではありません。利益が出るとは営業利益50%なのか、利益が出ないとは0%を指しているのか? それはケースバイケースで変わってきますよね。
社会貢献活動はビジネスとして利益が出ないと言われることがありますが、それは本当なのか。「社会貢献」と「利益」という二つの軸があったとして、利益が出て社会貢献にもなるビジネスはないのか? と、考えることが大事です。
▼使い捨て傘がゼロが実現すると、CO2毎年4万トンの削減効果へと繋がる!
白黒つけずグラデーションとして捉えることで、みんなが当たり前だと思っていることに、気づきが生まれるのではないでしょうか。それが、自分だけが気付いている真実や事実であり、自分だけが生み出せる付加価値となります。視点を変えることは変化への第一歩。未来を変えるための気付きを得る瞬間だと考えています。
偉そうな人が「こうだよね」と言うと、つい同意しちゃうことってありますよね。
その時点で、もうイノベーションは起きないと思います。だからこそ、いろんな事実を疑ってみることがとても大事。以前は、車や家など単価が高いものをシェアするのがシェアリングだと言われていました。これは少し前だと、すごく当たり前に言われていたことなんです。ですが、最近では低単価のものもたくさんシェアされるようになってきて、ビジネスとして成立しています。
言われたことを考えずにただ受け取ってしまうと、新たな視点や考え方は生まれません。だからこそ、私は物事をなるべく自分の中で深堀っていくようにしています。ビジネスだけでなく、日常のさまざまなシーンでも活かせることだと思います。
例えば、「傘のシェアリングサービスは、雨の日にしか利用者がいないから1年のうち3分の1しか利益が出ないじゃん」と言われたら、確かにそうだし、納得してしまいそうになりますよね。ただ、農業を考えてみるとどうでしょう。1年の半分は収穫がないという農家もあると思いますが、ビジネスとして成立しているのは何故なのでしょう。
こうして別のことに置き換えて考えてみると、「傘のシェアリングは儲からない」というのが絶対的な考え方ではないと気付くことができます。色々な視点で物事を掛け算していくことで、新たな可能性を見出していけるのではないでしょうか。
取材・文:安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部
取材協力:株式会社Nature Innovation Group
https://www.i-kasa.com/
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