「仕事が面白くなるときって心と関係なくそうなる」。糸井重里さんに聞いた新人の仕事論。

更新:2018/11/01

社会人ライフ

「仕事が面白くなるときって心と関係なくそうなる」。糸井重里さんに聞いた新人の仕事論。

いよいよ新生活。期待が大きいほど、現実の会社生活にショックを受ける人が多いのもまた事実。そこで、主宰する『ほぼ日刊イトイ新聞』で『はたらきたい。』など働くことをテーマにした連載やイベントなどを開催する糸井重里さんに聞く「仕事」のこと。

仕事をする辛さと自分を求められない辛さを考えてみる。

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「明石屋さんまさんの修業時代、さんまさんが掃除をしているのを見て師匠が楽しいか? って聞くらしいんです。さんまさんもまだ若くて、少しつっぱったところもあるころだから『楽しくないです』って返したらしい。そしたら師匠は『そやろ。でも楽しくするんや』って言ってらっしゃったらしい。仕事って永遠にそうですよね。与えられて、やっておかなきゃいけない仕事で、楽しいと感じることなんてまずはないと思った方がいい。だから楽しくするのもしないのも、相当自分がやることだぞって思って取り組まないとダメでしょう」

仕事はあくまで能動的に取り組むべき。しかし、新人時代は仕事を覚えるためにも、まずは指示されたことをこなすことが大半だろう。そんな毎日を楽しいと思えることはほとんどないかも知れない。それを乗り越えるには、どうすればいいのだろうか。

「徹底的に向いてないことって、人はできないようになってるんです。ダメなら逃げ出すし、辞めさせてくださいって言っているはず。そんな人もいるでしょうし、否定はしません。でもそこにいて、似たようなことをやって楽しめてる人がいる。そんな様子をみて『いいな』と思えることが重要な気がします。

それに働くなって言われる辛さや、その場所がないことと比べたらずっと軽い。子供も親が編み物するときに、毛糸の玉を持っててって言われるだけですごく喜ぶでしょ。あれですよ。誰かの助けになるとか、喜んでもらうっていうのは人間の強い欲求なんです。電車に乗っていて席を譲るのもそう。ちょっと照れくさいかも知れないけど『本当に助かった』っていう人をみたらうれしいじゃないですか。まずは誰かに喜んでもらうというのが、仕事の原点なんじゃないかなぁ。

学生のときは『働かなくていい』と言われたらうれしいかも知れない。でも、誰も自分を求めてくれないって辛いものですよ。そんな風に仕事を考えてみると、いろんなことがずいぶんと楽になる気がしますね」

かの経営学の巨人・ピーター・ドラッカーは「働く」欲求は誰にでもあると言う。しかし仕事で「楽しい」と思える境地までの充実感を得られることはごく稀だ。そこで重要なのは「継続すること」だと糸井さんは語る。

「仕事が面白くなるときって心と関係なくそうなるんです。例えば僕は日々体重を管理しているんですが、日々の食事で上がったり下がったりが面白くて、旅先で測れないとちょっとさみしくなるくらいなんですね。周りでも真似して、測ってた人がいたのですが、続かないって言う。それって面白くなかったってことなんでしょうけど、僕の場合は辞めなかったから、いつの間にか楽しくなっていた。いつからそうなったのはわからないのですが、仕事もそう。『楽しい』は必ずついてくるものではないけれど、続ける力って大切ですね。それは『ほぼ日』を始める前のコピーライターって仕事も同じだったし、今もそうです」

映画の主人公でも身近な先輩でもいい。生き方をトレースしたくなる人を見つける。

「仕事をする上で、自分にとっての理想的な姿勢ってあるはずなんですよ。ただそれを見つけるには『どう仕事をするのか?』よりも『どういう人として生きていきたいのか?』と考えた方がいい。そっちの方が誰でも考えられるし、より根源的だと思うんです。

