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取材日:2021年9月1日
※2022年9月の「パーパス」制定に伴い、ページ内容の一部を変更していますセイコーエプソン株式会社(以下、エプソン)は、これからの社会に向けたさまざまなチャレンジを掲げています。
2021年3月、「持続可能でこころ豊かな社会の実現」に向け、
長期ビジョンを見直し、「Epson 25 Renewed」を策定しました。
また、エプソンが重視している環境問題への対応では、
2050年にカーボンマイナスと地下資源消費ゼロを目指すとし、「環境ビジョン2050」を改定しました。
これらの取り組みは、世の中にどのような影響を与えるのでしょうか?
今回は、エプソンの小川恭範社長と経済アナリスト・馬渕磨理子氏との対談を行い、エプソンが目指す未来像を探ります。
1988年にセイコーエプソン入社。TFT技術を用いて、ファクシミリの読み取り装置となるイメージセンサーの設計・生産技術を担当。1994年エプソン初のビジネスプロジェクターの商品化を実現し、2017年にはビジュアルプロダクツ事業部長に就任。2018年6月に取締役、同年10月には技術開発本部長に就任。翌年には取締役常務執行役員、ウエアラブル・産業プロダクツ事業セグメントを統括。2020年4月代表取締役社長に就任。
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、フィスコのアナリスト、日本クラウドキャピタルでは日本初のECFアナリストとして政策提言に携わる。フジテレビ「LiveNEWSα」レギュラー出演中、Yahoo!ニュース公式コメンテーター、関西テレビ「報道ランナー」。ラジオ日経レギュラー番組「馬渕磨理子の教えてベンチャー社長」
1988年にセイコーエプソン入社。ファクシミリの読み取り装置となるイメージセンサーの設計を担当。1994年エプソン初のビジネスプロジェクターの商品化を実現し、2017年にはビジュアルプロダクツ事業部長に就任。2018年6月に取締役、同年10月には技術開発本部長に就任。翌年には取締役常務執行役員、ウエアラブル・産業プロダクツ事業セグメントを統括。2020年4月代表取締役社長に就任。
京都大学公共政策大学院 修士課程を修了。トレーダーとして法人のファンド運用を担う。その後、フィスコのアナリスト、日本クラウドキャピタルでは日本初のECFアナリストとして政策提言に携わる。フジテレビ「LiveNEWSα」レギュラー出演中、Yahoo!ニュース公式コメンテーター、関西テレビ「報道ランナー」。ラジオ日経レギュラー番組「馬渕磨理子の教えてベンチャー社長」
エプソンは2016年に『「省・小・精の価値」で人やモノと情報がつながる新しい時代を創造する』をステートメントする長期ビジョン「Epson 25」をスタートしていた。
しかし、2021年3月に長期ビジョンを改定、ステートメントを『「省・小・精の技術」とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する』とし、この実現に向けた取り組みの中で「環境」「DX」「共創」を重要と位置づけ、「Epson 25 Renewed」を掲げた。
今回どのような理由で改定に至ったのだろうか。
「省・小・精の技術」とデジタル技術で人・モノ・情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する
「脱炭素」と「資源循環」に取り組むとともに、環境負荷低減を実現する商品・サービスの提供・環境技術の開発を推進する
強固なデジタルプラットフォームを構築し、人・モノ・情報をつなげ、お客様のニーズに寄り添い続けるソリューションを共創し、カスタマーサクセスに貢献する
技術、製品群をベースとし、共創の場・人材交流、コアデバイスの提供、協業・出資を通して、さまざまなパートナーと社会課題の解決につなげる
「Epson 25」では、エプソンの強みを生かし、新しい社会作りに貢献する製品・サービスの拡充などに取り組んできました。しかし、2016年時点で描いていた未来とは違った形の世の中になり、思うような成果に結びつかなかったことから、見直しを行うことになりました。
5年目という節目に見直された「Epson 25 Renewed」だが、「Epson 25」と比べて環境問題をはじめとした社会課題に対する取り組みを重視した内容になっていると小川社長は話す。
これまではどうしても売上げ優先で物事を考えていました。しかし、売上げを目標にすると長期的な視点がおろそかになってしまう。これからの社会を考えたとき、大切なのは売上げを追求することではなく、「社会課題の解決にいかに貢献できるか」という意識です。エプソンは「省・小・精の技術」という強みを持っていることもあり、「Epson 25 Renewed」では「社会課題を起点に技術を考える」という形に改めました。
エプソンは、社会課題を起点に、自社が貢献できるマテリアリティを特定しました。独自のコア技術をベースに、イノベーションを起こし、社会課題を解決する社会・環境・経済価値を創造し、提供することで持続可能でこころ豊かな社会を実現します。これはSDGs(持続可能な開発目標)と目的を同じくするものです。