どうなりたいかは映画の中のでもいいし、身近な先輩でもいい。もしモデルケースがないんだったら、漠然と『大きい人になりたい』でも。僕はこの『大きい』っていうのが結構好きで、これには量感だけじゃない、ものがたくさん込められてる。なりたい人物像が『大きい人』だったら、なにかをするにしても、『それは小っちゃいだろ』っていうことはしないですよね。そのうち、『大きい人なんだけど、小さいこともわかる人になるか......?』なんて修正したりして。どう生きたいかは、考え直したりしながらだんだんと削り出されていくもの。

そして目標に対して『自分はできてるかな?』と、いつも自問自答してみる。そうすると現在の進歩がわかるんです」

糸井さん自身も実践したという目標設定のメソッドだ。では、新人が仕事を楽しいと感じるにはどうするべきだろうか。

「会社や仕事がどのようにして稼げるのか、考えてみるのが面白いんじゃないでしょうか。例えば自分の会社以外でも、『富士フイルム』がフィルムの需要がなくなってきているのに、なんで会社として成り立っているのかを考えてみたりしてもいい。同じように自分の仕事を理解して、まず何をすべきか考えてみるのをおすすめします」

学生時代は漠然と自己実現のための「やりたいこと」を考えてしまいがち。しかし社会の仕組みとして自身の仕事をどう捉えるべきか。それを理解することが、仕事を楽しくするための第一歩なのかもしれない。

学生時代より社会人の方が自由は増える。

多くの人が学生のころと比較して、社会人の方が拘束時間や責任が増え「自由」が減ったと嘆く。しかしその考えは間違いだと糸井さんは語る。

「社会人になったら食べ物ひとつにしても、学生時代には考えられないようなものがいくらでも食べられる。それってやっぱりお給料がもらえるから。あと意外と勘違いしがちなんですが、学生より社会人になった方が自由は増えるんです。自分で何でも決済できて、どこにでも行ける。これって子供にはできないこと。自分で決済できる数が多いほど自由。社会人だからこそできることなんです」

手帳ひとつで仕事は楽しくなる。新社会人は「ほぼ日手帳」を自由帳のように使って欲しい。

「手帳の機能として『仕事のスケジュール管理』は、相手があることだからもちろん重要です。それに加えて、その日に何を怒られたか、何を褒められたか、と日々の仕事の出来事を自由帳みたいに書きこんで、あとで読み返してみてほしいですね。なんか偉そうに書いてあったら、あとで見て『何書いてるんだ......』と(笑)。手帳って未完成品だから1年使ってやっと完成する。それを何年も繰り返して、あとで読み返す。

自分を一番応援してくれてるのは自分なんですよ。過去の自分は今を応援してくれるし、今の自分は過去にエールを返してる。それに気づけるのが手帳なんです。

あと、自分の考えや問題意識の本質にたどり着けたりもする。無意識に同じことばっかり書いてたりして......。ちなみに今年の僕の手帳はチームのことばかりで驚きます。『いかにチームでうまくやるか』『個人競技じゃなくてチームプレーだ』とか......。その時々ではすぐに忘れるんですが、書いてあるから、読み返すたびにそのときの気持ちを感じるんです」

「手帳の選び方ひとつでも仕事は楽しくなる」。と、糸井さんは言う。

「書くスペースがたっぷりあって、自分が主役っていうのが、ほぼ日手帳の最初のコンセプト。だから枠にとらわれず、使ってもらいたいですね。あと、この手帳は持ってる人をみつけると、お互いに『これ使ってる!』って会話なる。英語版もあるから、世界中で出会える手帳です。普通は持ち物が他の人と一緒になるのが嫌だと思うんですが、この手帳はなぜか『同じでうれしい』って言われるんですよ」

(文・大場庸佑)

糸井重里
1948年11月10日生まれ。コピーライター、作詞家、ゲームプロデューサーなど多彩に活躍。自身が主宰するWEBサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」は多彩なコンテンツを毎日更新。

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