2021年3月に発表された「Epson 25 Renewed」だが、リリースを見た馬渕氏は内容を見て驚いたという。
今回改定された長期ビジョンは、特に「反省から入っている」という点に率直に驚きました。 自社の過去の取り組みを辛辣に捉え、変えようとしている内容で、持続可能な社会を作ることに真摯(しんし)に取り組もうとしていると感じました。
反省がないと先に進めませんし、自分ごととして捉えられません。今回の改定ではその点を重視しました。エプソンから社外に向け発信しているように見えますが、「Epson 25 Renewed」は社内に向けたメッセージでもあります。
自社の取り組みを厳しく評価することが、会社を正しい方向に向けることにつながると話す馬渕氏。
「Epson 25 Renewed」を打ち出したことで、エプソンという企業がこれまで以上に一体となり、目標実現に向けて突き進むことだろう。
エプソンは以前からさまざまな社会課題の解決に向けて取り組んでいる。その中に2050年に「カーボンマイナス」と「地下資源(原油、金属などの枯渇性資源)消費ゼロ」の達成を目指す『環境ビジョン2050』を改定した。この取り組みについて小川社長に意気込みを聞いてみた。
エプソンは将来にわたって追求していくありたい姿として、「持続可能でこころ豊かな社会を実現する」ことを明文化しました。ありたい姿の実現には、社会が抱える課題に向き合い、今までのやり方を抜本的に変える「変革」を起こさなければ、この目標に到達できないと私たちは考えます。実現できる/できないの視点ではなく、エプソンが「ものづくり企業としてやり遂げなければならないこと」を描いたのが環境ビジョン2050です。
*1 原油、金属などの枯渇性資源
*2 SBTイニシアチブ(Science Based Targets initiative)のクライテリアに基づく科学的な知見と整合した温室効果ガスの削減目標
かつてエプソンでは「フロンレス」という難しい課題に取り組みました。1988年に世界に先駆けてフロンレスを宣言し、1993年には全世界で洗浄用特定フロンの全廃を達成しましたが、最初は社内でも「そんなことが達成できるのか」といわれていました。しかし、次第に社員の意識も変わり、改革に成功しました。
「カーボンマイナス」と「地下資源消費ゼロ」、どちらも現状では難しい課題ですが、私たちの強みとする「省・小・精の技術」、すなわち省エネルギー、省スペース(小型)、精密さは、環境負荷低減に貢献できる技術そのものであり、必ず達成できると信じています。
社員も高い意識で取り組んでいるので、どちらも実現不可能ではないと私は考えています。特に若い世代は、枠にとらわれない柔軟な考えを多く持っているので、積極的にコミュニケーションを図り、そうした考えを大切にしながら取り組むことで、新しい何かが生み出せるのではないでしょうか。
こうした社会課題解決への挑戦がエプソンの強みであると馬渕氏は考える。
環境への配慮が叫ばれる中で、製造業は苦しい状況に置かれています。その中で、実はエプソンのように具体的なビジョンを掲げている企業は少ないです。
具体的に落とし込めているからこそ、社員がビジョンの共有ができており、高い意識を持って行動できる。それこそがエプソンの強みなのだと感じました。
また、若い世代の考えや発想を柔軟に取り入れる姿勢も重要です。そうした姿勢の企業は大きく成長していくと思いますし、社長との距離が近いことも、社員にとっては刺激になりますね。
エプソンは「環境問題」に対して強い意識で取り組んでいる。大学生の皆さんが、エプソンで新しい技術を開発したい、画期的な製品を生み出したいと考えているのなら、こうした「環境への意識」は重要になるだろう。
社長との距離が近く、意見を伝えやすいことも大企業には珍しく、チャレンジのし甲斐があるのではないだろうか。
「Epson 25 Renewed」を実現させるべく、エプソンではこれまでの4つのイノベーション領域を5つに再編した。
インクジェット技術・紙再生技術とオープンなソリューションにより、環境負荷低減、生産性向上を実現し、
分散化に対応した印刷の進化を主導する
インクジェット技術と多様なソリューションにより、
印刷のデジタル化を主導し、環境負荷低減・生産性向上を実現する
環境負荷に配慮した「生産性・柔軟性が高い生産システム」を共創し、
ものづくりを革新する
感動の映像体験と快適なビジュアルコミュニケーションで人・モノ・情報・サービスをつなぎ、
「学び・働き・暮らし」を支援する
匠の技能、センシング技術を活用したソリューションを共創し、
お客様の多様なライフスタイルを彩る
1.オフィス・ホームプリンティングイノベーション
2.商業・産業プリンティングイノベーション
3.マニュファクチャリングイノベーション
4.ビジュアルイノベーション
5.ライフスタイルイノベーション
プリンティングに関わるイノベーションのうち、オフィス・ホームプリンティングでは、例えばレーザープリンターから環境負荷の低いインクジェットプリンターへ置き換えを推進しています。
商業・産業プリンティングでは、アナログ印刷からインクジェットを用いたデジタル印刷にすることで、環境負荷低減や生産性の向上を図ることができます。
テキスタイル分野のうち捺染印刷では、アナログは廃棄物が多く、環境への影響も懸念されるものでした。そこで、アナログと比べてインクのロスが少なく、洗浄のための水も不要なデジタルに換えることで、クリーンで安全な印刷環境に改善できます。また、デジタルはシルクといった天然繊維への印刷など、従来は難しかった素材にも高精細の印刷が可能です。 エプソンのインクジェット技術をはじめとした独自技術や開発力が環境負荷の軽減や印刷技術の発展に貢献しているのです。
※エプソンのインクジェット技術を生かしたプリント製品などを紹介している様子。
エプソンは、5つのイノベーション以外の新領域として「環境ビジネス」に挑戦している。
例えば、ユーグレナ社、NEC、エプソンが 「パラレジンジャパンコンソーシアム」を設立し、3社と東京大学が共同でバイオマスプラスチック※の技術開発を始めていることです。
バイオマスプラスチックの一つであるパラレジンの技術開発には微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の貯蔵多糖であるパラミロンが必要で、そのためにはミドリムシの培養が必要です。エプソンは独自の ドライファイバーテクノロジーを用い、使用済みの紙を細かいセルロース繊維に分解し酵素分解等を施すことで、ミドリムシの培養に必要な糖を作り出します。
※再生可能なバイオマス資源を原料に、化学的または生物学的に合成・処理することで得られるプラスチック。
焼却した場合でも、バイオマスのもつカーボンニュートラル性から、大気中のCO2濃度の上昇が抑えられるという特徴がある
こうしたエプソンが取り組む5つのイノベーション、また環境への取り組みを、経済アナリストとしてどのように感じているのだろうか。
5つに再編したことで、これから伸びそうな分野だけでなく、その先を見据えた分野、また環境に対する取り組みが中心など、イノベーションごとに特徴が付けられたという印象です。
「Epson 25 Renewed」と「環境ビジョン2050」という長期ビジョンは、社員やステークホルダーなど「一緒に働く仲間」を意識した取り組みが多いように感じます。株主市場主義で営業目標を優先する企業が多い中、まずは”社員”という考えがなかなかできません。一歩も二歩も先のことを見据えた企業だと感じました。
もちろん株主の皆さんも大切ですが、そのために短期的に還元することを考えてはうまくいきません。関わる人、全てにとって良い形を生み出すには、まずは社員や社会のことを考えなければいけないのです。私は、社員を大切にしながら社会貢献することが持続的な企業の成長につながり、結果として株主にも還元されると考えています。
エプソンでは社会課題の解決に向けた取り組みにより社会への貢献を考え、さまざまな企業、団体との協業も盛んに行っている。エプソンが持つ「省・小・精の技術」が、他の企業の技術・考えと交わったときにどのような化学反応が起こるのか期待したい。
持続可能な社会を作るためには若い世代の力が必要だ。小川社長はこれからの世代に何を求めるのか、学生に向けたメッセージを聞いた。
ビジネスは「戦い」という人もいますが、私はそう捉える必要はないと思います。戦いと考えると、どうしても会社という軍団で兵を育てるという考えになってしまいます。これでは目標に向かって同じ考えを共有するのは難しい。そのため、私は「こんな人がいい」という考えは持っていません。個性や多様性を大切にしたいです。
よく「学生のうちにどんなことをしておけばいいか」と聞かれますが、自分のしたいことをすればいいと思います。好きなことに真剣に取り組む力、その時に感じた思いや考えが役立ちます。ぜひ学生の内は「好きなこと」をしてください。
小川社長との対談を終えた馬渕氏には、経済アナリストの視点で、エプソンという企業の魅力や将来性を語ってもらった。
過去の取り組みを反省できることは重要で、そうした企業は長く社会にあり続けるだろうと思います。「ビジネスは戦いではない」という小川社長の言葉も印象的です。
社長自ら若い社員と積極的に交流し、若い世代の考えや発想を柔軟に取り入れていることからも、エプソンのように多様性を認めてくれる企業では、生き生きと働けるはずです。 自分らしく生きる、自分らしく働くことを重視する若い世代も増えましたが、そうした人たちにもマッチする企業だと感じました。
エプソンはこれまで掲げていた長期ビジョンを、社会課題を起点に「省・小・精の技術」を生かす形に改定。
以前のビジョンの問題点や達成できなかった課題などを反省し、より環境問題を考えたものに変えた。
「カーボンマイナス」や「地下資源消費ゼロ」といった、現状では実現が難しい課題にも挑戦している。若い世代の考えや知識を柔軟に取り入れ、社員一丸となって取り組む。
ドライファイバーテクノロジーの開発により、ほとんど水を使わずに使用済みの紙から新たな紙をつくる「乾式オフィス製紙機」など資源を循環させる技術を生み出す。積極的に他社との協業も行っており、これまでにない新しい技術を模索している。
エプソンの掲げる長期ビジョン「Epson 25 Renewed」を達成するには、やはりこれからを支える若い世代の力が求められます。
小川社長自身も若い社員と積極的に交流しており、新時代の活躍を期待しています。
提供:セイコーエプソン株式会社